私の名前は、デイジーよ。
大貴族の娘として生まれ、生まれ持った美貌と幼少の頃から努力して習得した知識と教養、そしてその高貴な血に相応しいエレガントさを身につけてきました。
その集大成として、教会本部に見習い修道女としてお手伝いに行いくことになり、さらに貴族令嬢として磨きをかけていく。
いつ嫁ぐことになっても問題ないようにしておくことこそが、高貴な家に生まれた、選ばれた貴族令嬢としての義務なのですから。
きっと私が教会本部にお手伝いに行けば、みなさんは美しく、知的で、エレガントな私に大いなる賞賛を送るはず。
そして素晴らしい男性が、是非私を妻に欲しいと望むはずですわ。
もしかしたら、多くの素晴らしい男性たちが私を取り合うような事態になってしまうかも。
もしそうなったら大変心苦しく……美しすぎるというのは本当に罪ですわね……のはずだったのですけど……。
「きぃーーー! いつもいつも! エリーゼばかりチヤホヤされて! この私を誰だと思っているのよ! 私は、あのバルトハウト伯爵家の娘だというのに!」
こんなことはあり得ませんわ!
下々のために、わざわざバルトハウト伯爵家からやって来たこの私が、他の下級貴族の娘たちや商人の娘たち同じような扱いを受けるだなんて!
なにが、『どのような出自でも、見習い修道女の扱いに差はない』よ!
ホーエンハイム枢機卿!
自分の孫娘ばかり依怙贔屓して!
これだから、生臭神官たちは!
「あのぅ……エリーゼさんだけが依怙贔屓されていることはないと思いますけど……。そういう批判を受けないように、ホーエンハイム枢機卿はちゃんと配慮していますから」
「なんですの? この私が間違っているとでも?」
私と同じく見習い修道女をしている下級貴族の小娘が、生意気にもこの私に意見すするなんて!
いいですわ!
この小娘の間違いを正して差し上げましょう。
「ではどうして、エリーゼだけが楽なお茶汲み当番をしているのです?」
それもホーエンハイム枢機卿のみならず、教会のお偉いさんばかりに!
「教会上層部のウケを狙うにしても露骨すぎますわ!」
「最初は私たちも順番にお茶汲み当番をしていたではないですか。でも特に、デイジーさんはお茶の味には問題があって……。そもそも私たちって、ここに見習いに来るまでお茶なんて淹れたことがないから、美味しいお茶を淹れられるエリーゼさんが指名されるだけで…… 」
「高貴な貴族令嬢が自らお茶なんて淹れませんから、貧乏臭い子爵家令嬢のエリーゼにお似合いですこと」
伯爵家令嬢である私が、お茶なんて淹れられなくても問題ありませんわ。
むしろ、そういう仕事を下々に回すのも大切な役割なのですから。
「そう! スラムの炊き出しですわ! どうしていつもエリーゼが指名されて、私は留守番なのですか?」
「それは、デイジーさんがまったく料理ができないからだと思います。炊き出しをしなければいけないので、料理ができない人が参加しても意味がないじゃないですか」
「意味はありますわ!」
高貴な貴族令嬢である私が、下々に声をかけて元気づけるという、その生まれに相応しい仕事が。
「スラムの人たちには温かい食事が必要なのであって、励ましの言葉をもらっても意味がないような……」
「まあいいですわ」
自ら食事を作るなど、貧乏臭い子爵家令嬢のエリーゼにはお似合いですこと。
次の炊き出しでは、我が家の料理人を同行させていいか聞いておきませんと。
「それにエリーゼは、いつも男性神官たちにチヤホヤされて! 美しさは私の方が圧倒的に上ですのに!」
「それは……その……人によって見方は色々だと思いますけど、エリーゼさんも美人ですし、なにより胸が大きいですから。ご本人は肩が凝って疲れるし、男性の視線が胸に集中するので嫌がっていましたけど」
「きぃーーー! 自慢ですの?」
「ああ……どう説明しても……」
確かに私は、ちょっと胸が慎ましやかなような気もしますけど、あと数年もすれば、エリーゼなんて余裕で抜き去るはず。
そうなれば、きっと私も多くの男性たちの視線を集めるようになりますわ。
「まあ見ていればいいですわ、もう少しすれば、きっとエリーゼよりもこのデイジーが、教会で一番チヤホヤされるようになりますから」
「あの……デイジーさんは、なにをしに教会に来られたのですか?」
そんなことは決まっていますわ!
バルトハウト伯爵家の令嬢であるこの私の素晴らしさを、世間に広めるために決まっいるではないですか。
「(駄目だぁ……この人、なにもわかってない……)」
「なにか文句でも?」
「いいえ、なんでもないです!」
下級貴族の小娘は、この私の引き立て役として頑張ればいいのですから。
それにしてもエリーゼめぇ!
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