様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 ティアの一件でシーダーとは魔力を自然回復できない者だと分かった。
 魔女は一度魔力を使い果たすと二度と魔力を回復できなくなるらしい。

 結果的には魔女としての存在意義が失われるばかりか、魔力のない状態とは謂わば不眠や飢餓に相当する苦しみらしい。
 このことは魔女として一番最初に学ぶことで魔女としての力はその魔力量に比例するとか。
 そして魔力を回復させる唯一の方法は人を殺すこと。
 それもただ殺すのでは無く、喜怒哀楽の感情が強ければ強いほど強大な魔力を得られるというのだから太刀が悪い。

 ティアはあえてそれらを生み出しているが、普通の魔女は強烈な飢餓に耐えきれず 魔の種(シーダー)になるという。
 飢えに耐えきれなくなった魔女は地中深くに潜り、大地と結合してありとあらゆる生き物の魂を吸収して生きながらえる魔女たちのことだ。
 その魔女らは生きているが種のように死んでいることからシーダーという名前になったのだそうだ。
 そしてもう1つ「種」と謂われるのには理由があるみたいだ……あまり面白い理由ではなさそうな表情だったが。

 今ルチェルと俺は穴をくぐって西のバースラ大陸にある小さな街に来ている。
 ティアによるとここが襲撃を受ける街らしい。
 怪物の群から最も近い街がここなんだとか。

 街の広場は一見すると女の子たちが遊んでいるように見えた。
 昼下がりなのに随分と人の気配が多いようだ。
 あれ?

「避難は済んでいるって話だったわよね?」

 ルチェルは不思議そうに呟いた。

『俺も確かにそう聞いた』

 これは何か……場所でも間違えたか? しかし、例の魔女たちは集まっている。
 可愛らしい声で怒り心頭しているのは魔女である少女たちだ。一見して女の子たちが無邪気に遊んでいるようにも見える。
 数人が寄って女の子、たぶん魔女を囲んでいた。遠くにいても声が聞こえてくる。

「お前は何をやったんだ? それともここの領主が馬鹿なのか?」

 お下げの少女は眼鏡に指を伸ばしながら俯き加減に答えている。

「領主には話した。私の力も見せた。それでもすぐに避難というのは難しいという解答を得た。私は避難が済むとは言っていない、準備は出来ていると言っただけ」

 首を傾げて見下げるようにして赤毛の魔女が拳を握って見せた。
「アホでしょあんた。ここで大量の殺戮が起きればこの地のシーダーが力を増す。 迷宮(ダンジョン)が生まれるがわからないの?」

 お下げの女の子はおろおろとするばかりだ。
 見ていて可哀想になる。

「わ、わかってる……けど、街の人たちは魔女の言うことを聞いてくれない。この国は――」

「もういいよ、行こ、みんな。前線で少しでも減らして食い止めようよ」

「魔力の無駄じゃねえか? ランク上位の魔女たちが圧縮魔法陣でこの街ごと一気に消滅させる。それでいいんじゃねえか?」

 突然空間に穴が空いた。
 通行人もまざまざとそこを注視している。
 中からは 11人の魔女(イレブンウィーラー)たちがぞろぞろと出て来るところだった。

「圧縮魔法陣をこの街の規模にって聞こえたわ、それはもちろん自分たちの魔力を使ってやるってことでいいのよねえ?」

 俺が前から気になっているロリ巨乳の美女だ。
 正直あの童顔であの巨乳は何かの摂理がおかしい。
 金髪に緑色の瞳はぎらぎらとして周囲からかなり浮いている。
 明るいところで見るとみんな印象が違うな。

「そ、それは言葉のあ綾です」

「随分卓越した言い回しなのね。 私(わたくし)も勉強したいわ」

 それにしてもこれだけ集まると誰がどのくらい強いのかは全然わからない。
 ちなみにあの金髪の子は傘下に他の魔女が多数いるらしく、あっという間に魔女たちの壁に阻まれて見えなくなった。

「あ、やっと見つけた。ルチェル!」

「カナリア?」

 まともに話せる相手を見つけて安堵したのかルチェルはカナリアと手を取り合った。

「まさかあのランク5のティアの傘下になってるなんてやるじゃないの」

「え、そうかな……」

「うふふ」

 なんか少しタメの入った笑いだったけど大丈夫かルチェル。
 カナリアはお前を別に尊敬していないと思うぞ。

「マキナはいないの?」

「マキナなんてどうでもいいのよ。あんな薄情者のことは忘れましょ、それより変身見せてよ」

 そこでルチェルは置いてけぼりにされたことを思い出したらしい。
 軽く頬をふくらませている。

「そんな怒った顔しないで。私だって辛かったのよ、でもルチェルがあれくらいの窮地を抜けられないとは思っていなかったし、もし魔装が出来なかったら魔女は務まらないでしょ?」

 それから2,3付け加えられてルチェルはカナリアを許した。
 ちょっと悲しいわ俺。

「魔装を見せるのはいや」

「私だって見せたでしょ? どうして?」

「あんまり格好良くないもん」

「私だって自分の魔装を見て恰好がいいなんて微塵も思ってないわ。むしろ、その逆よ。何も恥じることなんかないわ。魔石は心の具現だもの」

 心配だ。すげえ心配だ。
 カナリアの口車に乗せられそうになってルチェルのやつ、魔装しようとしてる気がする。
 周囲ではもっと大変な話も進んでいた。

「人間を巻き込まないで戦うなんて無理だろ? だったら先にこの街から人間を追い出さないか」

「短絡的ね。それじゃ魔女が悪者にされるわ」

 どうやら話の一部を聞く限りこの街を戦場にするのか、否かでもめているらしい。
 カナリアに絆されている場合じゃないぞルチェル。

 ランク1の仮面魔女が魔女の人垣を割って出てくると、全員口をつぐんだ。
 う……この子なんか北島と被って見えてしまう……。

「良いですか? 敵はただの蟻とはいえ、一種の知恵を持ちます。仲間と協力するという知恵です。私たちはそれが圧倒的に欠けている。個人の技量は蟻1匹を上回っても数の暴虐に耐えきれると……そうは思いません」

 鈴を転がしたような声は澄んだ心地にさせる。

「今し方ランク3の魔女がいったように、この街はこれから戦場と化します。魔女の規律は人に害を及ばさないことです。無用な混乱と死を避けるためにも泥を被りましょう」

「そうこなくっちゃ! いくぜ!」

 人間を朝までに街から追い出す作戦が始まろうとしていた。


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