結婚披露宴が終わった翌日。
俺たちはローラン兄さんとミリアリア義姉さんの案内で、王都内にある商業街を訪れていた。
「さすがは王都の商業街だ。もの凄く賑わっているな」
「俺もブライヒブルクを見た時はすげえって思ったが、王都はそれ以上だよな」
「伊達にこの国の首都じゃないってことさ。この商業街には、大小様々な商店が軒を連ねている。王都の住民のみならず、近隣の町や村、さらには国内各地からも買い物に訪れる」
さすがは一国の首都にある商業街、ブライヒブルクにある商業街よりも遙かに規模が大きかった。
実家とは比べるまでもない。
なにしろファブレ騎士爵領には、お店すら一軒もないのだ。
「わざわざすいません。ミリアリア義姉さん」
「気にしないで。主人はこれから三日間お休みだから」
この世界では、結婚をすると大抵は三〜五日間くらいの休暇が貰えるらしい。
それと新婚旅行だが、遠方に出かけるのはかなりお金に余裕がある中堅以上の貴族とか、大商人くらいであるらしい。
都市部の下級貴族や標準レベルの生活をしている平民は、三日間ほど休暇を取って、地元都市内での観光や買い物などで時間をすごすそうだ。
旅行は新婚に拘らず、平民は一生に数回あれば上等という一大イベントであり、それに備えてお金を貯めるわけだ。
なお、うちの実家のような農村には休みなどなかった。
結婚した兄さんたちも翌日から普通に仕事をしていた。
「ところで・・・・」
俺は、ミリアリア義姉さんが連れてきた女性に視線を移した。
ブラウン色の髪に瞳をした美少女。
「ルークたちは、会ったことあるけど初めてよね」
「初めまして、ミリヤム・ヴィレム・フォン・ブラントといいます」
ミリヤムがカーテシーをした。
「初めまして、ルーク・フォン・ファブレです」
「はじめまして、リア・フォン・ラングレーといいます」
リアも同じようにカーテシーをした。
俺達も自己紹介をした。
「結婚式が中止になったから、気分転換につれてきたのよ」
「なるほど」
「しかし本当、色々なお店があるよなぁ」
「そうね、ブライヒブルクも結構な都市なんだけど」
「人口だけでも五倍以上も違うし、仕方がないよ」
ハクカ、リッド、イザベル、ミュウは楽しそうにお店を見ている。
一国の首都というだけあって、スタットブルクは誰もが認める大都市であった。
政治と経済の中枢で、領地がない貴族の大半がここに居を置いていたし、有名な商会は必ずスタットブルクに本部を置く。
ここに本部があることが、商人にとってのステータスでもあったからだ。
これに加えて、スタットブルクの半径二百キロ圏内には人口が1万人を超える街が多数点在していて、まさに首都圏とでも言うべき経済圏を形成していた。
「まあ、欠点がないわけでもないけどね」
「欠点ですか?」
「王都は、水が不味くてそのままだと飲めないんだよね。それに加えて、人混みも多く、物価が高いんだよね」
ローラン兄さんが語った欠点は、都市部特有の悩みであった。
「あとは、パルケニア草原が邪魔でこれ以上の発展を妨げているとかね」
パルケニア草原は王都周辺にある最後の魔物の領域であった。
領域のボスとして『グレードグランド』と名付けられた老土竜がいて、今までに何度も冒険者集団や軍隊を返り討ちにしてきたそうだ。
「パルケニア草原が開発可能になれば、まだ首都圏は発展するだろうね」
大規模穀倉地帯の開発、パルケニア草原のせいで分断されている街道の整備も可能となるので、その経済効果は計り知れないとローラン兄さんは説明してくれた。
こういうところは、さすがは中央の役人というべきか。
「でも、そんな厄介な竜を誰が倒すんです?」
「あくまでも倒せたらの話だからね。さあ、買い物を楽しもうか」
ローラン兄さんの話は終わり、俺たちは買い物を楽しむことにする。
そのためにここに来たんだから。
「リッド、その剣を買うのか?」
「値段の割にはいい鋼を使っているからな。ここは買いだろう」
「まあ・・・そうだな」
「ようし! 新しい剣をゲットだ!」
「私も買う」
結局買い物は、俺とリッドとミュウが新しい剣を手に入れ、イザベルが新しい槍を手に入れ、俺とリッドは新しい弓矢を新調した。
ローラン兄さんも普段は時間がないとのことで普段着などを数着購入していた。
あとの女性陣であったが、何軒も洋品店やアクセサリーショップなどを巡っているらしい。
「ローラン兄さんは、ミリアリア義姉さんにつき合わなくていいんですか?」
「前に一度つき合って、それで懲りた。普通の買い物はいいんだけどね」
ミリアリア義姉さんは、下級貴族の生まれなので普段はあまり無駄遣いなどしないらしい。
その代わりに足でお買い得品を探すので、それにつき合わされて辟易したそうだ。
せっかくの休みに半日以上も商業街を歩かされて、翌日職場に机の上でへばってしまったとローラン兄さんは話していた。
「(何気に、発想がバーゲンセールに熱中する主婦だよなぁ)」
ミリアリア義姉さんは、普段は温和で優しい感じの女性なので、やはり女性にとって『お買い得』という単語は鬼門のようであった。
あとは、『限定品』とか『処分品』とかのワードであろうか?
この辺は、前の世界と同じだな。
「ほら、ルークがご祝儀にくれた宝石をアクセサリーにしてくれるお店を探しているんだよ」
そういえば、俺はご祝儀に未開地で見付けた真珠を送ったのだが、これに大喜びのミリアリア義姉さんは急いでこれをアクセサリーにしようとしているらしい。
「女性は、宝石が好きなんですね」
「しかし、あの真珠をどこから……」
「ファブレ騎士爵から数十km先にある無人島から獲りました」
「・・・それなら問題ないね」
ヘルムート王国が所有しているわけでもない土地なのだから、問題ないのだ。
「どうかな?ルーク。似合っている?」
「・・・似合っているよ」
ハクカの青色を基調とした可愛いらしいワンピース姿に見惚れながら、辛うじて褒めることができた。
「ありがとう、ルーク」
ハクカが頬を赤くしてお礼を言ってきた。
何軒ものお店を巡ってようやく新しい服を購入したハクカたちが現れ、購入した服を嬉しそうに俺に見せていた。
「次は、私だね」
ミュウが、水色を基調としたシンプルなワンピースに黒のスパッツを見せてきた。
「動くミュウには、似合っているな」
「でしょう。これ、動きやすくていいよね」
「・・・まあ、そうだな」
「次は、私かしら」
イザベルが、翡翠色を基調とした胸元を強調させたワンピースで登場した。
「似合う」
「ありがとう」
「あの・・・どうでしょうか?るーくさま」
「・・・ああ・・・似合っているよ」
リアが、恥ずかしそうに白を基調とした可愛い系のワンピースを見せてきた。
少しだけリアの姿に見惚れた。
「ありがとうございます」
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