様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「し、仕事がないですって?」

 飢餓(小)を回復したルチェルは泡銭を失った3日後、再び騎聖ギルドを訪れていた。

「ええ、前回のキラーメイラスが問題の依頼だっただけですので今はルチェル様に行って頂く依頼はございません」

 信じられないといった顔でルチェルは受付嬢の顔を見ていた。

「不公平よ、依頼ならいくらでもあるでしょう」

「ですから人外の魔女様にして頂くような高度な依頼はございません」

「……」

 人外と言われたことに堪えたのかルチェルは視線を下げて顔を固めて外に出た。
 人通りに出ると目尻からほろほろと銀色の雫が落ちる。

『泣くな』

 昨日から調子を崩しているのでスキャンしてみたらなんと女の子日をやっていた。
 口には出さないけどルチェルは結構重い方らしく、時々辛そうな息を吐く。

「うるさいわね、私が人外ってあいつらどうかしてるわよっ……魔物と同じって言ったんだからっ」

『ルチェルを見て可愛いと思っても人外だなんて誰も思わないよ』

 お金がたくさんあった時のルチェルの笑った顔を見た後ではな。

「え、今なんて言ったの?」

『人外だなんて誰も思わないって』

「その前よ」

『ルチェルは可愛い?』

「ほんとうに!?」

 そんなに驚くところか? お世辞じゃなく外見は良いと思うけど……ああ、そうかカナリアの方がルチェルより遥かに美人だわ。
 ただまあ、あっちは美人であってルチェルのようなあどけなさはないか。

「いつもカナリアが私は可愛くないって言うからそうなんだと思ってた」

 なぜかその日のルチェルはそれはもう精力的に仕事を探した。
 鍛冶屋の鉄鉱運びなんて真面目にやろうとしたくらいだ。
 でもそれは魔女の本業とは違うと思いとどまっていた。
 街では脅威がいないので、村に行かないとならないという結論に達して夜を迎えたのだった。

「宿代も無駄になりそうね」

 5日で安くするというオーナーの提案に乗ったルチェルは5日分の宿を取っている。
 明日出発すると最後の一泊が浮いてしまう計算だ。
 ルチェルはそのままベッドに横たわって宙を眺めている。

「お腹減った……」

 くうと昼過ぎから何度も鳴く腹に俺もいい加減耳障りと感じて来たところだ。

『ティアって魔女に金か食べ物を強請ったらどうだ?』

「あり得ないわ、魔女に頼み事なんかしたらどんな対価を要求されるか」

『でも異空間は繋げて貰えたじゃんか』

「……自分の手駒が増えることを喜ばない魔女はいないわよ」

 もう寝ると言い出したルチェルに合わせて俺も休むことにする。



 朝起きてビックリ仰天。
 ルチェルがくねくね動いてうるさいので視点を移動してみたら縄で縛られていた。
 なんともあられもない姿で後ろ手に腕を縛り上げられ、両足もぐるぐると巻かれ身ぐるみを剥がれるまさにその瞬間だった。

「宝石を身につけて歩くなんて随分な身分じゃねえか」

「気をつけろ、魔女かもしれん」

「魔女がこんな汚え宝石を持ってるわけがねえ」

「「それもそうか(そうだな)」」

 男の数は4人。
 1人は馬を引いてもう3人は隠された荷台の中でルチェルを取り囲んでいる。
 藁がたくさん敷いてあるからたぶん、こいつらのものではないのだろう。

「そろそろ街はでたか?」

 俺を掴んでルチェルから切り離した賊は汚い顔でじろじろと俺を見つめる。

「売れなさそうだな」

「一応鑑定して貰えよ」

「分かってるさ」

 そのまま臭いポケットに突っ込まれた俺はとりあえずどうすることもできないのでルチェルを観察。
 すまんけど本当に何もできんわ。

「んんぅ――!」

 さて、ここ1週間近いルチェルとの旅で分かったことはルチェルは恐ろしく弱いということだ。
 魔女というのは象並のライオンを屠ったり馬鹿でかい蜘蛛を駆除したりと、その本職は戦闘力にあるらしいのにルチェルにはそれがない。
 その原因の一端を担っているのが俺だ。

