ケイの転生小説 - 八男って73
「ルイーゼの師匠って誰なんだろう?」

「さあ? ボクも聞いてないんだよね。ヴェルとルークは?」

「なんとなく想像がつくけど、言いたくないなぁ……口に出すと本当にそうなってしまいそうで……」

「他にいないだろう」

「ボクは違うけどね」

「いいなぁ……」

「確かにな」

 俺は、魔道具製造が一段落すると関係者用のパーティを開き、お祝いすることにした。パーティを終えるとリアやハクカ達と夏休みを満喫することにした。最もラングレー公爵家のようなトップの人たちは、魔道具製造やパルケニア草原の利権確保で大忙しのようであった。

 夏休みが終わり新学期が始まり、俺とヴェルとルイーゼはなぜか同じ場所に向かって歩いていた。
 エルとリッドとジビラとミュウは近衛騎士隊のワーレンさんに剣を習うために、イーナとイザベルも同じ近衛隊で槍術の達人がいるのでその人に槍を習うために城へと向かっていた。ハクカは、教会で『ホーエンハイム家の聖女』に聖魔法を教えてもらうそうだ。

『お土産必要かな』

『・・・なら美容品を使うか?』

『いいの』

『別に構わないぞ』

『ルーク様・・・よろしいですか?』

 リアが困った顔をしながら、きたのだ。

『どうかしたのか?』

『お母様が・・・美容品を購入したいといってきておられました』

『なるほど』

 俺は、リアを見て、頷く。

『宣伝してくれれば、渡すよ。そうだ、リアも美容品を使うといい』

『ありがとうございます』

『人気だよね』

 リアの肌は、『シャリオ乳液』『ホッフェンシャル』の効果で肌が瑞々しく、艶やかになっていた。
 ハクカとミュウとイザベルも同じ効果を発揮していた。

 俺とヴェルとルイーゼはなぜかとある軍の施設に行くようにと言われたのだ。
 俺とヴェルは魔法使いだし、ルイーゼは同じ魔力持ちながらも魔闘流を使う武闘家だから、同じ場所で訓練するのは変だと思う。
 軍の施設に行くから、そこに武芸の先生がいるってことかな。
 ルイーゼの師匠は、俺は高名な武闘家に詳しくないからよくわからん。
 俺とヴェルとルイーゼは魔力持ちでもまったくタイプが違うので、一緒に鍛錬すると効率が悪いような……。
 でもブランタークさんのように基礎くらいは教えられるなら、最初は一緒でも問題ないと思われているのかもしれない。
 俺とヴェルは万能型の魔法使いで、ルイーゼは魔力で攻撃力と防御力を強化して戦う魔戦士に分類されるわけだが、別にこういう人は珍しくない。

 一つの系統魔法にのみ、突き抜けた才能を持つ人。
 ハクカとミュウなどがそれで、治癒を中心に聖属性の魔法しか使えないから、彼女たちも特化型とも言えた。
 他にも魔道具造りに使用する魔法しか使えない人や便利な生活系の特殊魔法しか使えない人に、『瞬間移動』や『通信』魔法しか使えない人もいる。

 特にこの『通信』という魔法。
 風の系統に属する魔法であったが、この魔法が使える魔法使いは、軍や商人が高額で囲い込むほど便利で希少な魔法であった。
 達人になると数千キロをタイムラグなしで相手の魔法使いや通信専用の魔道具に声を届かせることができる。
 俺も『通信』が使えるかどうか試してみたけど、残念ながら今のところは使えなかった。

「ボクが、ヴェルとルークと一緒に特訓?」

「『火炎』の魔法でも覚えるか?」

「無理だから。才能がないんだよ」

 そんなわけで、俺とヴェルとルイーゼが同じ場所で鍛錬を行う理由が存在しない。

「すみません、本日……」

「おおっ! よく来たのである!」

 施設の門番に経緯を伝えるとすぐ奥に案内され、とある建物の入り口の前で声をかけると、すぐさま大きな塊が建物の中から飛び出して来た。

 しかもその顔には見覚えが……。

 夏休みに半月近くも行動を共にした、魔法使いとしては超一流で素晴らしい人のはずなのに、なぜか暑苦しい印象しか残らないあの人物。

 王宮筆頭魔導師なのに、焼いた魔物の肉にかぶり付くのが似合っているあの人物。

 クリムト・クリストフ・フォン・アームストロング子爵。

 その人がこれまでどおり、暑苦しい笑顔で俺たちを待ち受けていたのだ。

「アームストロング導師が、俺とルークとルイーゼの先生なのですか?」

「左様! 某、楽しみで昨日はなかなか寝つけなかったのである!」

「(導師様でも、眠れないなんてことがあるんだね)」

「(しぃ−−−!)」

 魔力で物質化していた鎧を着ていたとはいえ、竜を素手で殴る。
 どう考えても、普通の魔法使いからは半分以上逸脱しているアームストロング導師が俺たちの先生という現実に脳が拒絶反応を示した。
 向こうは楽しみかもしれないが、こちらからすると嫌な予感しかしなかったからだ。
 隣で初めて見る筋肉王宮筆頭魔導師に絶句しているルイーゼ。

