様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 街を離れてから数時間、俺たちは団員(騎聖ギルド)たちの凄惨な現場にいた。
 手に負えない依頼というのがここでキラーメイラスという魔物が出現するらしい。
 国境沿いに続く道らしく、大型のキャラバンがよくここを通るので早急に片付けたい依頼だとか。
 が、ご覧の有り様である。

「酷い臭いだわ」

 死体あちこちにそのまま放置され、無惨にも胴から裂けてバラされている。
 団員たちはなすすべ無くやられたのか重厚な鎧も裂くほどの爪を持っているようだ。
 足跡にしても大の大人の足と比べるとかなり上回っている。
 相当の大きさであることは間違いない。

『大丈夫なのか?』

「これだけの大きさになると魔装なしだと一溜まりもないかもね」

 他人事みたいだけど本当に大丈夫だろうか。

 ふうと深呼吸するとルチェルは意を決したように服を脱ぎ始めた。

「お願い力を貸して」

『何か今日ははりきるね』

「本気なのよ……ちゃんと仕事しないと戦って死ぬ前に飢え死にそう」

 尤もだ。今もルチェルの状態は飢餓(小)だ。
 稼ぎがないなら死ぬだけだろう。

 俺も魔力が増えたしもう少しまともな鎧になってやろうと思ったその時遠くからおかしな声が聞こえた。

「我が名はスパァァアアアク、ジゅェルマンッ――!」

 とう! と謎の掛け声で半裸の男(何処かで聞いたことがある声)が背を向けて現れた。

「くっ! こんなところで幼気な……ぶっ――ハダカ!? しょ、少女と出会ってしまうとは! 不、ととにかくそこの君、なんだかよくわからん敵が彷徨いているから早くここから逃げな――」

 あ、こいつ北島だわ。
 仮面被って顔隠してるけど髪の毛とか声とか身体的な特徴が俺に北島だと告げている。
 おまけにパンツが日本製じゃねえか。

「ふ、ふはははは! 初めて人前にこの姿を晒したが悪くない! 悪くないゾォ!」

 ギャオギャオと遠くから凄い影が近づいてくるのが見えた。
 あれは、おそらくアレこそがキラーメイラスだ。
 まるで象並のライオンだ。

「スパァァァアアアク、じっュエェルッ!」

 バリバリと一瞬の閃光の後、ドンと凄まじい音が響いて周囲の木々が発火。
 キラーメイラスもろとも火の海に包まれた。
 ルチェルは冷静に脱いだ物を着込んでいる。

「これぞ我が力! スパアア――『もうええわ』

 俺は奴の音声受動機能だけオフにした。何気に裸のルチェルを気遣って背を向けているから全然決まらない。
 言い終わった後もちらちらこちらを気にしてるし。
 しかし北島、俺はお前にそんな趣味があるとはついぞ知らなかったぞ。
 中学の時から真面目一辺倒だったお前を誤解していた。
 パンツ1枚で仮面を被って手から雷出すとか中二を遥かに凌駕している。

 こいつは真性の 馬鹿(びょうき)だったんだ……。

 見ろ、ルチェルだって……

「スパークジュエルさん、お強いですね」

 平然としてるなおい。裸を見られたせいか、精一杯のやせ我慢が見え見えだった。

「スパークじ・ュエルマンだ」

「どうして裸なんですか?」

 これはきっと北島も聞きたかった事だろうとは思う。
 ふっと北島は仮面に指を添えて腰を折ってみせる。
 キモいからそのポーズやめれや。

「実はとある村を出てから商人と親しくなったんだが寝ている間に全て剥かれたのだよ」

 たのだよ、とか北島の台詞聞いたことないぞ……だんだん本人なのか疑いたくなってきた。う、頭がっ。

「向こうの怪物と火の処理しますね」

「うむ、臭いだけだとは思うが自由にしてくれたまへ。我が名は正義と愛の――」

 こいつスパークジュエルマンなんて通り名でヒーローにでもなるつもりなのか?
 あああ、なんとなく分かるぞ。異世界で圧倒的な力を手に入れてしまったが故にやることがなくなって正義のヒーローでもやろうかなっていういい加減な動機。
 恐らく北島は身ぐるみを剥がれてそんな単純な思考に逃避してしまったに違いない!
 くそ、なんだか羨ましいぜ。俺なんて石からどうやって抜け出るか一生懸命なのに!

