ほかの生徒たちは、皆、逃げてしまった。
男子寮からこちらを覗いているのかもしれないが、逆光の照明が邪魔でよく見えない。
照明がこれだけ明るいとナイトサイトの効果がうまく出ないのだ。
ぼくは、ソルジャーとファイア・エレメンタルに指示を出して、先ほど死んだ男を埋葬するように命令を下した。
「・・・いいよな」
「はい」
アリスとミアの許可を得て、僕は芝を埋葬した。
そして、僕たちは、散らばった宝石を集める。
「ところで、この剣、もらっていいのか?」
「そうだな。あげるぞ」
剣を入手した。
あと念のため、シバの銃は持ち帰ることにする。
銃弾のコピーも可能とわかった以上、ひょっとしたら利用できるかもしれない。
アリスに聞いたらシバが腰につけたポーチと背負ったバッグのなかに弾丸が入ってるとのことで、それもすべて回収する。
「ところで、シバのやつ、どこから猟銃なんて手に入れたんだ」
「理事のひとりがこっそり隠し持っていたんだそうです。以前、こっそり銃を撃たせてもらったって、自慢していました」
なるほど、たしかにこの山は、まるごと学校の所有物だ。
生徒の立ち入りが禁止されている裏側にまわれば、違法に銃を使っても、そうそうバレはしないだろう。
銃弾は全部で百発近く残っていた。
そうとう撃っただろうに、まだこんなにあるのか。
その理事ってひとも、いったいどれだけ貯め込んでいたんだか……。
まあ、いい。
その理事がこの場にいないということは、すでに死んだか、たまたまこの学校にはいなかったのか。
どちらにしろ、訊ねる相手はもういない。
ざっと宝石を集め終わったあと、ぼくたち8人は第一男子寮前の広場から立ち去る。
後ろを振り返りもしない。
ある程度、男子寮から離れたところで、気配がした。
僕とたまきが立ち止る。
「なにやつ! くせものだわ! であえ、であえ!」
ククク、というわざとらしい笑い声が森に響く。
アリスが慌てる。
両手をばたばたさせて、涙目で和弘を見る。
「拙者でござる!」
忍者装束に身を包んだ男が、ぼくたちの前の木陰から現れる。
パニックに陥って槍で攻撃しようとするアリスを、たまきが慌てて押さえる。
彼が誰か、ぼくたちで説明する。
「え……ミアちゃんのお兄さん、ですか」
「いかにもでござる。これが、取り返してきたミアの腕でござるよ」
結城先輩はぼくにミアの左腕を渡してくれる。
軽い。
でも先輩は、とても大切に、壊れ物のように扱っていた。
「アリス」
「はい」
アリスがミアの左腕を欠損部分にやると
「キュア・ディフィジット」
ミアの左腕が見る間に元通りになっていった。
治療魔法ランク4のキュア・ディフィジット。効果は、損傷した体を再生する。だが損傷した体の一部がないと再生できないという欠点もある。
先輩は、一歩下がって、ぼくたちに深くお辞儀をする。
「ミアを頼むでござる」
「結城先輩も育芸館に来ませんか」
ダメもとで訊ねてみる。
だが忍者装束の男は、首を振ってぼくの申し出を拒絶する。
「拙者には、この高等部でやるべきことがたくさんあるでござるよ。拙者にしかできないことでござる」
彼は以前にいっていた。
あちこちの避難所を繋ぐ役割を果たしていると。
でも……と心配そうに彼を見るたまき。
だが結城先輩は、快活に笑ってみせる。
「ひとつだけお願いがあるでござる」
「なんです? ミアのことですか」
「猟銃を拙者に預けて欲しいでござるよ。それを使って、高等部の有志をレベル1にしていきたいでござる」
なるほどとぼくは考える。
銃の撃ち方さえ覚えれば、オークを殺すことも比較的たやすいか。
「って、撃ち方は知ってるんですか」
「いろいろこっそり習得したでござるよ。安全な射撃の方法を教授していくでござる」
すげぇな、忍者って。
いや、この結城先輩ってひとがすごいのか。
「条件があります」
「なんでござる」
「結城先輩がレベル1の生徒を増やすなら、その生徒たちはあなたがまとめあげてください」
結城先輩は、腕組みして唸った。
そんなに悩むところだろうか。
「忍者は忍ぶモノでござるからなあ……」
「そこですか」
「いやしかし、客観的に見て、おぬしの申すことはもっともでござるなあ」
一応、状況は正確に理解しているんですね。
「仕方がないでござる。そこまでいうなら、少なくとも組織の舵とりをする役目は引き受けるでござるよ。その条件でよろしいか」
「ええ、結城先輩がそういってくださるなら、安心できます」
和弘は笑って、猟銃と銃弾を手渡した。
