様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 招集から俺とルチェルは一旦宿に戻った。
 これは俺の強い既望でもある。

「じゃあハクとはしばらく会えなくなりそうだな」

「ええ、帰ってこられるかもわからない。もしかしたら二度と会えないかも知れないわ」

「随分はっきり言うんだな。まあ、いいさ。この力があれば何でも出来そうな気がするし必要になったら見つけにいくさ」

 俺はルチェルにもう一つ頼んだ。

「ハクが俺は石だから見つけるのは大変だぞって――「はは、んなこと分かってる。心配すんな」

 ルチェルはメファにも別れを告げに足を運ぶ。

「ん、出発するかい。よし、餞別だ。これも持って行きな」

 それは背負いの鞄だった。
 なめし革の使い込まれたものだけど、温かみを感じる。

「薄汚れちゃいるが、そんなに使ってないからまだ使えるはずさ」

「いいんですか?」

 メファは屈託のない笑みを浮かべてサムズアップを見せた。

「いいんだよ。私のじゃない」

 大切なものには違いないんだろう。
 その瞳はどこか離別を惜しむような色が見え隠れしている。

「ハク! また会おうぜ」

『ああ、必ず』

 ルチェルは頭を下げて宿を後にする。
 再びゲートのところまで来るとティアが立っていた。
 今朝は晴れていた空も今は曇り空だ。

「え、ティアさん?」

「迎えに来た」

 なぜかティアは俺を見ているような気がする。
 ティアが呪文を唱えるとゲートが出現する。
 段々このおかしな現象にも慣れそうだ。

「あの、ティアさんが、シーダーって本当ですか?」

「その説明をしに来た」

 黄ばんだ色を見せるこの部屋は冷たく薄暗い。
 その中にあってティアはまるで囚われたお姫様のようにも見える。

「シーダーについてルチェルは何処まで知っている」

 ルチェルの説明によると、シーダーは魔の種を意味するらしい。
 魔女が体内の魔力を全て使い切った時、魔女はシーダーとしての生を受ける。
 実際に魔物を生み出すわけではないが、多くの魔女は地中深くにその身を隠すとされているのだとか。
 掟ではシーダーは人前に姿を現すことを禁じられている。
 その理由は定かではない。

「大事な事、分かってない……シーダーは人を殺すことを生き甲斐にする。それだけ」

 さらりとティアは言い切った。

「それは、理由も無く人を殺すということですか?」

「見に来た方が早い」

 ティアは再びゲートを出現させる。
 そこを抜けた先は先ほどよりも幾ばくか陽の光が差す倉庫のようなところだった。
 木樽からは赤い液体が漏れている。

「助けてくれ、あんた何者なんだ?」

 そいつは麻袋を被せられて顔が見えない。
 両腕は後ろ手に縛られており、椅子の足には両足が縛り付けられている。

「白老、隠れていないでいい」

 何もない空間から今度は白老が現れる。

「ティア」

 嗄れた声は決して責めていない。
 男は2人いた。そして女も1人いた。
 それぞれ麻袋を掛けられ、縛られ、皆が同じ状態だ。
 3人で叫べば外の人間を呼べるのではないかというような状況にも関わらずその兆候はない。

「私は何も悪いことなんかしちゃいない。こんなことされる理由もね!」

 こいつらは一体何がどういう経緯でこうなったのだろう?
 助けてくれとうるさい男に比べてもう一方の男は極めて冷静そうだったが、ティアが足で椅子を蹴ると背筋を伸ばした。

「説明」

「は、はい。我々はコヤト村より酒樽をくすねていた者たちです」

「手段」

「え、ええと……端的に申しまして子供を使いました。ただの子供じゃありません、いひっ……魔の血を与えた従順な子供です。ええ、あれは完璧な仕上がりでした。ヒヒヒ」

「目的」

「酒樽を盗むこと? アハッハッハ! そんなものだけで済むものか! 私はもっと実験がしたかったのだ!」

 くぐもった声は麻袋の中からしている。
 スキャンしてみたら醜悪な顔だった。
 隣の男は椅子をガタガタと揺らして唾を吐き散らすような勢いで声を荒げる。

「ふざけるな! 俺はお前が金になるから攫ってこいというからわざわざ親まで殺したんだ! そのおかげでこの様じゃねえか!」

 真ん中の女の声は2人の間にあって良く通った。

「ねえ、もう分かっただろう? 私は何も悪くない。全部この男たちがしたことさ。私はただ居合わせただけだ、違うかい?」

 不思議なのはティアがこの状況を見て微笑みを浮かべていることだった。

「この女は誰の?」

「私の妻だ。彼女は大の食人好きでね、小さい子供の●●を食べるのが生き甲斐なんだそうだ」

「……」

 女は答えない。今なんて言ったのかは俺自身が不快感からシャットアウトしてしまった。
 にわかには信じられない。
 ティアのいるであろう方向をじっと見ているような仕草をしている。

「これは一体何なんですか?」

 ルチェルも食人と聞いては痺れを切らしたように声を上げる。

「何……? それを聞きたいのは我々の方だ。衛兵に突き出せば我々は絞首刑。なのにこの魔女は我々を監禁しているだけ、さっさと殺したらどうなんだ」

 ティアの笑みは消えていない。
 口が開いたのは男の耳元の傍で男は麻袋を被っていてもはっきりとわかるほど息を荒くした。
 袋が取られて醜悪な顔が現れると男はティアによって縛られていた縄さえ解放される。
 ティアは短剣を腰から抜いて差し出すと男はティアと同じような笑みを浮かべた。

