ケイの転生小説 - 八男って14
「先生は満足して成仏したんだ。これ以上、悲しむのはやめよう」

 先生が天へと消えたあと、僕はそう決意していた。

 先生のお墓を作った。

 先生から形見として『魔法の袋』を与えられた。
 先生は孤児で、身寄りが一人もいなかったと言っていた。
 なので、ファブレ騎士爵領の法と照らし合わせても『魔法の袋』を僕が受け取ることに関してはなんの問題もない。ヘルムート王国に相続税と呼ばれる税金は存在しないのだ。

「とりあえずは、中身の確認だな」

 僕は『魔法の袋』についているビーズ並みの小さな魔晶石に触れながら、微量の魔力を送る。
 こうすることによって、自分の脳裏に魔法の袋に入っている品物のリストが浮かんでくると事前に先生から教わっていた。
 早速試すと脳裏に所蔵品のリストが浮かび、その筆頭に先生から僕への手紙というのが写っていた。
 すぐに魔法の袋から取り出して封を開けると、そこには丁寧に魔法の袋の中に入っている品物のリストが書かれていたのだ。

「これで、脳裏に浮かぶ大量の文字の羅列と戦わないで済む」

 手紙には、こう書かれていた。
 まずは、最後の挨拶を簡単なものとしたいので、この手紙を事前に認めておいたこと。
 次に、この手紙が魔法の袋から取り出せたということは、正式にこの袋の持ち主が僕に代わったことの証明である。

『ルークに渡す私の遺産の内容なのですが……』

 装備品類は、成人後に自分で手に入れるか魔道具職人の才能を生かして自分で作って欲しいと書かれてあった。

『ですので、成人までの繋ぎとして『ミーミルの杖』『鍛錬のお守り』などを渡しておきます。効力が切れそうなら『祝福のコイン』を使ってください』

 どうやら先生は、浄化された後でも僕にいくらかの課題を残してくれたようだ。

『今まで開発された魔道具の開発レシピがあるので、それを参考に魔道具開発に励んでください』

 見てみると10冊の本があった。
 本の中を見ると蒸留水の作り方や魔力インクで各種属性の魔導回路と入出力回路を製作して、魔晶石を電池として活用する方法などが記載されていた。
 開発された魔道具は、3000種類ほどである。

『魔道具開発に必要な材料と機材は、残しておきます』

 見てみると大量の魔石や鉱石などの素材やガラス器具などの錬金機材などが入っていた。

『遺産を相続するに当たり、私の遺産でないものが混じっています。それがファブレ騎士家とブライヒレーダー辺境伯家が使用する予定であった食料や物資です』

「二千人が約1年行動可能な食料かぁ……」

 大半が、パン、クッキー、肉、大量の皮袋に入った水、兵士の士気向上のためであろうブライヒレーダー辺境伯領産のワインや怪我の治療にも使うものと思われるブランデーなどの蒸留酒などの食料の類であった。

 あとは、予備の武器や防具。
 同じく組み立て式の天幕など、いかにも昔の軍隊が使いそうな備品。

「残りは大量の魔物の素材や肉、魔の森で採集した戦利品か……」

 よほど恩賞で煽ったようで、袋には大量の戦利品が入っていた。
 魔法の袋に入っている限りは劣化しないので、とりあえずはこのままにしておくか。

「そして最後に、大量の宝石類に、宝飾品、金貨に銀貨か……」

 ブライヒレーダー辺境伯が大物貴族として見栄を張ったり、兵士たちへの恩賞用として準備していたらしい。
 軽く眩暈がするほどの大金が魔法の袋の中に入っていた。

『これらの食料や物資を可能であれば返還してくださいね』

「・・・ファブレ騎士家の分は、僕がファブレ騎士家を出るときに事情を説明して返還すれば問題ないけど、ブライヒレーダー辺境伯家にどうやって返還しろと」

『もしどうしても返還が難しいと感じたら王都にいるクリムト・クリストフ・フォン・アームストロングの妻のリズと呼ばれる女性に手紙を届けて、クリムト・クリストフ・フォン・アームストロング経由で返還してもらうようにお願いすれば返還できるかと思います』

 僕は、師匠の遺産を全て受け取ると家路へと着くのであった。