 魔女は魔石を触媒にすることで莫大な魔力を得る。
 カナリアがやっていたような空気槍や人間離れした身体能力もそれのおかげだ。
 ところがルチェルはどうだ?
 俺から魔力を引き出すような格好だ。
 しかもその魔力は決して莫大などという量ではない。

 試しにポケットからこいつの肉体をそのまま素材にしてやろうと思ったが還元限度というものがあるらしく、生の人間は大きすぎるみたいだ。
 そりゃいきなりこんな大人を素材にできたら俺も怖いわ。

「なあ、少し愉しまねえか?」

「ああ? 俺は昨日久々にいい女とやれたんだ。次の日にこんな奴とやったら気分が悪くなる」

「俺もこんなガキの乳した女にゃ興味がねえな。やっぱしゃぶれるくらいねえと」

 ゲハハハと酷い笑い声に言い出した男も流石に萎えたようだ。
 貞操は大丈夫そうか?

「でもあれだな、金目の物は全部貰って置いてもいいかもしれんな」

「ひん剥いてみるか……気乗りしねえが、裸で差し出しても文句は言われねえだろう」

「おい、いたずらしてやろうぜ」

 こいつらガキか? 何かルチェルの足をくすぐり始めた。

「んんぅ−! んうー!」

「おい! そっちを抑えてろ!」

「よしきた!」

 何という拷問だ。
 むさい男にこちょばされ続けるルチェル。扱いが完全に玩具だ。
 荒い息を漏らしながらルチェルは必死に耐えている。
 ルチェルの反応が薄くなると男たちは飽きたようだ。

「おいちょっと触って見ろよコイツのこの胸! まるで男の胸板を触ってるみたいだぜ!」

「こんな残念な女もいたもんなんだな。おいちゃんとアソコも確認しようぜ!」

「匂いはメスっぽいが……うわっ、ノンケだよ」

「お前ロリコンだったか?」

「いいや? サモジならこいつでもいけたんだろうが、この腰のくびれの無さははっきり言って有罪だな。まるで勃たん」

「チンコの絵でも描くか」

 馬車の中は大爆笑だ。

 股間に逞しくいきり立った男のそれを描かれたルチェル。その塗料はどこから持ってきたんだ?
 まあとにかく違う意味でムカついてきた。

「着いたぞ」

 馬車が止まるとすっかり衣服を乱したぐちゃぐちゃのルチェルを置いて男たちが外に出る。
 犯されなくて良かったな、ルチェル……。

「お待ちしてましたよ、皆さん」

 どこぞの森の入り口だろうか。
 周囲に人の気配はなく、小川の音が聞こえる。
 立っているのは少し小太りした男で眉は垂れ下がりいかにも商人風の男だった。

 それにしても今日は良く晴れているなあ。

「例の女は運んできたぜ。荷台を見たら報酬を寄越せ」

 男は頬を上げながら荷台を覗く。
 後方を4人に取り囲まれた男はどこかで見た顔だった。

「金はここに」

「うひょー! これでまた女を漁れるぜ!」

「バァカ! 装備を調えて村からかっ攫うんだよ!」

「あんな糞みてぇな女を見た後だととびきり上等なのを捕まえねえとな」

「しわっ皺の婆の方がマシだよな」

「垂れ乳があるもんな!」

 男たちは大笑いしながら馬車を置いて森の中へ。
 おい待て、それはまずい。これからしわっ皺の婆との絡みには少し興味をそそられるが、いやそそられないけどルチェルが心配だ。
 一応ルチェルの拷問を見て少し溜まったEメーターを使ってポケットから這い出た俺は蛇のように森を進んで男の元まで戻った。

