ケイの転生小説 - 自分が異世界転移56
 2日後

「では、皆の衆、暫しの別れだ。達者で暮らすのだぞ!」

 オーガマスターは村にある門の前で、集まった村人へ別れの言葉を掛けている。

「マスター、今生の別れじゃないのですから、大袈裟ですよ」

「そうだよ。それ、ジダイゲキが好きだったお婆ちゃんの真似でしょ」

 オーガマスターはリオウ、オウカのカップルに同時に突っ込まれていた。
 村に残るオーガは200以上。今回のベヒモス討伐に参加するオーガはオーガマスター、リオウ、オウカを除いて65名。念の為に40の戦士を村へ残して、僕たちはベヒモスの眠る北の森へと向かう。

 65名の内訳は、オーガマスター率いる精鋭部隊20。

 オウカとその配下が20。

 リオウたち棍や槍、弓といった中距離、遠距離担当の部隊が15名となっている。

 残りの10名は荷物の運送。食事や寝床の確保、その他雑用を担当する部隊だ。

 行軍の速度は速足程度だ。

 オーガと言えば、この種族中々変わった特徴がある。

 まず、オーガと言えばその巨体だろう。平均身長は女性で170ちょい。男性で2メートルを超える。身体能力は6歳児にもなると人間の大人に匹敵する力があり、成人すると人間の2倍から3倍の身体能力を有する。

 体の特徴と言えばもう一つ、頭に角がある。
 この角の本数は基本二本なのだが、稀に一本や三本以上のオーガが産まれることがある。
 昔は、一本角のオーガは出来損ないと呼ばれ格下に見られていた。現に生まれつき、他のオーガと比べて痩せ細っており、力も劣る者が殆どだった。

 だが、毎年村で行われる格闘大会で、転移者であるオウカの祖母が鍛え上げた一本角のオーガが成年の部で優勝してからは、オーガたちの見る目が変わったそうだ。

 今では一本角のオーガは成長力があり、大器晩成だというのが村の認識らしい。


 逆に角の多いオーガは生まれつき能力が高く、角が多ければ多いほどスキルを多く所有している。今までの最高は八本角のオーガ。そのオーガとは――

「皆の者、明日にはベヒモスの眠る大地へ到達するぞ! 覚悟を決めておくのだな!」

 軍隊の先頭に立ち檄を飛ばしている、オーガマスターである。
 それを聞かされたとき、オーガマスターの頭をまじまじと観察したのだが、どう見ても立派な一本の角と対になる場所に折れたもう一本の角があるだけだった。
 その疑問を口にすると、大口を開けて笑い、僕たちに後頭部を向けて髪をかき上げた。

「飛び出しておる二本の角とは別に、こうやって後頭部に瘤のような小さな角が生えておるのだ。でこぼこしていて頭を洗う際に面倒でたまらんがな!」

 長い髪に覆われ全く分からなかったが、確かに小さな瘤のような角が幾つも生えている。
 オウカも角が多いらしく、全部で五本の角があるそうだ。
 リオウはというと実は一本角で、彼こそがオウカの祖母に鍛えられ成年の部で優勝したオーガだった。言われて気づいたのだが、確かにリオウは額の中心部より少し上に一本の角が飛び出ているだけだ。
 転移者である日本人と血が交わると一本角や三本以上の角持ちが生まれる可能性が高いらしく、若いオーガで二本以外の角の持ち主は珍しくない。

 他にもオーガには変わったところがあり、魔法系や〇〇使いといったスキルを所有する者がいないというところだろう。

 産まれつき手に入るスキルは五感の強化や肉体系ばかりで、魔法関係のスキルとは相性が悪いらしい。なので、彼らの遠距離攻撃は投げ槍や弓といった手段しかない。

 それでも、優れた身体能力を活かし、この島で生き延びることが可能だったのだが、祖母である転移者と出会う前は、総数50にも満たないこの島では小規模な種族だった。

 当時の事を親や祖父母から嫌と言うほど聞かされていたオウカが、僕たちに説明した内容はこうだ。

「精神系の能力に対する弱さと正面から戦うことしか知らなかったオーガの欠点をつかれて、爺ちゃんたちはすっごくやばかったみたいよ。でね、他の転移者に襲われているところを祖母に助けられ、ここまで繁栄したんだって」

