黒い塊は木片を飛び散らかして床に埋没した。
幸いにもルチェルは吹き飛ばされたので潰されることはなかったものの、本当に危なかった。
「……」
危なかった?
俺はスキャンを行ってルチェルの状態を確認すると、ひとまず怪我はない。
それでも失神しているようだ。
アンタイラントと呼ばれる巨大蟻は羽を折りたたむとこちらに視線を向けた。
何で気づくかな。
木片をはじき飛ばしながら這い出ようとしている。
俺は急いで魔装を展開するためにルチェルに近づく。
もうこうなったらなるようになれだ。
正直守る義理も怪しいところだが、こんな死に方をされたんじゃ目覚めが悪い。
なんとかルチェルの口元まで辿り着くと息はあった。ひとまず安心だ。
魔装展開……成功してくれと願いながら唇と接触する。
ルチェルの体に吸い付くような感覚が全身に走り、俺の視界はルチェルの背後に――え?
突如背中に気配を感じた俺は咄嗟にその場を飛び退いた。
遅れて爆音が背後から聞こえて街路地に投げ出される。
4,5回転がって起き上がると全身がずきずき痛むしアソコはじわじわ温かかった。
『痛ってぇ――普通に痛てぇ』
体を動かしてみるとなんだか不思議な感じだ。自分とはかなり違う気がする。
『なんだこりゃ』
「え? 何が起こったの?」
まさかこれルチェルの視界か!?
声がまさに自分の中からしている!
『魔装をしたんだ!』
「ちょっと待って! 私自分の体動かせない……」
無茶苦茶じゃねえか。
俺はルチェルの視界と体の操作権を奪っているってことか?
だめだ、敵が来る!
俺は巨大蟻の突進を予見して物陰に飛び込んだ。
『Eメーター見えるか? 俺の視界から消えちまった!』
「え。なに? メーターって?」
どうなってんだ、とにかく整理しよう。
『ルチェル、お前今何見えてる?』
「物陰の樽よ。自分の体じゃないみたい……手も足も動かせないの」
やっぱりそうか、俺はルチェルの体を乗っ取ってる。手足は俺のよりも華奢だしこの体は間違いなく……。
『ルチェル、今から右腕を前に出すぞ。これはお前の手か?』
「え、うそ……どうなってるの?」
声だけはルチェルの意識で発してる。ルチェルの視界も見えている。
俺はルチェルの体を乗っ取ってる格好か。
『これが魔装状態なんだよ。ルチェル』
「そ、そんな……ふざけないでよ……」
あの魔装は不完全だった。俺が自分の意志でルチェルを守るためとはいえ強制的に魔装を行ったが故にこんなことに。
泣きそうな声も分かる。視界が涙で見えにくくなる。
なんだってこんなふざけた魔女になってしまったのか。
『泣くなって。大丈夫だ、魔装が解ければ元通りになるはずだ。それよりも、どうする? このまま逃げるか?』
「逃げないで、戦って。私が逃げたら笑い物になるだけだわ」
無茶振りをしてくれる。
そもそも俺はあんな化け物と戦うのは御免だ。
一瞬、紫色のレーザーが目の前の樽を切断した。
俺の使っていたレーザーだ。
『おまっ、気をつけろよ』
「ちょっとまって……何か言ってないことない?」
『は? 何が?』
なんかこれヤバい、超気持ちいい……。
「うそ……言いなさいよ! もうこれ以上怒ったりしないから……お願いっあん」
あん? 変な声を出しやがって……俺は吐き気がするほど快感に包まれてるぞ。
「だめ……こんなの、おねがい……だから……」
『すまん、俺もよく分からない……でももう限界だっ』
「じゃ、じゃあ一言でいいから私のこと好きって――」
『出るッ!』
「やめてぇっ――!」
稲妻が走った。文字通り目がチカチカするほどの強烈なやつだ。
長い長い射精感……どんどん搾り取られる……最高だッ!
こんなの何かおかしいけどっ、何かおかしいけどッ!
一通り出し切ると急激に押し寄せる冷たい波。
その瞬間に体内から沸き上がる強力な力。
紫色の光がまるで俺を祝福するかのように全身に迸っている。
清涼な思考が頭を駆け巡っている。俺はかつてないほど冷静だ。
賢者だ、俺はまるで賢者になった気分だ。
〔――ギィイ!〕
黒蟻(アンタイラント)が俺の存在に気づいて突進してくるが、俺は片手でそいつを殴ると風船のように破裂した。
なんだ、何なんだこの力は――!?
あれほど強固な外殻がまるでシャボン玉のように何の感触もしなかったぞ!
俺は軽くジャンプしてみると大地に尺玉のように炸裂して一瞬で空の大海に突っ込んだ。
『うわわ、すげぇ!』
ルチェルの声は聞こえない。
死んではないと思う……。
なんか股間がやけに冷たいというか、何か……うわ、ぐちゃぐちゃだ!
地面に降りると地面を軽く捲ってしまうほどの衝撃があった。
俺強い(確信)。
とりあえず今の一瞬で黒蟻はマーキングした。
周囲の索敵機能も広範囲になっているし、そう時間はかからないだろう。
まずは大群に突っ込むか。
方向を定めて足に力を入れた瞬間、家屋の屋根が吹き飛ぶのが見えた。
俺の風圧では……ないと思いたい。
次
幸いにもルチェルは吹き飛ばされたので潰されることはなかったものの、本当に危なかった。
「……」
危なかった?
