ケイの転生小説 - 八男って15
 先生を浄化してから1ヵ月ほど経った。
 採取した物を母や姉に見せたが、山菜や果物などの食料や薪以外は見向きもされなかったのである。採取物の大半は、錬金術の素材だから仕方ないといえば仕方ないのだ。先生から習った魔道具技術で、出来る魔道具は200種類近くまであるのだ。

 それはともかく今年で16歳になるローラン兄さんは、細身で腕っ節はイマイチながらも弓は得意であった。
 ローラン兄さんは弓の腕前では領内では一番と言われるほどであったし、僕と同じく時間が空けば父の書斎で本を読んでいるので、王族や大貴族たちが公文書に用いるレベルの読み書きが可能であった。

 どうせこの領地に、王城から手紙なんてこないだろうけどね。

『もう少ししたら、僕は王都に出て下級官吏の試験を受けるつもりなんだ』

 ローラン兄さんは冒険者ではなく、堅実に公務員の道を目指しているようだ。
 とまあ、こんな感じの我が家であったが、実はその家庭環境に大きな変化が生じようとしていた。

「マリオの嫁は、ランスター騎士爵家の次女ティアナに決まった。来週中にはこの地に到着して結婚式を行う予定だ」

「来週中の予定ですか?」

 結婚式って、日付けが決まっているのでは?

「なにしろ、若い女性とその同行者たちが、重たい嫁入り道具を持って慣れぬ山道を歩くのでな。到着予定日が遅れることもある」

「大変なんですね……」

「だからティアナたちが来ても行儀よくしているのだぞ、わかったな?」

「はい」

「それとクリス、お前の嫁入り先だが中央貴族のマイル騎士家に決まった」

「分かりました。お父様」

「マリオの結婚の1週間後にニコとマルの結婚式を行う」

 いつものパンとチーズ、果物とハチミツと山菜スープという、僕のおかげでマシになった夕食の席で、父は家族全員にマリオとクリス姉さんの結婚を発表した。

「いよいよ、来たるべき時が来たか……」

 夕食後。
 僕とは滅多に口をきかないオットーとカールは、ベッドの上で自分の私物を纏め始めていた。
 ところがこんな貧乏貴族家なので自分の持ち物は少なく、その作業はあっという間に終わってしまい、あとは世間話へと移行していた。

「ローラン兄さん。どうして兄さんたちは、荷物を纏めているのですか?」

「この家の跡継ぎであるマリオ兄さんが結婚するからね。結婚式が終われば、僕たちは出ていかないといけないのさ」

 僕の質問にローラン兄さんが詳しい説明をしてくれた。
 この世界における成人の定義は、基本は十五歳だが、遅れるケースも多いそうだ。
 多少の幅があるのは、親の都合や家を出る前に継承放棄のお金が用意ができたかどうかで遅くなることもあり、ローラン兄さんはそのケースに該当するようだ。
 ローラン兄さんですらとっくに成人年齢なのだから、オットーとカールは言うまでもない。

「僕達の場合は、疫病発生により畑が荒廃したから、荒廃した畑の開墾作業があったからだよ」

 ローラン兄さんが、苦笑しながら僕に教えてくれた。
 跡継ぎではない子供が家を出る時には、多少の金銭援助するのが常識なのだそうだ。
 ローラン兄さんたちは、荒地になった畑の開墾作業のために家に残してしまったそうだ。

「実はうちは嫁ぎ先としては人気がないんだよね」

「条件が悪いしな」

「ティアナさんか。嫁ぐ前に、リーグ大山脈の踏破が必要だからな」

 ローラン兄さんたちは、苦笑しながら話を続けた。
 確かに、隣の領地とは山脈一つ隔てたこんな田舎の寒村に好き好んで嫁ごうと考える貴族のお嬢さんは皆無であろう。

「まあ、結婚できるだけマリオ兄さんはマシかな」

「そんなわけで、僕も式の後は王都に行くことになっているんだ。ルーク、急に寂しくなるけど元気で暮らすんだよ」

「はい、今までありがとうございました」

「手紙くらいは送るから」

「僕も返事を書きます」

「いいね。この家でちゃんと手紙を書ける人は少ないから。ルークとクリスはちゃんと書けるけど……」

「俺たちもちゃんと文字を覚えないとな」

「警備隊員に試験に出るんだっけ?」

「命令書が読めないし、上に報告書も上げられないからな。覚えないと駄目だろう」

 オットーとカールも大変だな。
 マリオの結婚式が終わってからか……どんなに長くても、あと二週間で僕はローラン兄さんとクリス姉さんとお別れである。