「ルイーゼなら、きっとあの戦闘方法は参考になるだろうなぁ。どんな魔法かは、本人に詳しく聞くといいよ。俺は……邪魔すると悪いかな?」

「えっ? ボクとルークだけ? ヴェルも一緒に決まっているじゃないか!」

「いやぁ、俺は格闘技とかは苦手でねぇ……。遠距離から魔法で攻撃と援護が適任でしょう。俺は剣は駄目だから」

「剣は駄目でも、格闘技なら大丈夫かもしれないじゃないか! 一緒に習おうよ!」

 なぜか必死にヴェルを説得するルイーゼであったが、やはり彼女もこの暑苦しい王宮筆頭魔導師と訓練をするのが嫌なのであろう。
 なぜそれがわかるのかといえば、俺だって嫌だからだ。

「俺は、魔法の訓練を優先させたいなぁ。まだ魔力の限界もきていないから」

「俺も魔力の限界がきてないな」

 俺はまだ十二歳で、先生から毎日欠かさず行うようにと言われている魔力の循環や各種魔法の実技訓練。

「なんと! すでに某を超える魔力を持ちながら、まだ成長限界にきておらぬと!」

「はい。なので俺は……」

 導師は、なぜか感激の涙を流しながら、ヴェルの両肩をガッシリと掴んでいた。

「ならばなおのこと、某と魔法の訓練をするのである! 魔力の循環訓練では、某の『魔導機動甲冑』ほど効率のよいものはなく。『飛翔』の高速化と『身体能力強化』をしたままでの戦闘に慣れれば、魔闘流のように高度な格闘センスを必要とはしないのである。某も、格闘技など他人から習ったことはないのである!」

 アームストロング導師の説明は理に叶っていて、おかげで俺が逃げる好機を逸していた。
 というか、この筋肉導師。
 あの強さは、頑強な肉体と魔法のみで再現しているらしい。
 世間の武道家から見ると、とんでもない人物なのであろう。

「アルフレッドは、某のような格闘魔法のみの魔法使いとは違って、多彩な魔法を器用に使いこなす天才であったが腕っ節の方はサッパリであった。才能がないのだと本人は言っていたが、せめて某の『魔導機動甲冑』だけでも習得しておれば……」

 あの南の果ての魔の森で、命を落すようなこともなかったかもしれない。
 アームストロング導師は、寂しそうな顔をしながら俺たちに語っていた。

「ねえ、ヴェル、ルーク」

「そうだな。まだやったことがないものを、できないと決めつけるのは早計か」

「仕方ねえな」

 俺は、アームストロング導師から魔法を習うことを決意した。

「少年たちには才能があるのである! すぐに覚えられるであろう」

「ありがとうございます。ですがよろしいのですか?」

 俺は唯一懸念していたのは、アームストロング導師は王宮筆頭魔導師なので『忙しいのでは?』という点であった。
 書類仕事や部下の管理を粛々とこなすアームストロング導師の姿が思い浮かばないが、筆頭である以上は、そういう仕事からは逃れられないのではと。

 そういう風に思っていたのだ。

「それならば、まったく心配ないのである! 某は、陛下に呼ばれないと城に行く必要がないのである!」

「えっ? それは本当ですか?」

「考えてもみよ。某など、王国の日々の統治でなんの役に立つ? 前回のグレードグランド討伐を見てもあきらかであろうが、基本的に王宮筆頭魔導師などは、有事以外はお飾りなのである!」

 陛下の護衛などは、近衛と王宮魔導師の中から中級レベル数名で事足りてしまうし、部下たちの中から、自分とは違って書類仕事が苦にならない人たちを下に置いているので、なんの問題もないらしい。