俺はスキャンを行ってルチェルの状態を確認すると、ひとまず怪我はない。
それでも失神しているようだ。
アンタイラントと呼ばれる巨大蟻は羽を折りたたむとこちらに視線を向けた。
何で気づくかな。
木片をはじき飛ばしながら這い出ようとしている。
俺は急いで魔装を展開するためにルチェルに近づく。
もうこうなったらなるようになれだ。
正直守る義理も怪しいところだが、こんな死に方をされたんじゃ目覚めが悪い。
なんとかルチェルの口元まで辿り着くと息はあった。ひとまず安心だ。
魔装展開……成功してくれと願いながら唇と接触する。
ルチェルの体に吸い付くような感覚が全身に走り、俺の視界はルチェルの背後に――え?
突如背中に気配を感じた俺は咄嗟にその場を飛び退いた。
遅れて爆音が背後から聞こえて街路地に投げ出される。
4,5回転がって起き上がると全身がずきずき痛むしアソコはじわじわ温かかった。
『痛ってぇ――普通に痛てぇ』
体を動かしてみるとなんだか不思議な感じだ。自分とはかなり違う気がする。
『なんだこりゃ』
「え? 何が起こったの?」
まさかこれルチェルの視界か!?
声がまさに自分の中からしている!
『魔装をしたんだ!』
「ちょっと待って! 私自分の体動かせない……」
無茶苦茶じゃねえか。
俺はルチェルの視界と体の操作権を奪っているってことか?
だめだ、敵が来る!
俺は巨大蟻の突進を予見して物陰に飛び込んだ。
『Eメーター見えるか? 俺の視界から消えちまった!』
「え。なに? メーターって?」
どうなってんだ、とにかく整理しよう。
『ルチェル、お前今何見えてる?』
「物陰の樽よ。自分の体じゃないみたい……手も足も動かせないの」
やっぱりそうか、俺はルチェルの体を乗っ取ってる。手足は俺のよりも華奢だしこの体は間違いなく……。
『ルチェル、今から右腕を前に出すぞ。これはお前の手か?』
「え、うそ……どうなってるの?」
声だけはルチェルの意識で発してる。ルチェルの視界も見えている。
俺はルチェルの体を乗っ取ってる格好か。
『これが魔装状態なんだよ。ルチェル』
「そ、そんな……ふざけないでよ……」
あの魔装は不完全だった。俺が自分の意志でルチェルを守るためとはいえ強制的に魔装を行ったが故にこんなことに。
泣きそうな声も分かる。視界が涙で見えにくくなる。
なんだってこんなふざけた魔女になってしまったのか。
『泣くなって。大丈夫だ、魔装が解ければ元通りになるはずだ。それよりも、どうする? このまま逃げるか?』
「逃げないで、戦って。私が逃げたら笑い物になるだけだわ」
無茶振りをしてくれる。
そもそも俺はあんな化け物と戦うのは御免だ。
一瞬、紫色のレーザーが目の前の樽を切断した。
俺の使っていたレーザーだ。
『おまっ、気をつけろよ』
「ちょっとまって……何か言ってないことない?」
『は? 何が?』
なんかこれヤバい、超気持ちいい……。
「うそ……言いなさいよ! もうこれ以上怒ったりしないから……お願いっあん」
あん? 変な声を出しやがって……俺は吐き気がするほど快感に包まれてるぞ。
「だめ……こんなの、おねがい……だから……」
『すまん、俺もよく分からない……でももう限界だっ』
「じゃ、じゃあ一言でいいから私のこと好きって――」
『出るッ!』
「やめてぇっ――!」
稲妻が走った。文字通り目がチカチカするほどの強烈なやつだ。
長い長い射精感……どんどん搾り取られる……最高だッ!
こんなの何かおかしいけどっ、何かおかしいけどッ!
一通り出し切ると急激に押し寄せる冷たい波。
その瞬間に体内から沸き上がる強力な力。
紫色の光がまるで俺を祝福するかのように全身に迸っている。
清涼な思考が頭を駆け巡っている。俺はかつてないほど冷静だ。
賢者だ、俺はまるで賢者になった気分だ。
〔――ギィイ!〕
黒蟻(アンタイラント)が俺の存在に気づいて突進してくるが、俺は片手でそいつを殴ると風船のように破裂した。
なんだ、何なんだこの力は――!?
あれほど強固な外殻がまるでシャボン玉のように何の感触もしなかったぞ!
俺は軽くジャンプしてみると大地に尺玉のように炸裂して一瞬で空の大海に突っ込んだ。
『うわわ、すげぇ!』
ルチェルの声は聞こえない。
死んではないと思う……。
なんか股間がやけに冷たいというか、何か……うわ、ぐちゃぐちゃだ!
地面に降りると地面を軽く捲ってしまうほどの衝撃があった。
俺強い(確信)。
とりあえず今の一瞬で黒蟻はマーキングした。
周囲の索敵機能も広範囲になっているし、そう時間はかからないだろう。
まずは大群に突っ込むか。
方向を定めて足に力を入れた瞬間、家屋の屋根が吹き飛ぶのが見えた。
俺の風圧では……ないと思いたい。
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