「いいのかよ……へへ、なら俺はそこの学者さんを殺させて貰うぜ。よお、散々こき使ってくれたな」

「何を言っているんだ? お前――それはどういう意味だ?」

 縛られた男の前に立つと男はナイフを逆手に持ち替える。

「そのままの意味だぜ、お前らのどちらか売れば俺は助かるらしいからな」

 学者は椅子ごと倒れて身を捩らせた。もがいてなんとか逃げようとしているみたいだ。

「考え直せゲオル、私を殺す? 私は雇い主だぞ? そうだ、金ならやろう。やるならそこの女をやれ、何の役にも立たないそこの女をだ」

 女の方もそれには罵声を浴びせる。

「黙れ。元はといえばお前のせいでこうなったんだ」

 男は跳ねるように腰をくねらせて男から遠ざかる。

「あんな村に魔女なんかいると普通思うか? いいか、やるならそこの女だ」

「自分の女を売るのか?」

「私は研究者だぞ? 妻が夫の崇高な目的のために身を捧げるのは当然だ」

 裏返った声が石倉に響くと今度は女が激怒する。

「研究者!? あなたが!? 魔物と人間の子供を生み出そうとしている悪魔のくせに何を血迷ったことを言っているの?」

「お前こそ、子供しか食わない女なんぞ化けの皮を被った食人鬼だろう!」

「私は違う! 子供が出来なくなったこの体はあなたのせい……私はただ普通の女に戻りたいだけよッ!」

「はははっ、人間の子供を食えば人の子を孕めるとでも本気で思っているのか? 誰に唆されたんだ? お前のその狂った思想で何人の子
供が死んだのか答えてみろ。お前のその壊れた心は未来永劫、人食いのままなんだよ」

 ヒートアップしていく場の空気を愉しんでいるのはティアただ1人だ。

 ルチェルは小さく口を開けて少しずつ奥に下がって行っている。

「ふぐっ」

 ゲオルと呼ばれた男がそいつの首にナイフを突き立てる。
 学者の首が痙攣すると鮮血が黒い血溜まりを床に広げていった。

「あばよ」

 ナイフを放り投げてティアに向き直ったゲオルは恭しく手を広げて倒れた男を差した。

 人が死んだ。
 俺はその事実にどこかここが現実ではない空気を感じる。

「お前の選択は見た」

 同時にティアは指を鳴らす。
 すると死んだ男の全身から何か妙なもやもやとした光がティアに吸い込まれていくのが見える。

「起きろ――死霊の者」

 再びティアが指を弾き鳴らすと縛られた縄を引きちぎるようにして男が立ち上がった。

「は……ぇ――? ……うわぁあぁあああ――!?」

 ゲオルは腰を抜かして立ち上がった男を見上げる。
 何が起きたって死んだ人間が立ち上がった。
 ただそれだけのはずだ。

「ゲオルゥゥぅ、貴様ァァア!」

「命令されただけだ! お、俺は――」

 首が消えて壁から水しぶきの音が鳴った。
 視線を動かしてみると頭部がまるでグミのようにぺちゃんこに張り付いていた。
 ゾンビ男の姿勢からそれが腕を振るっただけのものだと分かると俺は戦慄するしかない。

 ティアは再び指を鳴らして男の体から何かを抜き取っていた。
 まるで全身にある何らかのエネルギー体のようだ。
 スキャンして分かったがその名称は【素材・魂(極小)】になっている。

「おれ゛はぁぁあ゛――死んでいいよ゛うなおどごではな゛い!」

 喉に血糊を蓄えた男は麻袋の中で血反吐を撒き散らしているようだった。
 ルチェルは完全に青ざめている。

「そこの女を食えばお前は生き返れる」

「な゛に!?」

 ティアはさらに恐ろしいことを言った。

「は……何? 私を食べるっていうこと? 冗談止してよ! 私ば――!?」

 顔に咬み付かれた女は絶叫する。
 ゾンビ男と女は縺れるようにして倒れてゾンビ男が一方的に女を食うだけの凄惨な現場が出来上がっていた。
 もちろん縛られているから抵抗は叫ぶか身を捩るくらいだ。

 女の絶叫は最初こそ耳を劈く鋭いものだったが、徐々にその勢いは衰えていきやがていたいいたいと呻くだけになっていった。
 女がぴくりとも動かなくなったところでティアはまた魂を吸引する。
 しかし、その素材は極小ではなく中だった。

「何なの? これ……」

 ルチェルは我に返ったように静まりかえった場に声を漏らす。
 俺も気になるが、まだゾンビは生きている。
 そいつがゆっくりティアに振り向くと真っ赤にそまった麻袋の中から赤い歯を覗かせて叫んだ。

「ダま゛ジだナ゛ァァアア゛アアア――――!?」

 指が再び鳴ると男は元から何も無かったかのように塵となってその場に消えた。
 他の2人も元から肉などなかったかのように砂のように消えていく。

「シーダーは魔力を自ら生成できない。補給が必要」

 ティアはただ淡々と落ちたナイフを回収して腰に戻した。
 白老は衣服だけになって砂と化した人間たちの衣服を探りながら呟く。

「相変わらず回りくどいことを。他のシーダーのように大地の奥深くにおれば何の苦しみも無く生命の全てを自らの魔力へと変えてゆけるというのに」

「それはしない。ダンジョンになってしまう」

 白老は手にしたメランをティアに差し出したがティアは受け取らなかった。
 死人のメランなど受け取らないのか。

「私が貰っても良いの?」

「落ちていたのじゃ」

 白老はルチェルに押しつけるようにそれを手渡した。
 それから魔法陣を砂の上に描くとその頭上に穴を生みだし、砂は全て消えていった。

「西の地での戦いに向けて準備を怠るな。良いな?」


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