ケイの転生小説 - 八男って7
「さて、魔法の練習を始めよう」

 再び書斎に戻った僕は、まずは本棚から初級魔法入門という本を引っ張り出し、埃を被った水晶玉と共に目の前に置いた。

「ええと……。まずは、覆うように水晶玉に両手をかざします」

 本に書かれたとおりにすると水晶玉は薄く虹色の光を放っていた。

「わ・・・え・・・なんで」

 驚いて、水晶球から思わず手を放してしまう。

「虹色の光が出ますが、それは誰もがそうなるので驚かないでください」

 ホッ

 驚く人が僕以外にもいたんだ。

「次に、その虹色の光を手の平から吸収し、体内で循環させるようなイメージを頭に思い浮かべてください」

 また本に書かれたとおりにすると手のひらが熱くなる感覚を覚えた。

「この熱を循環させるイメージか」

 僕はぐるりと体の中をどこに通せるのか探りながら、魔力を回してみた。
 イメージとしては、心臓が血液を全身に循環させる感じである。
 すると身体が次第に熱くなる感覚を覚えた。
 そして、水晶玉から虹色の光が消えていた。

「水晶玉から虹色の光が消え、体が熱く感じた人は魔法の才能があると断言します。とはいえ、その才能には大きな差があるので過剰な期待はしないように。それと、この魔力を体内で循環させる訓練は、毎日数をゆっくり100数える間実行すると好ましいでしょう。最初のうちは、魔力を循環させるのも一苦労なので水晶玉に触れたままま体内の魔力を感じて循環させるといいでしょう」

 本に書かれた内容によると魔力とは人間の体内にある魔力路という血管のような器官を循環し、魔力袋と呼ばれる臓器に蓄えられているらしい。

 ただこの二つの器官は、当然人間を解剖しても発見はされない。
 昔の有名な学者が唱えた学説によると血管と肝臓の違う次元の同位置に存在する可能性が高いそうで……完全に証明されたわけではないのであくまでも仮説扱いだけど……ほぼ事実であろうと本には書かれていた。

「魔力の循環を行い、魔力路を広げて活性化させると魔法の威力が上がり、意識して魔力袋に大量の魔力を送り込むと同じく魔力袋が広がって魔力量の増大に繋がるか」

 魔力袋は、魔法少女のリンカーコア、魔力路は、NARUTOの経絡のようだと感じてしまう。
 魔力量を増やすのに魔法を大量に使うのは、この手の物語やゲームでは手慣れた手法であろう。
 他にも魔法の精度と威力、それに魔力の全体量が上がるそうだ。

「ただ、どんな人間にも限界があります。三日連続で魔力の増大を実感できない場合は、ほぼ間違いなく魔力量の成長限界です。使える魔法の種類を増やしたり、威力や精度の向上に努めた方が賢明でしょう」

 なるほど。
 ここまで魔法の研究は進んでいて、その成果を惜しむことなく世間に公表しているようだ。
 習得の方法は研究され尽くしているのに、魔法を使える人間は極めて少ない。
 魔法が社会の発展のために使えればとても便利だが、その需要は増える一方で、減ることなどまずあり得ないから、国家は常に魔法使いを探しているというわけか。

「つまり、魔法が使えれば自立への道は早くなる。まさに『芸は身を助ける』だな」

 僕は、このまま30分ほど魔力循環訓練を行った。

「・・・はぁはぁはぁ・・・・疲れる」

 僕の身体から流れる汗。
 魔力循環を行うと身体がポカポカするので仕方ないのだ。
 一旦、魔法の訓練をやめて休憩をした。
 剣術の訓練である。

「ハッハァ」

 木剣を握りながら振り下ろす。
 これらを何百回と一人で続けるのだ。
 剣術の訓練を終えるとクリスお姉さまがタオルを持ってきてくれた。

「ありがとうございます」

「訓練お疲れ様」

 剣術の訓練を終えたら、魔力放出の訓練である。

「魔力を手のひらから放出しましょう」

 言われたとおり、魔力を手のひらから放出することを試みた。

「ん〜・・・・だめか」

 魔力が動かないのだ。

「魔力が動かない方は、水晶玉に触れたまま魔力を循環させて、手のひらから魔力を放出させてください」

 水晶玉に触れたまま魔力を循環させて、手のひらから魔力を放出させた。
 ここまでに1分はかかっているので道のりは遠そうだ。
 これまた30分近く魔力放出の訓練を行った。
 訓練を終えると休憩をした。
 クリスお姉さまがちょうどいいときに切った果物を持ってきてくれた。

「ありがとうございます・・・おいしい」

「それならよかったわ」

 しばらくクリスお姉さまと話したら文字の読み書きである。
 文字の読み書きをしばしクリスお姉さまに教わると

「放出した魔力を維持する訓練ですが、放出した魔力を球状に留めてください」

 言われたとおり、魔力を球状にする訓練を行った。
 初心者なので水晶玉に触れたままであった。
 しばし休憩をすると弓術の訓練である。
 的めがけて弓を構えて弦を引く。

「・・・当たらない」

 距離が遠いと当たらないようだ。
 弓術の訓練を終えると初級魔法の習得に入ることにする。
 とはいえ初級なので、マッチやライター程度の火種を指先に出したり、持ってきたバケツにコップ一杯分程度の水を注いだ。
 目の前が暗くなり

 ドサッ

 とルークが床に倒れた。



 しばらくルークが気絶していると

「・・・・あれ?・・・・2回目は駄目か」

 どうやら気絶していたようだ。
 太陽と時計を確認すると1時間ほど気絶していたようだ。
 手の平の上に小さな竜巻を出しては消したり、外から持ってきた土を鋭い棘に変え、的にした端切れの板にダーツのように刺した。

 15分ほど休憩し、1時間ほど運動をした。

 運動を終えると再度魔法の練習である。
 軽い物を浮かべたり、豆電球程度の光を指先に出したりしていく。
 それほど難しいとは思わず、水晶を手に持ちながら魔力を手のひらに放出し、頭の中でイメージをしたものがすぐにできるようになっていた。
 本によると特に小難しい術式の詠唱や魔方陣を書く必要はないらしい。
 もっとも人によっては、自分で考えた掛け声や文言などを呟いたり、叫んでみたり、それに杖を振るう動作を含めたアクションなどを加えてみたりと。

 それぞれの個性が出るそうだ。

 それで魔法の精度や威力が上がれば、それはその人に向いている発動方法であるし、僕のように無詠唱で頭の中でその魔法が発動した時のイメージ画像を思い浮かべて成功してしまう人もいる。

 簡単に言えば、『才能のある人はすぐにできるようになるし、駄目な人はいくら努力しても無駄です』と本にはかなり酷い説明文が書かれていた。

 本に書かれているとおり、僕はこれら初級魔法を繰り返し練習し続けたのだ。

「『1つの属性につき20時間ほど練習して特に難しいと思わなければ、次は中級編です』かぁ……」

 本にそう書かれているので、予習代わりに中級編の本をパラパラと捲ってみる。
 中身は、火の矢、氷の矢、距離の離れた地面から岩の棘を出して遠距離の敵を串刺しにする、小さなカマイタチで標的を斬り裂くといった魔法や簡単な身体機能強化などの魔法が書かれていた。

「毎日魔法の練習をしてみようか」

 それから2ヶ月。
 僕は本に書かれた通りに魔法の修練を行うが、なぜか家族からは『魔法が使えたのか?』と一切聞かれなかった。
 多分、『宝くじに当たったのか?』と真面目に聞くような行為だと思われたからであろう。