「やった、労せずクエストクリアだわ」

 キラーメなんとか討伐完了。北島のインパクト強すぎて名前ど忘れしたわ。
 そして今まで死を覚悟していたルチェル……ラッキーガールすぎるだろお前。
 森の鎮火をしているルチェルの背後に北島が近づいてきた。ちなみに鎮火の方法だが、ルチェルが手をかざすと火が消える。仕組みはわからん。

「ではまた会おう。と、言いたいところだが……」

 スパークジュエルマンは両腕を抱えるようにして内股気味になった。
 分かる。寒いんだろ? お前。

「よければ何か肌に身につける者を持ってないか? このスパークジュエルマンに恩を売れば決して後悔させないぞ」

『すまん、ルチェル。ちょっといいか?』

「なに?」

『あいつはあれでも俺の……友達なんだ「え? 嘘?」そのキラーメなんとかの報酬であいつに服を買ってやってくれないか』

 そんな嫌そうな顔……すまん北島。

「まあそこまで言うなら仕方ないわね。着いてきなさい、街はすぐそこだから」

 すぐそこって距離かな?
 鼻水出してるし北島今まで何やってたんだ?

「今までどうやって生活してたの?」

 ルチェルの後ろに大人しく着いてくる 半裸男(スパークジュエルマン)。

「昨日まではもう1人の友人と共にやっていた。いや、変な意味ではない! 本当だ――あいつは」

「いいから普通に続けて」

 仮面の前に指を一本立てる北島。それなんなん?

「俺は朝起きると1人だった。その友人は正義を執行する俺とは違い、この世界で義賊をやると言って聞かなかったんだ。離反したということだ。お互い裸で語り合ったのに和解できなかったのだ……あ。違う! 裸で――「わかってるから」

 もうお前がゲイでもホモでも驚かねえよ。
 クールイケメンでもてはやされていた北島がただのパンツ男だと知ったらクラスの連中は何と思うことやら。
 まあ、すぐに戻れそうにもないし自由にやればいいか。

『ルチェル、悪いんだがもう1人の友人について聞いてくれないか』

「え、ええ」

 北島は驚いたように顔をもたげた。
 ルチェルはもう後悔し始めてるみたいだ。

「なぜ君がそんなことを? そうか、匂いだな。まあ有り体にいえば俺たちは身ぐるみを剥がれた後、彼女の予備の服を借りていたんだ。女物だったがな……だが、なんだかこう匂いにむらむらきたんで幸太と2人でその話をしてたら返せと言われて……その後は顔を見ていない」

 最低だな。
 眞鍋さんは身の危険を感じて袂を分かったわけだ。
 なんだかまざまざとその光景が浮かぶな。

 ま、まあ眞鍋さんも服だけ残して消えてやれば良心的だっただろう。
 男2人を半裸で置いていくとは……よほどあの日のことが記憶に残ってるのか。

「それで、名前を聞いてもいいだろうか」

「私? る……漆黒の魔女よ」

「ん? いや、普通の名前を知りたい」

 半裸のお前が真っ当な人間の振りすんなや。

「し、漆黒の魔女。ダークウィーラーよ」

「そうか、そういう設定か。良かろうダークウィーラー! このスパークジュエルマンがお前を仲間と認めよう……
 ――へえっくしょいッ!」

『おいおいおい、待てや。話がおかしな方向に逸れて行ってるぞ!?』

 ルチェルは小声で頭を伏せた。

「こんな男に名前を知られるなんて絶対イヤよ」

 そうかね。

「すまない、ダークウィーラー。私は寒いんで少し体を温めたい。いや、決して君に何かそれらしいことをして欲しいなどというおかしな意味ではないぞ!? たき火、そうたき火でもしたいのだ……」

 仮面がなかったらこいつどんな顔してるんだろ。
 あ、スキャンして損した気分。男の上目遣いとかめっちゃキモかった。

「森を抜ければすぐ温かくなるわ。我慢して」

「君にそう言われると我慢せざるを得ないな……」

 素直だなあ。

 景色に変わりはないが、この森は青く茂る木もあった。
 何とも不思議なところだ。
 光る岩とかもあるし、もっと観察したいな。
 お、あれは何て野草だ?

