様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 声の元へと急ぎたいのだが、ハーピーの集団が襲ってきたので僕たちは倒すことを余儀なくされた。

「死んでやらないっ!」

 と声が聞こえた。

「大丈夫!」

 声の元に行くと

「――っ!」

 目を見開いてこちらを凝視している褐色の肌の子が一人。そして、黒い毛むくじゃらの大きな犬が少女に上に乗っていた。

 あの犬って、確か初日のわんこか。

 目が赤く輝き唸り声を上げながら、口元から涎を垂らし、少女の胸元を穢す。
 黒犬の身体は、突如現れた僕たちの方向へ視線を向けていた。
 褐色の子は、怯えた表情をしている。
 黒犬が少女から前足をどけ、体勢を低くして直ぐにでも飛び込めるように、力を溜めている。

「グルウウゥアアァッ!」

 黒犬が一足飛びで一気に間合いを詰めてくる。
 僕は、剣に気を集中させる。

 ザッシュ

 ヘルハウンドを切り裂く。

「すごい」

 少女の驚きの声が聞こえた。しかも聞いたことある声だ。
 視線を向けるとお兄さんと少女と3人の美女がいた。なにやら3人の美女は、不満そうで不機嫌な雰囲気が漂っていた。しかも少女と3人の美女は、弓を装備していた。
 お兄さんがヘルハウンドに触れていた。
 光の粒子と化し、体に吸い込まれたのを確認すると足元に落ちている黒い魔石を拾っておく。あと、牙のような物が消えずに残っていたので、ポケットに入れておいた。たぶん、素材か何かなのだろう。

 少し離れた場所からお兄さんを睨み、如何にも警戒していますといった表情の人物。よく見ると右足を引きずるような動作をしている。
 見たところ10歳前後だろうか。ボロボロの元は真っ白だと思われる、質素な薄汚れたワンピース。ぼさぼさの頭。髪の長さは肩より少し下ぐらいだろう。女の子のようだ。

「土屋さん、ここはわたくしめにお任せを。親戚の子供たちには大人気なのですよ!」

 優しい笑みを浮かべ、ゆっくり少女に歩み寄るジャージ亀――もとい少女。
 少女は少し怯えたようにしていた。少女が一歩踏み出せば、一歩下がる。二歩踏み込めば、三歩下がる。
 ジャージ姿に亀の甲羅っぽいものを背負った女。まあ、警戒するよな。

「・・・怪我、大丈夫」

 少女は眉根を寄せ、返事をしないでジャージ少女を見つめている。少しだけ構えている短剣の切っ先が下がった。
 ジャージ少女は歩みを止め、手を広げ武器がない事をアピールしてその場にしゃがみ込んだ。少女と目線を合わせている。

「貴方はこの島の人なの」

 優しい口調と無防備な姿に少女の張り詰めた気も少し緩んだようで、彼女は武器を下ろして、ぼそりと

「違う、船でここに連れてこられた」

「何故、ここに連れてこられたか聞いてもらえる?」

 身振り手振りを交えて、ジャージ少女が少女に質問している。笑顔を崩すことなく優しく語り掛ける姿は――母性を感じさせる。
 それによると彼女は村に来た国の兵士に無理やり連れてこられたそうです。砦みたいな場所に自分と同じぐらいの少年少女が集められ、何かを検査した。それで、選ばれた子供たちだけ船に乗せられて、この島に降ろされたみたいだ。

「どれぐらい前にこの島に来たのか」

「一週間ぐらい前」

 一週間……僕たちより少し前か。他の子供がどうなったのかも気になるが、それよりも船のありかが気になる。

「船が――」

「船は、すぐに出航した」

 船はもう無いのか。

「っと、桜さんこのレーズンをその子にあげて。お腹空いてそうだし。それで拠点に来ないか誘ってくれるかな」

 土屋さんが桜さんにレーズンが二十粒程入っている小袋を投げ渡す。
 桜さんは取り出したレーズンを試しに自分で食べて見せて、それから少女へ差し出した。

 少女は恐る恐る手を伸ばすと、さっとレーズンを掴みとり口へと放り込む。
 数度噛むと訝しげだった表情が一変し、目を輝かせ満面の笑みを浮かべた。
 それを見た桜さんが小袋の中身を全部出し、手のひらに載せて少女へと突き出す。
 久しぶりの甘い物だったのだろうか、警戒する間も惜しいとばかりに素早く桜さんに近づくとレーズンを何度も摘まんでは貪り食っている。

