様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 翌日。
 ハクとシュレが極東から貿易船に乗り去ろうとしている頃、北島とキンニズムは

「今の見たか?」

「見たでござる」

「お供するでござるよ」

 北島は世界に自分を知って貰うことをキンニズムを通じて知ったのだ。
 勢いよくハクたちの後を追った。
 特にシュレに対して感情を抱いていたわけではないが、シュレとハクの関係を少なからず知った北島はその衝動を抑えられなかった。



 ハクたちは貿易船で1週間かけて、大陸に渡った。
 そしてお金を両替することにした。
 さすがにこの大陸で極東のお金が使えるとは思わないからである。



 俺たちは今クリストラの街にある貸家で正座している。
 ただし、北島とキンニズムは服を着ていた。
 なんでこうなったかって、貿易船で大陸まで渡り、そこからクリストア山まで行くと北島達が追いかけていることに気づいて一緒に合流してパーティーを組んでいたのが悪かったのか。そして北島達に討伐命令を出した連中がいるからさ。

【急募・討伐】クリストア山に裸族出没。

 確かこんな名目だったと説明された。

「私達だったから良かったけど、他の人だったら殺されてたかもしれないんだよ?」

 眞鍋立夏。
 お堅い風紀委員タイプだ。実際は学級副委員長だった。
 ちなみに北島が委員長本人である。
 眞鍋の隣に立って冷めた視線を投げかけるのは北島の妹。双子の妹だが、全然似ていない。
 黒いロングはさらさらしていて童顔。
 知的な顔のイメージを裏切らないニヒルな性格で一部から絶大なクール萌え受けしている女子である。
 そして栗色の少女がいた。ご存知ルチェルである。

 どういうわけかこの街には2人のクラスメイトとルチェルがいた。

「ハクとその子の関係は何なの?」

 とルチェルに詰め寄られた。

「・・・旅仲間でしょうか?」

 とシュレが疑問符を浮かべた。

「どちらかというと恋人が近い」

「・・・こいびと」

 その言葉でシュレが顔を赤くする。
 ルチェルも絶句していた。

「狭間君・・・いつの間にロリコンになったの?」

「待て、ロリコンになったわけではない」

「ロリコンとは何でしょうか?」

 シュレが疑問の声を上げる。
 さすがに彼女たちもシュレに答えるの躊躇していた。

「私の兄はこの世界に来てクズを極めた。だから兄妹の縁を切った。なのにまた迷惑を掛けられた。……生かしておけない」

「おいおいおいおいおい! 綾芽? それは薄情だ、一緒におむつ取り替えられたりお風呂に入った仲だろ? あんまりだ」

「私にとって兄との記憶は消したいものばかりしかない。私の性格がこんなになったのも全部お前のせいだ」

 なんなんだ?
 この兄妹の軋轢は相当根深いものがありそうだぞ。
 恨み節は相当なものなのか声に籠もっている力が腹の底から出ている。

「綾芽、殺すとかその辺にして……殺すなら他の人に任せれば良かったんだから」

「でも自分の手でやらないと安心できない……」

 まじで腹から出す声が怖えぇ……。
 本気で殺す気かよ。
 異世界だからそれもOKか?
 いやまてよ、北島は死なないんじゃ無かったか。

「えっと、シュレちゃんだっけ」

「はい、そうです」

「狭間のどこがいいの」

「何の関係もないのにお兄様を助けてくれました。私の知らないこともいろいろ教えてくれました」

 その言葉に眞鍋はよろめいた。
 静かに頷くシュレに眞鍋は小さく笑った。

「はは、そんな作り話信じないわよ」

「ルチェルさんもハク様に助けられたのではないのですか」

「う、それはそうだけど・・・・」

「ルチェルちゃんも助けられたの」

「・・・うん」

「狭間君はどうして北島と一緒にいたの?」

「たまたまあの山にいたので合流しただけだ」

「なるほど・・・北島は」

「悪人を裁きたかった。正義の執行だよ」

「裸で?」

 北島は両腕を後ろに縛られながら舌打ちする。

「これだから女は……裸にならなきゃ何が正義かわかるかよ」

「分かるわよ、悪いことしてる人が悪で良いことしてる人が正義よ」

 眞鍋は挑発的だ。禍根を残して別れたせいだろうか。

「例えばだ、お前1人の力で10人救えたとする。そしてその代償に5人の命を諦めなければならないときお前は即断できるのか?」

「15人救う道を考えるわよ」

「違ぇ、そういうことを言ってんじゃねえんだよ」

 北島はいつかのダークサイドに陥っている。
 綾芽も華奢な腕を額に立てて頭を振っていた。

「いいか? 海のど真ん中で漂流中に食料がないまま飢え死にそうだってときに仲間が死にかけてたらそいつを食うか? 生き残るために犠牲を払うのは正義か? いつだって俺はその選択に悩んで悩んで悩み抜いて裸になったんだ。裸になれば分かるんだ、今日までの俺の幸福は誰のために使うべきかってな。死にかかってる奴のためだろ? 生き延びることを正義とするやつこそが俺にとっての悪なんだよ」

 なんか格好良いこといってるけど下半身がモロ見えだから説得力ないよ。半勃起させやがって。
 北島の正義論も面白いが、俺はそろそろ脚が痺れてきたぞ。

「もういいわ、北島お願いだから服を着て頂戴。この世界で本気で国際指名手配されたいの? 今ならまだ人間社会に戻れるから」

 まるでオオカミに育てられた少年みたいな扱いだな。

「服だぁ? この世界の服は着てると背中中に虫酸が走るんだよ」

「……」

 北島は縛られたまま立ち上がって行ってしまった。

「2人ともごめんね。北島に付き合わされてただけなんでしょう?」

「そうだけど」

 綾芽は俺たちのロープをほどいてくれた。

「兄が迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑じゃないよ、でも俺が思うに北島は強すぎる力を持てあましているような気がする。裸はきっと理性を保つためなんだよ」

 しばらく一緒にいてわかったのはそれくらいだ。
 北島は事あるごとにあの雷を出して自分の存在そのものに怯えているように見えた。

 下手すれば誰でもなりふり構わず屈服させることができてしまうほどの力。
 誰も敵わないであろう力。
 北島は孤独に違いない。だからこそ、その不安をああして脱いで侮辱の視線を受けることで紛らわせていたのだ。
 自分は人間だと自分自身に言い聞かせるために。

「兄は根っからの変態だった。6歳の初詣で私は人混みの中に置き去りにされて怪しいおじさんに連れて行かれそうになったところを兄がやってきておじさんからお金を強請った。8歳になるといつの間にかしらない事務所に入団させられてお小遣いの足しにされた。13歳の誕生日に私は下着をオークションに転売されたお金で兄からプレゼントをもらったりもした」

「もういいから綾芽」

 無言で綾芽を抱く眞鍋さん。
 何かこの2人の関係が見えない。
 北島は綾芽に一体何をしてきたんだ?

「とりあえず、みんなは私が世話するからそのつもりでいて」

「裸にならないようにか」

「ええ」

 怒気を孕んだ眞鍋の声が怖い。
 クリストアの活気は窓の外から響いていた。


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