 たまに用事があるとすれば、定期的にある公式行事に王宮筆頭魔導師として顔を出すくらい。 
 あとは、私的に陛下に呼ばれた時くらいだそうだ。

「恐れ多くも陛下は、某を子供の頃からの親友であると仰られ、定期的に顔を出すようにと言われているのである」

 なるほど。

「それに、この訓練は某のためでもある」

「アームストロング導師のため?」

「左様。某は、まだ魔力量の限界が訪れておらず……」

「「「えーーー!」」」

 今でも化け物なのに、アームストロング導師は四十歳を超えてもまだ魔力が成長途上にあるらしい。
 普通なら、二十歳前には魔力の成長が限界を超えてしまうというのに……。
 つまりアームストロング導師は、成長力でも特殊な部類に入る魔法使いであったというわけだ。

「ルイーゼ嬢にも、まだ魔力の成長限界はきてはおらぬ。よって、今日は最初に『器合わせ』を行うこととするのである!」

「誰からやります」

「ヴェル少年とルーク少年からである」

 導師の一言で、俺は、ヴェルと『器合わせ』を行なった。
 10分後・・・終わった。

「次は」

「某とルイーゼ嬢である。ルイーゼ嬢は、誰とするである」

「ボク・・・は、ヴェルとする」

 俺と導師、ヴェルとルイーゼが『器合わせ』を行なった。
 それと彼が連れて来た数十名の見習い魔法使いと器合わせを行うだけで時間がきてしまった。
 器合わせは、魔力を合わせる相手が自分の魔力限界量を超えていれば一回で最大魔力量まで引き上げることが可能だ。
 魔法量が知れてしまうので、それでショックを受けたり、その事実を受け入れられなくて器合わせをしてくれた相手に暴言を吐くといった例もあると聞く。

 そのため、お互いに信頼関係がないと行われない。
 俺と先生のように、師弟関係がないとそういう話にならないのだ。
 この数十名はアームストロング導師が認めた弟子たちであり、器合わせではなるべく魔力量が高い人と行った方が回数も少なくて済む。
 導師の部下たちはみんな忙しいので、器合わせを一回で終わらせようと、俺の元に彼らを連れて来たようだ。
 『器合わせは、子供の頃にやった方がいいのでは?』と、魔法使いではない人がよく言う。
 だがそれは、避けるべきだと言われていた。
 なぜなら、以前に魔法の才能がある赤ん坊に器合わせを施した結果、その赤ん坊が膨大な魔力を得たのはいいが、泣くたびに風の魔法で部屋をメチャメチャにし。
 おっぱいが欲しいと魔法で強引に母親を引き寄せたり、歩き始めると一緒に遊んでいた子供から玩具を取り上げるために魔法を使ったりした。

 器合わせをするには、その相手の自我と理性が一定以上に達し、ある程度は魔法の修行を行っているという条件が必須となっていた。

「この中の全員が、この一回で魔力量が限界まで上がるであろう。だが、その量が少なくとも悲しんでは駄目なのである! 確かに魔力量も重要ではあるが、他にも魔法では鍛えられる部分も多い! むしろ、魔力量の増大に使う時間が節約できたので、お主たちは幸運なのである!」

 どこから連れて来たのかは知らなかったが、アームストロング導師は、俺とヴェルと器合わせをしたために魔力酔いをして床に寝そべっている彼らにそう説明していた。

 ただ全員が最低でも中級レベルの魔力を保持していることからして、彼らは将来の王宮魔導師候補だと思われる。

「でもどうして、ルークとアームストロング導師は魔力酔いをしないのかな?」

 ルイーゼも、彼らほどではないが少し眩暈を感じているらしい。
 ヴェルの近くに座り込んでいたが、その成長は驚異的の一言であった。
 魔力量が、中級から上級の間に匹敵するレベルにまで上昇していたからだ。
 さすがは、家族に遠慮して魔力量強化の修行を最近になって始めた逸材であった。
 しかしながら、器合わせを終えたルイーゼに他の魔法が使えるのかは不明だ。
 これからの課題というやつであろう。

「そういえば俺もしなかったけど……」

「つまり導師とルークとヴェルって……」

 現在のアームストロング導師の魔力量は、俺とヴェルとまったく同じ。
 ようするに俺と同じく魔力量の成長限界はまだきていないという証拠であった。

「ふむ、器合わせで大きく魔力路と魔力袋が広げられる感覚は久しぶりなのである。なんと心地よいことか……。では、早速に『魔導機動甲冑』の出し方からである!」

「今から修行するのかよ!」

「当然である!」

 俺とヴェルとルイーゼは、あまりに元気なアームストロング導師にその場で思わず脱力してしまう。



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