様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 突然魔女たちは街に火を放ち始めた。
 ルチェルは驚いて魔女たちからは一旦遠ざかったものの、俺は視点をなるべく遠くへ移して状況を見ているような格好だ。

 どうやら抵抗する者はこれを力尽くで追い出し、逃げ惑う者は遠くへとゲートを使って飛ばしているようだ。
 こんな作戦、仮にこれで被害がなかったとしても悪者は全部魔女になってしまうだろう。
 どうしてもっと利口な方法が思い付かなかったんだろうか。

 ついでに俺はルチェルにEメーターがなければ魔装は出来ないことを伝えていた。
 カナリアに付きまとわれて今ではすっかり意気消沈している。

「素材? 素材って何よ」

 小声で俺に尋ねてくるルチェルは必死だ。
 魔装できないこと以上に命の危険もあるだろう。

『その辺にあるものなんでもだよ。出来れば希少価値の高いもの方がいい』

 希少価値なんてそもそも関係あるのかわからないが、ゲームではだいたいそうだから言ってみただけだ。
 カナリアの方はかなり訝しんでいる様子。
 鳶色の瞳がじとっと薄くなっている。

「何、あなたまさか……」

 ルチェルは躊躇うこと無く空き家に押し入った。
 カナリアの目が見開かれる。

 周囲では煙も上がり、今や家にいるのは子供か女ばかり。
 ルチェルはその1つに入って行ったのだ。

「混乱に乗じて金目の物をくすねるなんて流石ランク50ね!」

「うっさい、事情があるのよ」

「分かるわよ、魔女の中で一番お金が無さそうだし……あ、これなんかどう?」

 カナリアは何の変哲も無いブレスレットを見つけた。

「それは?」

「多分、結婚腕輪よ。ほらここに名前が刻印されてるでしょ、きっとお金になるわよ」

 ルチェルは希少性ばっちりとでも思ったに違いない。
 俺にそれを押しつけてくる。
【魔力変換しますか】【経験値変換しますか】【魔装変換しますか】
 装備変換――!?

 ルチェルの様子を見てくすくすしているカナリア。こいつ絶対性格悪いよ。

『ただの木だ。それはやめよう!』

 俺はひとまず何もなさそうなこの家を諦めてもっと大きな家、もしくは宝石や武器の店を勧めた。

 通りはもう既に人の気配がなくなっており、魔女たちが精力的に住人を避難させているのがわかる。

「あ、あそこ!」

 ルチェルが指さした先には武器屋の看板。
 少し嫌な予感がした。
 人がいないことで安心しきったルチェルが突撃するといきなり後ろのカナリアに突き飛ばされる。
 頭が1つ下がったところを巨大な鉄塊が通り過ぎて扉の端が粉々に砕けた。
 全て俺が声を上げるより先に起こってしまった。

「ッチィ! 外したかっ!」

 なんと武器屋の店主健在である。

「なっ、なな……」

 ルチェルはあわや死ぬところだった。
 仮に生きていたとしても顔面粉砕は免れなかっただろう。

「おめえら、俺の武器には指一本触れさせねえぞ!」

 すみません、それを奪いに来ました。
 店主の親父はえらく筋肉隆々とした小太りな男だった。
 中年というか、働き盛りとでも言うのかな。
 とにかく力では絶対適わないと思う。

「おめえらが魔女だろ? この街にふざけたことしてくれやがって……」

「誤解でしょ。私たちはこの街に襲ってくるアンタイラントを狩るために来てるのよ。あなたたち人間を守ってるのよ」

「なあにがアンタイラントだ。あんなもんダンジョンの中だけの怪物だ。でたらめいうんじゃねえ!」

 だめだ。今にも鉄塊の付いた棒を振り回しそうで危険だ。
 ルチェルに何かあっても今の俺じゃ何もできはしない。

『一旦逃げよう』

「え、でも……」

 そうだ、ルチェルにとってはここにあるものが死活問題で、逃げるも死、立ち向かうも死か。
 詰んだのか?

