様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 ぼくたちは、最初の戦闘を無難に切り抜けた。
 志木さんがすぐさま姿を消し、北東部の偵察に移る。

「高等部が心配だな」

「ん。兄は、たぶん、適当になんとかする」

 ミアは平然としている。
 たしかにあのひとなら、なんとかしそうではあるけどさ……。

「兄について心配だったのは、最初のレベルアップができるかどうか、だけ。その壁さえ越えられたなら、あとは自力でイケる」

「そうね、忍者はすごいわ!」

 たまきが呑気に笑う。
 いや忍者って時点でおかしいんだけど。
 ミアは「むー」と眉間に皺を寄せている。

 十分ほど待ったあと。
 志木さんが戻ってきた。
 北東の方にいったのに、戻ってきたのは西からだった。

「奥にいくほど、警戒が厳重になっていくわね。なるべく敵が孤立している部分を狙っていきましょう。案内するわ」

 頼もしい彼女の案内で、ぼくたちは少し西側からまわりこむようにして、オークたちの拠点に向かう。

 アーチャー三体だけの見張り部隊がいた。
 蜂がいないなら、楽勝だ。
 奇襲で迅速に全滅させる。

 和弘のパーティが1体、ぼくのパーティが1体、志木さんのパーティが一体、倒した。

『魂くらいが発動しました。アーチャー・オークの魂を喰らい、スキルポイントに変換します』

「これくらいの数なら、いけるわね。問題は、ここから先、こんなに楽な部隊はいないだろうってことだけど」

「全体的に数が多いのか」

「というより、絶妙な配置なのよ。隣の部隊と連携を取れる、ギリギリのところに広がってる」

 知恵を使っているなあ。

 いや、違うのか?

 単純に敵の中心部に近づいているから、網の目が細かくなっているだけかもしれない。

「本当に本拠地に近づいているかは、わからないわ。あまり奥までいくと、見つかったとき逃げ帰れないから、深入りしてないの」

「それで正解だ」

 ここで志木さんに無理をさせても、意味はない。
 いざとなれば、一度、撤退すればいいだけのことだ。



 次の戦闘では、ジャイアント・ワスプ二体、アーチャー三体のグループを強襲した。
 ただし、このグループAのすぐ近くに別のグループがいる。
 こっちのグループBは、ジャイアント・ワスプ二体、アーチャー二体だ。

 気づかれずに戦うのは不可能な位置だった。
 しかもグループBの近くには、別のグループがいる。
 こちらはグループCとしよう。

 幸いなのは、この三グループだけが固まっているため、これ以上の連鎖がないことくらいか。

「考え方を変えましょう。戦力の逐次投入が行われると思いましょう」

 もちろんこれは、敵が撤退を始めた場合、ばらばらに逃げてしまうことを意味する。
 志木さんひとりでは、逃げる敵を仕留められないかもしれない。
 そのあたりを懸念し、今回はミアが志木さんと共に動くことになった。

 彼女たちの役目は、逃げる敵を確実に潰すこと。
 彼女の持つ地と風の各種拘束系魔法は、足止めに最適だった。

 ミアが抜けたため、正面の部隊は強襲以外の選択ができなくなる。
 仕方がないので、たまきの大盾に隠れてその陰から火魔法使いのふたりがフレイム・アローで攻撃したり、ぼくの使い魔を前面に押し立てて仲間に被害が及ばないようにしたりと工夫することになった。

 ぼくはウィンド・エレメンタルを追加で二体、召喚する。
 合計で三体だ。



 戦闘が始まる。
 ぼくたちは、たまきの大盾を遮蔽としてゆっくりと前進する。
 アーチャーたちが接近するぼくたちに気づき、矢を放ってくる。

 大盾の陰に隠れる作戦は、火魔法の使い手であるふたりが、降り注ぐ矢に怯えてしまったことで、いまひとつ効果的に機能しなかった。
 ぼくの召喚したウィンド・エレメンタル三体が、空を飛んでアーチャーを強襲する。
 これにより、ようやく矢の雨を妨害することに成功する。

 矢が飛んでこなくなったことで、火魔法の使い手たちがようやく顔を上げ、アリスが苦戦をしていたジャイアント・ワスプにフレイム・アローを連射する。
 ジャイアント・ワスプの羽根が焼け焦げ、地面に墜落していく。

「グループB、来ます!」

 アリスが叫ぶ。
 見上げれば、まず飛来したのは、新手のジャイアント・ワスプ二体だ。
 その後ろから、木々を身軽に飛び移って、アーチャー二体が迫ってくる。
 そのさらに後方には、グループCの姿も見える。