「私たちのところに来たらもっと美味しいご飯があるけど、どうする」

「ついていく」

 無邪気な笑みを浮かべる少女の手を引き、桜さんが土屋の元へとやってきた。
 少女からは初めて出会った時に見せた野獣のような鋭い眼光は消え失せ、期待に瞳を輝かす子がそこにいる。

「秋とそこの少女もどうだい」

 僕と光お姉ちゃんは、視線をかわし頷く。
 特に異論はないので、土屋さんたちについていくことにした。



 無事拠点へ帰還した僕たちはまず昼食を取ることにした。
 グリルで魚を焼き、各種野菜類を切り、切った野菜を小麦粉と卵を混ぜ合わせたもの物の中に入れ、フライパンで焼いていく。

 桜さんは少女とすっかり仲良くなったようで、お手製の水を溜める容器の傍に手を繋いでいき、濡らした布で体を拭いてあげている。
 ワンピースも脱がして軽く水ですすぎ、塀に干している。乾くまでの間は毛皮をバスローブのように体に巻き付けて服代わりにするようだ。今日は日差しも強いので、そう時間はかからないだろう。

「体を拭いてきましたー。はい、サウワちゃんはそこに座って」

 どうやら、少女の名前はサウワというらしい。
 さっきまでは汚れていたので容貌が良くわからなかったのだが、かなり整った顔立ちをしている。目つきが鋭く野性味があるので、可愛らしいというよりは美人さんといった感じだ。
 桜さんは日本語で話したのだが、身振り手振りで意味が伝わったらしく、桜さんの隣に寄り添うように座り、小さな体を更に縮こまらせている。

「もう少ししたら魚も焼けるから」

 土屋さんの言葉を桜さんが共通語でサウワに伝えている。小さく頷き、じっと魚を見つめている。

「あ、土屋さん、秋君、光ちゃん。サウワちゃんから聞いておいた情報伝えておきますね。あの、話を続けていいですか?」

 土屋さんからの返事がない。
 
「あ、ごめん。ちょっと考え事していたよ。続けて」

「はい、ここは贄の島と呼ばれているそうです。災厄の魔物が眠る場所として恐れられている伝説の島。それが――ここです」

 贄の島。にえとは生贄の贄なのだろうか。その不吉な名前も気になるが、もう一つ気になる点が……災厄の魔物か。

「えとですね、災厄の魔物というのは昔話に出てくる、この世界の昼を喰らい永遠の闇を招いた魔物だそうです。かなり有名な昔話だそうで、小さい頃に何度も母親から聞かされていたそうです。悪い事をすると災厄の魔物が食べに来るよ! というのが叱るときの定番だったようです」

 遅くまで起きていたらお化けが来るよ。というのと同じノリなのだろう。

「それで、この島に運ばれる途中に高そうな服を着た偉そうな人が「お前らが行くのは贄の島だ。お前らは糧となる為に選ばれた。一年後にもう一度この島に来るが、もし生き延びていたら連れて帰ってやろう」と言われたそうです」

 子供たちを島に置き去りにして、一年後に迎えに来る。この子を見る限り短剣は渡されていた。けれど、その程度の武装で生き残れる島ではない。
 贄の島、糧という言葉から連想するなら、この子供たちは生贄にされたと考えた方がしっくりくる。何に対しての生贄なのか。少ない情報で考えられるのは災厄の魔物ということになる。

「手に入った情報で有益だったのは一年後に船が来るということか。それをどうにか手に入れて脱出。それを目指すしかないか」

「そうですね……一年。一年って思ったより早いですよね!」

 桜さんは僕たちに話しているのではなく、自分に言い聞かせているようだ。



Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

開くメニュー

閉じるメニュー

  • アイテム
  • アイテム
  • アイテム
【メニュー編集】

編集にはIDが必要です