ケイの転生小説 - 八男って37
 果樹園のバイトが終わった翌日の放課後。
 ゼークト先生にパーティ申請書を提出しにきたのだ。

「特待生4人か・・・いいパーティだな」

 俺、ハクカ、リッド、ミュウの4人でパーティは受理された。

「さて、行くか」

「そうだね」

 園遊会用の服を取りにお店に向かったのであった。
 再度、正装に着替えて問題ない事を確認し、正装を受け取るのであった。



 園遊会の招待が届いてから2週間後。
 休息日のお昼前、俺たち4人はそれなりにめかし込んで園遊会の行われる会場へと向かっていた。
 ハクカのドレスは、青を基調としたドレスであり、所々白い花のリボンがついていた。

「似合っているよ」

「ありがとう。ルーク」

 見た瞬間、ハクカの姿に見惚れながら辛うじて褒めることが出来た。
 俺の言葉に頬を赤くしながら笑みを浮かべるハクカ。
 ミュウのドレスは、白を基調としたドレスであり、所々青い花のリボンがついていた。

「ミュウも似合っているぞ」

「・・・ありがとう」

 ミュウが頬を赤くしてお礼を言ってきた。

「所で、2人はおそろいか?」

「うん」

「そうか」

 目的地に到着したので馬車からおりる俺達であった。
 パーティーは、ブライヒブルクの中心部にあるブライヒレーダー辺境伯家の屋敷の庭で行われている。
 さすがは領主の屋敷の庭。
 その広さは、数千人の招待客がノンビリと食事や酒や歓談を行えるほどであった。
 この園遊会は年に一度開催される。
 ブライヒレーダー辺境伯家が、縁のある貴族とその家族、家臣とその家族、取り引きのある商人たち、各種ギルドや教会関係者などを招待しているらしい。

 それに加えて、冒険者予備校の校長や一部講師たち、特待生全員と一般クラスにいまだ貴族籍を持つ生徒たちも招待されているようだ。
 一部、見知った顔も確認できた。
 イザベルは、赤を基調としたドレスを着ていた。
 ジビラは、茶を基調としたドレスを着ていた。
 イーナは、赤を基調としたドレスを着ていた。
 ルイーゼは、青を基調としたドレスを着ていた。
 イザベルたちにも挨拶を交わした。

「こういう時に自分が貴族だって確認できるんだよなぁ」

「エルは、こういうパーティーに参加したことがあるのか?」

「まあね。うちにも寄親はいるからな。その寄親が、定期的にパーティーを開くんだよ」

 エルは五男なので優先順位は低かったが、それでも何回かはこの手のパーティーに参加したことがあるらしい。

「でも、さすがは南部の筆頭貴族であるブライヒレーダー辺境伯家のパーティーだな。飯も酒も豪勢だ。うちの寄親は子爵だから、もう少し内容が落ちるんだ」

 エルは、そう言いながら積極的に料理に手を出していた。
 俺とリッドは、肉類を中心に取っていた。
 ハクカとミュウは、野菜中心である。

「ヴェルは、食べないの?」

 女の子であるはずのイーナやルイーゼやイザベルやジビラは、、色気よりも食い気なようだ。
 持っている皿には、肉類を中心に料理が山盛りに積まれていた。

「勿論食べるさ。食べて、この正装代金の一部でも回収せな。しかし……」

 ふと脇を見ると他の予備校生なども同様で、みんな数少ないご馳走を食べる機会だからと、忙しく料理が置かれたテーブルを回っていた。

 みんなも正装代は痛いはずで、せめてご馳走を沢山食べて元を取らなければと思っているのであろう。

「しかし?」

「いやね。このブライヒブルクに来てから思うんだけど……」

「ああ、バウマイスター騎士爵家の件ね」

「イーナはなにか知っているのか?」

「子供の頃に、父上から聞いたことがあるのよ」

 簡単に言うと、あの出兵でバウマイスター騎士爵家の財政は危機的状態に陥ったらしい。

「……」

「どうかしたの? ヴェル」

「いや、うちの実家って衰退する未来しか想像できないから」

「ご愁傷様」

 と素っ気なくイーナは言うが、彼女からすればよく知らないバウマイスター騎士爵領の将来に興味などなくて当然というか。

「あと三年で縁が切れるから、気にならないな」

「いや、それは少し甘いと思いますよ。ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター君」

 突如、イーナではなく若い男性の声が聞こえ、俺たちは声の方を向く。
 するとそこには、三十代前半ほどに見える、品のよさそうなシルバーの髪にグレーの瞳をした青年が立っていた。
 年齢的に見て、ギリギリ青年扱いでも構わないであろう。

「ええと、どちら様でしょうか?」

「ヴェル、バカ!」

 その青年に名を尋ねるとイーナが慌てた態度でヴェルの腕を引っ張る。

「そのお方は……」

「ああ、申し遅れました。私の名は、アマデウス・フライターク・フォン・ブライヒレーダーと申します。君が、あのバウマイスター騎士爵家に生まれた魔法使いですか。お会いできて光栄です」

 なんと、挨拶をして来た青年は、ファブレ家の寄親であるブライヒレーダー家の若き当主であった。
 俺達は、頭を下げた。

「これは無礼をいたしました。平にご容赦を」

「ヴェンデリン君は、今までこの手の席に顔を出したことがないと聞いております。しかも、君はバウマイスター騎士爵家の跡取りでもない。私の顔を知らなくて当然ですよ」

 寄親の顔を知らない寄子の子供というのは前代未聞のような気がしたが、当人であるブライヒレーダー辺境伯は気にしていない様子であった。

「君達も顔を上げてけっこうですよ」

 俺達は、頭を上げた。
 
「しかし、君が冒険者予備校に入学していて助かりました。バウマイスター騎士爵家の方々を、この手の集まりに呼ぶのは不憫だったので……『寄親の誘いを断るなんて、なんて無礼な!』と、こんな感じです。だからこそ、君が来てくれて助かっています。挨拶も終わりましたので、これが本題です。ヴェンデリン君、少々、お時間を頂けませんでしょうか?」

「大丈夫ですが、なにか私に用事でも?」

「大した用事ではないのですが、是非、内々のお話がありまして……」

 せっかく、直接会えたのだから懸念の1つを解消するべきかな。

「ブライヒレーダー辺境伯様、ヴェンデリンの話が終わった後で構わないのですが、お時間をいただけませんか」

「私にですか?」

「はい、『アティ』『森』『兵士』『物資』で分かりませんか」

 俺の言葉を聴くとブライヒレーダー辺境伯様が驚いた顔をしていた。

「・・・君が受けついだのですね」

「はい。それで、返済をお願いされました」

「ヴェンデリン君とご一緒にお願いします」

「分かりました」

 俺とヴェルとブライヒレーダー辺境伯は、席を外し、屋敷に向かった。