「では、明日一日で、なんとか高等部をもう少しマシな状態にしてみせるでござるよ」
「男子寮組以外を、ですか」
忍者は、うむ、とうなずいた。
「ひょっとしたら、生き残りを率いて育芸館に向かうかもしれないでござる。そのときは……」
「はい、歓迎します」
ぼくたちは、順番に結城先輩と握手した。ミアだけは、会話をしただけであった。
そのあと、ぼくたちは別れた。
ぼくたち8人は中等部へと歩きだす。
とても疲れた。
育芸館に帰ったら、10時をまわっていることだろう。
見上げれば、ふたつの月が、昨日より少しふくらんで見えた。
満ちようとしているのだろうか。
この世界の周期はわからないけど、いまの状態からすると、あと数日で満月……なのかなあ。
育芸館に戻る。
見張りの少女が、大声をあげて、なかのひとたちにぼくらの帰還を知らせる。
僕は、飛び出してきた志木さんに張り倒された。
そのあと、志木さんにぎゅっと抱きしめられた。
志木さんの大きな胸が僕の本能を刺激する。
「えっと、志木さん、男のひとと接触して……だいじょうぶなの」
「だいじょうぶなわけ、ないじゃない。でも、心配したんだから」
志木さんは泣いていた。
本気で心配してくれていたらしい。
積もる話はあるけれど、詳しいことは明日にしようということになる。
志木さんを捕まえて、簡単に高等部で起きた出来事を説明しておく。
本校舎で確保できた少女は、すみれを入れて十一人。
ぼくたち育芸館組は、34人にふくれあがったことになる。
それでも、高等部の方がはるかに人数が多いのだけれど……。
「いまは、彼らのことはいいわ。目の前の問題をひとつひとつ、解決してきましょう。あなたが高等部を全滅させなかったことで、こちらにも多少は時間的な余裕ができた。素晴らしいことよ」
志木さんはそういった。
僕は、ドラム缶風呂に入った。
お風呂から上がり、自室に戻ったところで、志木さんにお風呂場に向かうように頼まれた。
「叩きおこしちゃ駄目か」
風呂場で精子を放出しおえて寝ている和弘を見ながらいう。
「気持ちはわかるけど、あなたは、カズ君を寝かせてきてね」
志木さんの頼みで、和弘を持ち上げて、和弘の部屋に運んだ。
お風呂掃除は、アリスとタマキがしていた。
次
男子寮からこちらを覗いているのかもしれないが、逆光の照明が邪魔でよく見えない。
照明がこれだけ明るいとナイトサイトの効果がうまく出ないのだ。
ぼくは、ソルジャーとファイア・エレメンタルに指示を出して、先ほど死んだ男を埋葬するように命令を下した。
「・・・いいよな」
「はい」
アリスとミアの許可を得て、僕は芝を埋葬した。
そして、僕たちは、散らばった宝石を集める。
「ところで、この剣、もらっていいのか?」
「そうだな。あげるぞ」
剣を入手した。
あと念のため、シバの銃は持ち帰ることにする。
銃弾のコピーも可能とわかった以上、ひょっとしたら利用できるかもしれない。
アリスに聞いたらシバが腰につけたポーチと背負ったバッグのなかに弾丸が入ってるとのことで、それもすべて回収する。
「ところで、シバのやつ、どこから猟銃なんて手に入れたんだ」
「理事のひとりがこっそり隠し持っていたんだそうです。以前、こっそり銃を撃たせてもらったって、自慢していました」
なるほど、たしかにこの山は、まるごと学校の所有物だ。
生徒の立ち入りが禁止されている裏側にまわれば、違法に銃を使っても、そうそうバレはしないだろう。
銃弾は全部で百発近く残っていた。
そうとう撃っただろうに、まだこんなにあるのか。
その理事ってひとも、いったいどれだけ貯め込んでいたんだか……。
まあ、いい。
その理事がこの場にいないということは、すでに死んだか、たまたまこの学校にはいなかったのか。
どちらにしろ、訊ねる相手はもういない。
ざっと宝石を集め終わったあと、ぼくたち8人は第一男子寮前の広場から立ち去る。
後ろを振り返りもしない。
ある程度、男子寮から離れたところで、気配がした。
僕とたまきが立ち止る。
「なにやつ! くせものだわ! であえ、であえ!」
ククク、というわざとらしい笑い声が森に響く。
アリスが慌てる。
両手をばたばたさせて、涙目で和弘を見る。
「拙者でござる!」
忍者装束に身を包んだ男が、ぼくたちの前の木陰から現れる。
パニックに陥って槍で攻撃しようとするアリスを、たまきが慌てて押さえる。
彼が誰か、ぼくたちで説明する。
「え……ミアちゃんのお兄さん、ですか」
「いかにもでござる。これが、取り返してきたミアの腕でござるよ」