「疑うなら外に出て見てみなさい。すぐにやってくるわよ!」

 カナリアの声は確かに男にもよく届いていた。
 男は武器を下げると唾を吐き捨てる。

「こんなちんまいのが魔女だなんて世の中どうかしてるぜ」

 男が窓の外を覗く。
 いや、正確には窓を開けた瞬間だった。
 何か途方もない振動音が大きくなってくるのが分かる。

「なに、この音……」

 確認するまでもなくその音は空を揺るがしている。
 まるでヘリコプターか重機の音だ。

「ど、ドラゴンだ!?」

 男が遠くを指さしてそう言ったのも無理はない。
 青空に浮かぶそのシルエットは蟻のものなんかじゃない。
 カナリアもそれを見て息を呑んだ。

「うそ、どういうこと? 進化してるじゃない――」

 蟻は繁殖期になると羽の生えた個体が出現する。
 俺も男の子の端くれとしてそれくらいは知っているが、あれはまさにそういうものの群れだった。

「明日の朝って話だったわよね?」

「そう聞いてるけど」

 ルチェルも窓の外を見上げる。
 まだ1匹2匹が飛んできているだけだ。
 スキャンしてみると普通乗用車と同程度の大きさがあることが分かった。
 これが4億いるとしたらそれだけでこの街は……。

「私先に行くわ。ルチェル、魔装はまた今度ね」

「き、気をつけてね」

 良かったな、見られなくて……。
 俺は店内の武器をくまなく見てみるが、絶好の素材ということを既にスキャン済みだ。
 何が絶好かってこの武器をそのまま魔装として強化出現させることが可能だからだ。
 イメージして造り上げるよりも何倍も楽だし早い。

『ルチェル、好きな武器を俺にかざしてくれ』

 やっぱり【魔装変換】が出る。ルチェルが店内を物色すると男が慌てて戻って来た。

「おいおいおい! 勝手なことをするな! これは商品だぞ! 欲しけりゃ金を払え」

『こいつ何とか出来ないのか、ルチェル』

「無理よ、お金もないし魔女は人間に危害を加えることは禁止されてるもん」

 ティアはどうなんだと一瞬頭を過ぎったが今はそんな場合じゃない。

 考え倦ねているうちにルチェルは店から摘まみ出されてしまった。
 襟首を掴まれてひぐっと声を上げた途端にポイだ。

『もういい、防具屋だ。防具だけでも手に入れるんだ』

「え、なんで防具? 素材じゃないの?」

『素材と同時に魔装になるからだよ、ついさっき発見した』

 それでルチェルも目の色が変わった。
 街の防具屋は幸いなことに武器屋からそう遠くない場所だってことがわかった。
 視点移動マジで千里眼。助かったぜ。

 意外にも他の魔女たちが多いと思ったら隣の洋服店や宝石店を漁っていた。マジで空き巣強盗じゃん。

「うわ、何ここ」

 どうやら防具屋は既に物盗りにあったのか店の中は荒らされている。
 魔女の仕業というか、これは……奥で老人が死んでいる。……魔女じゃない?

『どうやらここは防具屋の小売り店みたいだな』

「こうり? なにそれ」

『頼まれた商品を売る店さ。奥で老人が死んでる』

 ルチェルは軽く喉を鳴らすように息を潜めて慎重に落ちている防具を拾っていく。

 外での騒ぎは次第に大きくなっている。
 あまり時間は残されていないようだ。

「これなんかどう?」

『もう少しガチガチに固めたらどうだ? ルチェルは戦闘経験ないんだろ?』

「でも、あんなでかい敵に接近戦なんて無理よ」

 俺だって無理だ。
 熊を相手にするより怖い。

『わかった。それでいこう』

 選んだのは比較的損壊の少ない胸当てと腰当てだ。
 素材として取り込むと案の定、期待を裏切らないグレードでその材質は皮と鉄以外に際立ったものはない。
 つまり一般的な防具。
 俺はこれに魔装変換を行う。

【魔装にするためにはポイントが必要です】

 なん……だと……。
 ここにきてまさかのポイント催促。
 取り溜めてあるポイントは今のところ……お、3ポイントある。
 それ以外にも貯めていたポイントが17ポイントある。
 奇蹟だなこれは……。
 2ポイント支払うと魔装できるようだ。
 というより胸当てと腰当てでどうやら1ポイントのようだ。

【一般的防具】
・防御力補正+0
(・打撃・刺撃・斬撃・魔法攻撃・状態攻撃……etc)
・動きやすさ補正+0
・体幹補正+0
・着心地補正+0
・筋力補正+0
・着脱補正+0
(以下略)……項目多すぎ。

 後はEメーターだ。
 ルチェルに手当たり次第にその辺の防具に俺をかざすよう頼み、魔力変換していく。
 ポイントが必要な魔装ならもう他の防具をストックすることもできない。
 ブーツに関して

「ブーツも魔装するから、どれか自分に合うものを着てほしい」

「うん」

 ブーツを魔装にして、残りのブーツは全部魔力だ。

 おかげで何とかEメーターが半分くらい溜まった。

『よし、いつでもいける』

「じゃ、じゃあ……」

 ルチェルが俺に口づけしようとしたとき、地面が揺れて部屋が崩れた。
 足下を取られてルチェルは俺を手放したと同時、ルチェルの頭上に黒い塊が降ってくるのが見えた。


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