 アーチャーの弓の射程に入る前に、ほかをなんとかしたいところだけど……。

「わたしが、囮になります」

 そういって、ジャベリンを手に、長月桜が前進する。
 桜はスルスルと太い樹によじ登り、ジャベリンをジャイアント・ワスプに投擲する。

 ジャベリンは外れた。
 ジャイアント・ワスプの動きが速すぎて、不慣れな投擲では厳しい。
 だがそれでも……充分だ。

 二体のジャイアント・ワスプが桜の方に向きを変える。
 尻の針を、彼女に突きだし、射撃体勢に入る。
 一瞬、モンスターの動きが止まり、無防備になる。

「アリス、いまだ!」

「は、はいっ」

 桜の行動は無謀だが、しかしチャンスはチャンスだ。
 アリスの投擲したジャベリンが、ジャイアント・ワスプ一体の胴を貫き、これを地面に叩き落とす。
 もう一体は、火魔法使いのふたりが丸焼きにする。

 少し離れたところから、グループBのアーチャー二体が射撃を開始してくる。
 このときようやく、グループAのアーチャー三体を、ほぼ同時にぼくの使い魔たちが仕留める



 グループAを殲滅したぼくの使い魔たちが、グループBのアーチャーから雨のように矢を浴びる。
 特に一体が、集中攻撃を受け、そうとうな深手を負う。

 ぼくはいったん、全部の使い魔を下がらせる。

「ヒール」

 ハクカが使い魔を回復させる。

「アリス、桜、茜、たまきの盾の陰に! 戦線を下げるんだ!」

 ぼくたちは、じりじりと後退する。
 その間に、グループBの生き残りであるアーチャー・オーク二体が、グループCと合流してしまった。

 グループCは、ジャイアント・ワスプ四体、アーチャー・オーク三体だ。
 合計で蜂が四、アーチャーが五。

 これまでで最大の数である。
 この群れに突っ込んだら、ただではすまなかっただろう。
 だがいまは、幸い、こちらが迎え討つ番だ。

 三体のアーチャーがたまきの大盾に対してひたすら矢を射かけ、盾の正面をハリネズミのようにする。
 残る二体が、盾の陰に隠れていない和弘の使い魔を攻撃してくる。

 ぼくらがアーチャーの矢で釘づけにされている間に、ジャイアント・ワスプがぼくたちめがけて突っ込んでくる。
 上空でホバリングして、お尻の針を下方にいるぼくたちに向ける。

「攻撃!」

「はいっ」

 和弘の合図で、アリスがジャベリンを投擲する。
 同時に火魔法の女の子たちがフレイム・アローを発射。
 だがぼくたちめがけて落ちてくる、四本の巨大な針は……。

 和弘の指示で、二体の使い魔が上空に割って入る。
 ウィンド・エレメンタルの一体が、針を胴体に受け、よろめく。
 もう一体は頭部にと肩に針を受け、存在を消滅させる。

 残る一本の針が、ぼくたちの頭上に落下してくる。

 裂帛の気合のもと、たまきが頭上に振るった銀の剣が、針を真っ二つに絶ち切ってみせる。

 こうして必殺の攻撃をしのがれた四体のジャイアント・ワスプは、ぼくたちの集中砲火を浴びて、ことごとく倒される。
 よし、これで残りは、五体のアーチャーだけだ……が。
 その五体のアーチャーが、背を向けて逃げ始める。

「あ、こら、逃げるなーっ」

 たまきが叫ぶ。
 いや、そりゃ逃げるだろー。

 逃走する五体のうち、一体だけは火魔法による集中砲火で倒せた。
 だが残り四体は、ぼくたちの射程の外に出てしまう。

 いまこそ伏兵が生きるとき。

 物陰から志木さんがダガーを投擲する。
 ミアが風魔法ランク4、ワールウィンドで竜巻をつくり、三体のアーチャーの行く手に竜巻をつくる。
 立ち往生したところに、スリーピング・ソングを入れて、適宜眠らせていく。

 眠ったアーチャー・オークは地面に落下する。
 なにかが潰れるような、嫌な音が響く。

 生き残った一体が、竜巻をおおまわりして逃げようとする。
 そこに、和弘の使い魔、ウィンド・エレメンタルが追いつく。
 紫電をまとった拳で殴りかかる。

 アーチャー・オークの背中に拳が命中し、アーチャーは跳躍の直前、身をけいれんさせる。
 バランスを崩し、頭から地面に墜落していく。

「なんとか、全滅させることができたわね」

 志木さんが、ほっとした声でいう。
 みんな、同じ気持ちだった。



Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

開くメニュー

閉じるメニュー

  • アイテム
  • アイテム
  • アイテム
【メニュー編集】

編集にはIDが必要です