「ふん、盗賊紛いのゴミが」

 その意見には同意する。
 で、この男の正体だがどうやら前に会った商人らしいということを思い出した。
 剣を預けるとか何とか言っていたあいつだ。

「な……この女」

 気づいたか。ルチェルの今の装備は皆無だ。
 慌てた様子で男に口布を取られるとルチェルはくぐもった声を上げた。

「相当手ひどくやられたようだが、1つ聞く。あの短剣はどうした」

 やっぱりそれなのか。

「ん、んん……たん?」

「短剣だ、俺がお前に渡しただろう!」

 揺すられている間に荷台に乗り込む俺。
 もう少しでルチェルのポケットの中に入れそうだ。

「ッチ! このクソアマが!」

 無いことを悟ったのだろう。

「何処に売った!?」

「武器屋に……」

「なにぃ!? もう溶かされたか……クソ! お前を奴隷商に売り飛ばしてやるっ」

 大変なことになってきた……Eメーターを使い切りそうだ。
 商人は馬車の荷台に乗り込むと何処かに向けて全速力で走らせ始めた。
 恐らく今キスをしても脱出できるだけの魔力は得られないのでは……ちくしょう、やっぱりそうか……!
 俺の存在に気づいたのかルチェルは目を見開いた。
 ルチェルが何度も口づけしてくるのでEメーターが少し伸びる。必死さが普通じゃない。
 俺も魔装をイメージするが……出来ない。なぜだ?

 今までここまで空になることはなかったからか。あるいはルチェルの側に問題があるのか?
 ルチェルは縛られた後ろ手で俺を弄り始めた。
 恐らく魔装は無理だと諦めたのだ。

『すまん、魔装が出ない』

「私のせいだから」

 爪で引っ掻くようにして魔石をペンダントから取り出そうとしているルチェルは青白い顔をしている。
 その手は見るからに震えていてとてもじゃないが器用なルチェルとはほど遠い。

「昔のことなのに……くそ……くそっ」

 また泣き始めた。
 でもいつもとは違う。様子がおかしい。
 いつもなら泣いても声には絶対に出さないのにルチェルは嗚咽から絶叫のように喉を震わせて泣いていた。

「うわああああああ――!! やだっ、やだぁぁあああ! 食べないでぇえぇええ――!!」

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)。
 俺は現実世界で割と一般的になった精神病がふと頭に浮かんだ。
 かつて中学時代に親から虐待を受けていた子供が時折泣き叫んだりすることがあった。
 あまりの奇行ぶりに生徒たちが戸惑いPTAで問題になったために生徒にPTSDについて学ぶ道徳時間が設けられたほどだ。
 その生徒は転校していったが……。

 とにかく俺は急いで昨日まで溜めていた6ポイントをルチェルの技能に振ろうと試みる。
 問題はポイントを精神力値かストレス耐性値に振るかで迷う。
 しかし、実際いくつまで振ればルチェルの精神が安定するのかわからない。

『ルチェル、落ち着け! 誰も食われたりなんかしない!』

 声を掛けてみるがルチェルは体を固く丸めて焦点の定まらない視線で横たわっている。

「死んでるよ……死んでるのに……」

 もはや笑ってるのか泣いてるのかわからないような状態だ。
 これが人間がマジで狂った状態なのか? 怖すぎる。

 俺は精神力に6ポイント振ってみた。
 ルチェルは少しぼんやりとして譫言を漏らすことはなくなったようだ。
 これで正しかったに違いない。

 馬車は何時間かしてどこかに停止した。
 その頃にはルチェルも状況を把握できるようになってきたか、俺の呼びかけに応えるようになっていた。

「嫌かも知れないけど口の中に隠れてくれる?」

『別に嫌じゃないよ』

 それくらいしかないだろうしな。
 宝石なんか見られたら奪われておしまいだ。

 俺はルチェルの口の中に入ると舌の上で鎮座する。
 かなりくすぐったい感じだ。
 背中や胸が大きな舌で舐め回されているような……俺の体って本当に石なんだな。

「来い、クソ女」

 足の縄を切られて首に掛けられたロープを引かれるルチェルはまさに奴隷そのものだ。
 どうしてこんなことに。


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