ケイの転生小説 - 八男って58
 リアと婚約した翌日。
 ザフト邸においてローラン兄さんの結婚式が行われることとなった。
 実は、ローラン兄さんとミリアリア義姉さんが知り合ってから三年も経っているそうだ。
 18歳で下級官吏の試験に受かったローラン兄さんの働きぶりを二年ほど見たトガーさんが、安心して一人娘を任せられると判断し、その間に地盤固めに動いた。

 わざわざそんな面倒なことをした理由は、貴族間の人間関係や他の親族たちからの嫉妬からきている。
 ザフト騎士爵家には娘が一人しかおらず、その跡は入り婿に継がせるしかない。
 そういう情報が流れると爵位と役職目当ての有象無象、爵位が欲しい親族たち、自称親族も湧いて出て、続けざまに寄親であるモンジェラ子爵も周囲からせっ突かれ、『こういう婿候補もいるんだけど……』とトガーさんに話を持って行くこともある。

 例えその候補者が駄目駄目で、推薦するに当たらない人物だとしてもだ。
 いきなり駄目と言うと角が立つので、一応は話を持って行かないといけない。
 寄親というのも、なかなかに大変なようだ。
 そんな中で、トガーさんはローラン兄さんを選んだ。
 当然、面白くないと思う連中は多い。
 ましてやローラン兄さんは、地方の貧乏貴族だからである。
 正式な結婚が遅れたのも、そういう面倒な横槍を調整するのに時間がかかったからというわけだ。

『もっとも、今は表立って文句を言う連中は減りましたけどね』

 トガーさんが言うには、竜を退治して双竜勲章と準男爵位を得た俺の存在が大きいそうだ。
 以前は、散々にローラン兄さんを『水呑み貧乏騎士の子供風情』と批判していたのに、今では『竜殺しの英雄の兄で、頭も切れる素晴らしい婿殿』だと掌を返す人も多いそうだ。

 嫌な話ではあるが、こんな俺でもローラン兄さんの援護ができたのだからよしとすることにしよう。

『偶然とはいえ、ミリアリア嬢の婿の件で強引に横槍を入れないでよかった……。私は、まだ運があるのだと思う』

『うちが騎士爵家で良かったですな』

『これが男爵家とかだとルックナー財務卿も絡んで来る可能性があった』

『もしローラン以外の人を強引に送り込んでいても、あの方は平気で竜殺しの英雄と縁を結べなかった件で怒るでしょうしな』

『立場上怒らないと駄目なのだが、言われるこちらは堪らんよ』

 これが、寄親であるモンジェラ子爵の正直な感想だそうだ。
 結婚式の前日。
 ザフト邸にフラリとやって来て、トガーさんに愚痴を溢していたのをなぜか俺も聞く羽目になっている。

『ファブレ準男爵も他人事ではないのだぞ』

 とテンションが下がる教訓と共にだ。
 最終的に、婿の選定で決定権を持つのはザフト騎士爵家当主であるトガーさんである。
 だが、場合によっては、寄親の力で強引に婿を押し付けられるケースも多々発生するのだそうだ。
 今回は、それをしないでよかったと安堵の溜息をついていたわけだ。

「今日は、絶好のパーティー日和だな」

「そうだな」

 パーティーはザフト家の屋敷と庭で行い、招待客は三百名ほどだ。
 一時間後に始まるパーティーに備え、ザフト夫人や屋敷のメイドたちが準備にてんてこ舞いである。
 屋敷の庭にはテーブルが置かれ、そこには沢山の豪華な料理や酒が並ぶ。
 さすがは貴族の結婚披露パーティーとでも言うべきか、寄親でもある中級以上の貴族も招待しているので当然ではあるのだが。

「貴族って、大変だな」

「そうだな」

 普段は質素な生活を送り、懸命に貯めたお金でここぞという時で使って、貴族として相応しい振る舞いをする。
 中級以下の貴族は、概ねそんな感じのようだ。

「招待される側も大変だよな」

 庭に繋がる部屋の奥に積まれたご祝儀が山と積まれていた。
 さすがに現金が入った袋はなかったが、夫婦が生活に使いそうな高級品の数々や衣服や宝飾品などだ。
 確かに寄子から招待されて寄親が手ぶらで参加するわけにもいかず、安いお祝いだと恥をかいてしまうわけで、金銭面での苦労は大きいのであろう。

 長年の慣習で相場が決まっていて、それに合わせて手痛い出費を迫られるのだそうだ。
 ファブレ家の祝儀ペースには、正装に着替え終えたローラン兄さんと荷物を持ち運んでいるオットーとカールとクリス姉さんとカイエンが話していたので赴いた。

「ルーク」

「ローラン兄さん」

「ファブレ準男爵家の祝儀をそろそろ出して欲しい」

「分かりました」
 
 ファブレ家の祝儀ベースに小麦粉などの物品を置いていると

「ルーク、手伝うよ」

「助かる、ハクカ」

 水色を基調としたドレスに着替えたハクカが手伝いをしてくれたおかげで早めに祝儀を置けた。
 お嫁さんには、『絹』の反物と『真珠』、ローラン兄さんには、装飾が施された弓と弓矢である。