結城先輩はぼくにミアの左腕を渡してくれる。
軽い。
でも先輩は、とても大切に、壊れ物のように扱っていた。
「アリス」
「はい」
アリスがミアの左腕を欠損部分にやると
「キュア・ディフィジット」
ミアの左腕が見る間に元通りになっていった。
治療魔法ランク4のキュア・ディフィジット。効果は、損傷した体を再生する。だが損傷した体の一部がないと再生できないという欠点もある。
先輩は、一歩下がって、ぼくたちに深くお辞儀をする。
「ミアを頼むでござる」
「結城先輩も育芸館に来ませんか」
ダメもとで訊ねてみる。
だが忍者装束の男は、首を振ってぼくの申し出を拒絶する。
「拙者には、この高等部でやるべきことがたくさんあるでござるよ。拙者にしかできないことでござる」
彼は以前にいっていた。
あちこちの避難所を繋ぐ役割を果たしていると。
でも……と心配そうに彼を見るたまき。
だが結城先輩は、快活に笑ってみせる。
「ひとつだけお願いがあるでござる」
「なんです? ミアのことですか」
「猟銃を拙者に預けて欲しいでござるよ。それを使って、高等部の有志をレベル1にしていきたいでござる」
なるほどとぼくは考える。
銃の撃ち方さえ覚えれば、オークを殺すことも比較的たやすいか。
「って、撃ち方は知ってるんですか」
「いろいろこっそり習得したでござるよ。安全な射撃の方法を教授していくでござる」
すげぇな、忍者って。
いや、この結城先輩ってひとがすごいのか。
「条件があります」
「なんでござる」
「結城先輩がレベル1の生徒を増やすなら、その生徒たちはあなたがまとめあげてください」
結城先輩は、腕組みして唸った。
そんなに悩むところだろうか。
「忍者は忍ぶモノでござるからなあ……」
「そこですか」
「いやしかし、客観的に見て、おぬしの申すことはもっともでござるなあ」
一応、状況は正確に理解しているんですね。
「仕方がないでござる。そこまでいうなら、少なくとも組織の舵とりをする役目は引き受けるでござるよ。その条件でよろしいか」
「ええ、結城先輩がそういってくださるなら、安心できます」
和弘は笑って、猟銃と銃弾を手渡した。
「では、明日一日で、なんとか高等部をもう少しマシな状態にしてみせるでござるよ」
「男子寮組以外を、ですか」
忍者は、うむ、とうなずいた。
「ひょっとしたら、生き残りを率いて育芸館に向かうかもしれないでござる。そのときは……」
「はい、歓迎します」
ぼくたちは、順番に結城先輩と握手した。ミアだけは、会話をしただけであった。
そのあと、ぼくたちは別れた。
ぼくたち8人は中等部へと歩きだす。
とても疲れた。
育芸館に帰ったら、10時をまわっていることだろう。
見上げれば、ふたつの月が、昨日より少しふくらんで見えた。
満ちようとしているのだろうか。
この世界の周期はわからないけど、いまの状態からすると、あと数日で満月……なのかなあ。
育芸館に戻る。
見張りの少女が、大声をあげて、なかのひとたちにぼくらの帰還を知らせる。
僕は、飛び出してきた志木さんに張り倒された。
そのあと、志木さんにぎゅっと抱きしめられた。
志木さんの大きな胸が僕の本能を刺激する。
「えっと、志木さん、男のひとと接触して……だいじょうぶなの」
「だいじょうぶなわけ、ないじゃない。でも、心配したんだから」
志木さんは泣いていた。
本気で心配してくれていたらしい。
積もる話はあるけれど、詳しいことは明日にしようということになる。
志木さんを捕まえて、簡単に高等部で起きた出来事を説明しておく。
本校舎で確保できた少女は、すみれを入れて十一人。
ぼくたち育芸館組は、34人にふくれあがったことになる。
それでも、高等部の方がはるかに人数が多いのだけれど……。
「いまは、彼らのことはいいわ。目の前の問題をひとつひとつ、解決してきましょう。あなたが高等部を全滅させなかったことで、こちらにも多少は時間的な余裕ができた。素晴らしいことよ」
志木さんはそういった。
僕は、ドラム缶風呂に入った。
お風呂から上がり、自室に戻ったところで、志木さんにお風呂場に向かうように頼まれた。
「叩きおこしちゃ駄目か」
風呂場で精子を放出しおえて寝ている和弘を見ながらいう。
「気持ちはわかるけど、あなたは、カズ君を寝かせてきてね」
志木さんの頼みで、和弘を持ち上げて、和弘の部屋に運んだ。
お風呂掃除は、アリスとタマキがしていた。
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