俺が冒険者予備校に入学してから3ヶ月が過ぎた。
俺とヴェルのパーティは、共同で狩猟をしたり、授業でパーティ同士の模擬試合を行ったりしながらも充実した毎日を過ごしていた。
その結果
ヴェンデリンのパーティ
ヴェンデリン、エルヴィン、ルイーゼ、イーナ、ジビラ
ルークのパーティ
ルーク、リッド、ハクカ、ミュウ、イザベル
と変化したのだ。
「無事に学期末試験も終わったことだし、あとは夏休みだな」
期間は、7月から8月まで。
ほぼ二ヶ月と長かったが、これには理由がある。
実家に帰省する生徒が多いのだが、何しろこのリンガイア大陸は広い。
比較的近場から来ている生徒が大半とはいえ、往復で一ヶ月ほどかかってしまう生徒もいるのだ。
そのための、長い夏休みとも言えた。
帰省がある意味訓練にもなるので、夏休みが長くてもあまり問題にはならないそうだ。
マテ茶を飲みながら、ハクカ、リッド、ミュウ、イザベルと夏休みのことについて話していた。
冒険者予備校は一応学校なので、期末に試験がある。
前世の学校ほど教育レベルは高くないが、この世界の地理、魔法や魔物に関する知識などが筆記試験で出題されるので、それに備えて勉強は必要であった。
滅多なことでは赤点にはならないが、覚えないと死ぬ知識も多いので、基本的に生徒たちの筆記成績はよかった。
あとは、かなりの割合を占める実技試験であろうか。
これは、ある程度できないとお話にならないので、やはりみんな一生懸命に練習してから試験に臨んでいた。
「俺は、狩猟だな」
「私も狩猟かしら」
「私は、お姉ちゃんに会いに王都まで行くよ」
ミュウは、王都に行くようだ。
「ルークとハクカは?」
「ローラン兄さんが結婚式を挙げるんだ。場所は王都だけど、よければ俺とハクカも来ないかって」
「ローラン兄さんというと王都で役人をやっているのよね」
「ああ」
リンガイア大陸の中心部から南にあるヘルムート王国の首都スタットブルクは、人口百万人を誇る大都市である。
国内各所からも多くの人たちが訪れ、経済と流通と文化の中心地でもあった。
王都は遠いが、俺としてはこのチャンスを逃すつもりはなかった。
「(一度王都に行けば、今度からは『瞬間移動』で楽に遊びに行けるしな)そんなわけで、俺とハクカも王都に行くんだ」
「どうやっていくんだ?」
「魔導飛行船は高いから、遠距離馬車で王都に行く」
両者の違いを比較すると遠距離馬車は王都まで往復で一ヵ月ほどかかるが、代金は銀板一枚と平民でもなんとかなる値段であった。
もう一方の魔導飛行船は、往復でも五日間ほど。
片道なら、二日半で王都に到着することも可能だ。
だがその料金はと言うと最低でも金貨一枚
「ローラン兄さんが、友達がいたら一緒においでと手紙に書いているから、リッド、ミュウ、イザベルもどうだ。泊まる場所は、ローラン兄さんが準備してくれるって」
婚約相手の屋敷の部屋に王都滞在中に泊れるようにしてくれるらしい。
交通費と遊興費だけで王都観光ができる。
「お姉ちゃんに聞いてみるね」
「分かった」
「俺も行く」
「私も行くわ・・・所で、ご祝儀はいいの?」
「いらないって」
こう言っては悪いが、ローラン兄さんはまだ下級官吏でしかないし、婿に入る家も家格はうちと同じくらいでさほど裕福というわけでもない。
だからこそ、もし来れたらという内容の招待状に旅費は俺たちが負担するという話になっていた。
こういう場合、祝儀は出さないのが普通であった。
俺たちは王都への出発準備も進めた。
「久しぶりのファブレ領だ」
「そうだな」
ハクカの満面な笑みに見ほれながら、祝儀の準備をする。
「・・・お母さん」
「あら・・・ハクカ」
ハクカの家の前でハクカがマユさんに抱きついていた。
マユさんも抱きしめ返すとハクカが事情を説明した。
「・・・少し待ってね」
「分かりました・・・とりあえずあるものを採ってくるので」
「ルーク、私も一緒に行く」
「・・・分かった」
久しぶりに南の海に行き、海中に潜った。
「・・・海の中は久しぶりだよね」
「そうだな」
ハクカの手を握り、『風の膜』で呼吸を出来るようにして『飛翔』で自由に移動できるようにした。
海には、様々な魚や貝などが優雅に泳いでいた。
海の中にある反応をする貝類を見つけると
「『抽出』『再結合』」
をして、綺麗な真円の真珠を作っていく。
ついでに魚介類を収穫することにした。
準備を終えるとハクカの家に行き、マユさんから『ハチミツ酒』を受け取った。
「これは・・・?」
「従士長の分家の特産品よ」
「へえ〜」
「あ・・・お母さん・・・これ魚介類」
「ありがとう・・・ハクカ」
ハクカから魚介類を受け取るマユさん。
準備を終えた俺たちは、いよいよリンガイア大陸中心部にある王都スタットブルクに向かう遠距離馬車へと乗り込むのであった。
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