「ところで君は何故こんなところに? 俺は迷っている途中でヤツらと出遭えたんで人気の無いところに誘導していたんだが」

「えっと……散歩、というか……まあ仕事ね」

 嘘つこうとしてやめたみたいな感じは印象最悪だぞ。

「そうか、さ、散歩か……」

 そっちを拾うなよ。気を遣いすぎだ、眞鍋さんのせいでこいつなんかトラウマ抱えたんじゃないのか。

「どうして散歩に?」

 そこを掘り下げてやるな、言い直しただろ? 

「い、いろいろよ」

「そそ、そうか」

 この2人圧倒的に噛み合ってないな。
 お互いに無言になった中、北島は爆弾を投下した。

「どうして君も裸だったんだい?」

「……」

 ルチェルはこれには完全無視だ。
 まあ、あの魔装を見られるのと裸を見られるのどちらがいいかと問われたら大部分の女子は沈黙するだろうな。

 結局北島のせいでこの帰路は面白くないものになってしまった。
 もちろん、街に入るなり衛兵には指を指して笑われた北島だ。
 もはや彼の精神は神の領域に達しているんじゃないだろうか。

 ルチェルは北島を裏路地に残して律儀にもギルドに報告に行った。
 俺はなんとも複雑な気持ちでルチェルの換金作業を見ていたが、受付嬢も冷静に報酬を支払ったのを見てひとまず安心する。

「500メランか……」

 10メランのときよりは比較的大きめの金貨が5枚。
 それが5枚で500メランらしい。

 その足でルチェルは裏路地にいる北島に会いに行った。

「おお、友よ」

「何が友よ、やめて」

「はい」

 北島は仮面さえ脱いでなかったが、少し恥ずかしそうに胸を腕で隠していた。
 普通の北島に戻りつつあるようだ。流石に街の人間に見られては羞恥が抑えきれなかったのかも知れない。

「着いてきて」

「はい」

 大人しく仕立て屋に行くと奴隷に着せるならこれだといきなり麻の服を出してきた店主にルチェルは二言返事で買い取った。

「ほら、服よ」

「ありがとう、ありがとう」

 北島……お前って奴は。
 俺は北島に得体の知れない同情心を覚えながらそれでも人権を取り戻したことに安堵する。
 奴隷服を着込んだ北島はその辺で見る乞食と同じ服装になった。ちょっと小綺麗な乞食だ。

「迷惑だろうから俺はこれで失礼するよ」

「待って、あなたは魔法使いなの?」

「いいや違うよ。それじゃ」

「ええ」

 何とも素っ気ない別れだった。
 北島もこれ以上お互い裸で出遭った少女と親睦を深めるつもりはないようだった。
 当たり前か。お互いに酷いところを見せ合いすぎたのだ。
 北島は絶対ルチェルが森で裸になることに何らかの意味を憶測したに違いない。
 頭の回るあいつのことだし、何かえっちな方向で解釈したんじゃないだろうか。

 もういいや、ここであったことは忘れよう。

「久々にお腹いっぱいになれそう」

 ルチェルは意気揚々としているが……もし北島がいなかったらルチェルは今頃どうなっていたんだろう?
 俺のEメーターはほとんど空だ。
 なぜか北島の裸体を見ていたらゴリゴリ削れていった。
 これをルチェルに伝えるべきなんだろうか……。

 俺はルチェルのお腹いっぱいの笑みを見ながら思案していた。


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