ハクカを抱き寄せながら、魔導飛行船を目指す。
どちらも高速で移動しており、あっという間に俺達から遠ざかった。
「速いな」
「うん」
俺も時速1500kmの飛翔をしながら、どうにかおいつけた。
「大丈夫?」
「・・・うん・・・でも、寒いね・・・クッション」
「すまん」
ハクカが寒そうに身体を震えさせていたので、俺のロープの中に入れた。
その直後、骨竜はドス黒い毒霧のようなブレスを広範囲に吐き始めた。
「危ねえ!」
ヴェルはすぐに『魔法障壁』を発動させる。
船の方も完全に包み込む『魔法障壁』の展開を一瞬で終えていた。
すでに骨竜の至近に到達していたヴェルは、骨竜の両手と尾っぽからの連続攻撃を『飛翔』でかわしつつ、一気に溜め込んでいた聖魔法を発動させていた。
聖属性特有の青白い光は、ヴェルを中心として骨竜のすべてを包み込み、『聖光』を浴びた骨竜は数十秒ほど断末魔のような咆哮をあげていた。
その間、骨竜は滅茶苦茶に手足や尻尾を振り回してくる。
ヴェルは『魔法障壁』でそれを防ぐが、骨竜の傍から弾き飛ばされていた。
「ちっ」
このままだと骨竜が強くなると俺達でも対処出来ないかもしれないと考えた俺は、とっさに『高速飛翔』の間に貯めていた『聖光』を発動させる。
ヴェルの青白い光が骨竜から外れるギリギリのタイミングで、俺の青白い光が骨竜の背後に当たる。
「ルーク・・・それにハクカも」
「ヴェル、まだ大丈夫だな」
「ああ・・・もちろんだ」
骨竜は、シッポで俺を攻撃してくる。
『魔法障壁』で防ぐ。
キーン
ヴェルが再び『聖光』を使う。
右手でヴェルを攻撃する骨竜。
キーン
『魔法障壁』で防ぐ俺達。
尚も抵抗する古代竜、一撃一撃の威力や速度も熊などとは比べにならず、簡単に弾かれそうである。
ヴェルが弾かれると俺の『聖光』が当たり、俺が弾かれるとヴェルの『聖光』が当たっているので何とか骨竜を強くするのを防いでいる状態なのだ。
「・・・仕方ない。ヴェル・・・作戦がある」
「何をするんだ」
「このままだと・・・ちっ」
骨竜がシッポを振り回すので俺は、必死に避ける。
ヒュン
「俺達のほうが魔力を枯渇しかねない。だから、『魔法障壁』で骨竜の周囲を覆い、『聖光』が当たるレベルの穴を開けて、その穴の中に『聖光』を当てて、骨竜を討伐する。いけるか」
「確かにこのままだとジリ貧だよな。それで行こう」
俺達は、骨竜を覆うように『魔法障壁』を展開する。
骨竜が『魔法障壁』にあたりにいくが
キーン
と火花が散る。
「ハクカ・・・落ちないように」
「うん」
ハクカが俺の身体に抱きつく。
ハクカの柔らかな肢体と桜の花のような柔らかな匂いに更にハクカの息遣いに一瞬、ハクカに意識を強く持っていかれた。
「・・・ルーク?」
ハクカの声で、少しだけ正気に戻り『聖光』を骨竜の周囲事包み込むように放つ。
骨竜の魔法防御力は、4500億
ルークの聖魔法攻撃力は、40億
ヴェルの聖魔法攻撃力は、3000万
聖魔法は、アンデットに特攻効果がある。
実際の攻撃力は
骨竜の闇魔法攻撃力は、450億
ルークの聖魔法攻撃力は、400億
ヴェルの聖魔法攻撃力は、3億
「(まだだ。あいつが完全に動けなくなるまでは……)」
俺とヴェルは、さらに魔力を送り込んで『聖光』を放ち続ける。
骨竜が紫色の霧に包まれて、俺達の『聖光』に対抗していた。
霧と『聖光』がぶち当たり、周囲がスパークする。
その余波は、紫色の光が当たった場所は、木々を溶かし、地面をえぐる。
青き光が当たった箇所は、新芽が生え、緑を育んでいた。
「・・・クッ」
魔力が凄まじい勢いで減っていく。
どうやらヴェルも同様だ。
不味いと思った。
「ルーク・・・私の力を」
「はくか・・・!」
俺の胸元に温かな光が広がり、全身に広がっていく。
「イッケ〜〜」
俺の聖の光はさらに強まっていく。
ハクカの魔力譲渡と魔法威力上昇の効果により俺の現在の聖の魔法威力は、4兆まで上昇していた。
紫色の霧を突破し、骨竜に直接、『聖光』が当たり、ヴェルの方も『魔晶石』で魔力を回復させてから、『聖光』を当てると紫色の霧を突破し、骨竜に直接『聖光』が当たっていく。
ああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
すると次第に骨竜の咆哮は薄れていき、最後にはそのまま動かなくなってしまう。
急ぎ魔力の反応を見ると、どうやら完全にその活動を終えてしまったようだ。
アンデッド状態から脱したせいで、骨は美しい光沢を放つようになっていた。
「おわった・・・よね」
「ああ」
「よかった・・・」
ハクカの手から力が抜けてきていた。
徐々に落ちそうになっていたので慌てて、ハクカを抱きしめる。
見てみると気絶していた。
俺に魔力を渡したことによる魔力切れのようだ。
ホッと一息つくと上空で竜の骨格図どおりの形を保っていた骨であったが、次第にパーツ毎にバラけて地面へと落下し始める。
アンデッドとしての活動を停止した骨は、ただの無機物でしかない。
重力に引かれて落ちるのは、当然の結末と言えよう。
「おーーーい、坊主ども! 骨を回収しろ! 勿体無いじゃねえか!」
「えっ? なんですか?」
「骨の回収だ!」
「あっはい!」
ブランタークさんは、空中に浮いている俺たちに、バラけて地面へと落下しつつある骨を拾うよう大声で指示を飛ばしていた。
いくら竜の骨とはいえ、アンデッドの骨を素材として使うのはどうかと思ったが、俺たちが聖魔法で浄化したので問題ないのであろう。
素早く、地面に落ちる前にヴェルと協力して、すべての骨の回収に成功する。
こういう時、やはり魔法の袋は便利であった。
そして俺は、もう一つ不思議な物体の回収に成功していた。
直系二メートルほどと魔法の袋がなければ空中で拾えなかったであろう真っ赤で綺麗な光を放つ石の正体は、この竜の魔石であった。
本によると、どんな魔物でもその体内に持っている魔物が魔物である証拠なるものだそうだ。
加工すれば魔晶石になるし、魔力が減った魔晶石の補充にも使えるそうなので、冒険者は必ず倒した魔物からこの魔石を回収しなければならないと予備校の参考書に書かれていた。
授業でも、先生が強調して教えていたほどだ。
「さすがに今日は、魔力が限界だ」
「・・・そうか」
フラフラしているヴェルを左手で支える。
「ハクカは?」
「魔力切れで気絶した」
「・・・なあ、もう少し丁寧に運んで欲しいんだけど」
「・・・ん、男を丁寧に運ぶ趣味はないぞ。ヴェルはあるのか」
「俺もないな」
「なら、諦めろ。船に運んでもらえるだけありがたいと思え」
竜の骨と魔石を回収してからヴェルを連れて船に行くことにした。
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