 お婆さんの活躍を語る時のオウカは、自分の力を自慢する時よりも誇らしげで嬉しそうに話す。
 本当にお婆さんの事が好きなのだろう。

「でね、助けてもらった後に、このままじゃ、あんたたちは滅ぶよ! と婆ちゃんに怒られて、『気』のスキルを無理やり覚えさせられたの!」

 驚いたことに、オーガたちはほぼ全員『気』のスキルが使える。
 どうやら、文字を覚える前から気を扱う鍛錬をさせられるのが、オーガの村では常識らしく、オーガの必修事項だそうだ。
 魔法のスキルは幾ら教えても発動しなかったオーガたちだったが、元々『気』とは相性が良かったのだろう。オーガたちは『気』を覚えることにより、精神系のスキルに対する耐性と更なる肉体の強化を得ることとなった。

 オウカは『気』を操るのが人より長けているそうで、その能力はオーガマスターをも上回る……本人の談だが。

 それを聞いた権蔵が目を輝かせ「師匠、是非、俺にご教授を!」とオウカに頼み込んでいた。前々から僕たちの『気』スキルが便利そうだと目を付けていたらしい。

 オウカも満更じゃないようで、この戦いが終わったら本格的に教えてもらう約束を取りつけている。

「今回の戦いで活躍して、有名になって今度こそ、モテてやる……」

 僕の前方で歩きながら、ぶつぶつと欲望を口にしている姿を見る。



 問題は対戦相手であるベヒモスだ。
 全長10メートルで、鋭い牙の生えた牛のような顔に巨大な角が二本頭に付いている。
 そして、体は鎧の様な皮膚で覆われていて、その強度は鋼鉄製の武器をオーガの怪力で叩きつけても、ひび一つ入らない頑丈さらしい。
 尻尾も巨大で硬く、先端にはとげ状の骨が外部に剥き出しになっていて、尻尾の一撃にも注意が必要だ。
 そして、最も注意しなければならないのが、ベヒモスが土を操れるというポイント。
 地震を起こし、地面から槍状の岩を飛び立たせ、時には岩盤で体を覆い防御力を高める。
 火を吐いたりはせず、肉体の力で攻撃すると聞いていたのだが、どうやらベヒモスが土を操れるというのは、オーガの中では一般常識で説明を忘れていたそうだ……知らずに戦っていたら、どうなっていたことやら。

 これを聞いたゴルホは、人工の草に包まれた中からボソッと呟いていた。

「出番ない」

 ベヒモスの能力は土魔法か土使いだろう。それもかなり高レベルな。となると、戦闘でゴルホの出番は少なくなりそうだ。落とし穴を掘っても、即座に埋められそうだし、土系の罠はやるだけ無駄になるだろう。

 手持ちのアイテムやオーガたちの実力、そして仲間の能力を活かして、どうやって被害を最小限に抑えて勝利するか。そこが問題となる。

 そして、今回は戦いの勝ち方にも気を付けなければならない。

 罠や攻撃を加えることにより、参加者にも経験値が入るが、やはり止めを刺した者が最も経験値を得ることになる。

 事前の話し合いでは、止めを刺すのはオウカの役目となっている。

 オーガマスターが倒し、強くなった方がいいのではという意見もあったのだが、それは当人が即座に否定した。

「わしに力の伸びしろはもうない。レベルが上がったとしても、能力の成長は微々たるものだ。ならば、これから更に強くなるであろうオウカが倒し、わしに実力が近づけばオークキングとの戦いも楽になる」

 オーガマスターの決定により、オウカが止めを刺すこととなった。
 だが、それは余裕があればの話であり、基本的には誰が止めを刺しても良いことになっている。

 ちなみに僕の場合は、『契約』スキルを活用することにした。

契約:相手の同意があれば、契約できる。

 この『契約』でレベルがあげづらいルイちゃんのレベルを上げることが可能になった。
 現在の契約レベルだと対価なしだと経験値の30%をルイちゃんに上げることが可能なようだ。対価があれば50%はあげれるのだけどね。
 尚、オウカの場合は、オーガマスターの経験値がオウカに行くことになっている。

「ところで土屋さんよ。何か策は思いついたんだろ?」

「昨日まではあったんだが、土壇場になって土を操れることを知って、策の練り直しをしているところだよ」

 オーガたちは正面から戦い粉砕するつもりのようだが、それだと多くの死者を覚悟しなければならない。

「リオウ。ベヒモスの現状について教えてもらってもいいかい?」

 土屋さんが近くにいたリオウに大声で問いかけると。こちらに速足でやってきた。
 オウカとの腕試しが終わった当初はリオウにも睨まれていたようだが、今は彼と仲がいいようだ。

「まだ眠り続けているベヒモスは体の周囲を強固な岩盤で覆っている。オーガマスターが一撃を加えれば、その岩盤は破壊できるだろうが、それによりベヒモスが目覚めるのは確実。手を出さなければ、あと数週間は眠り続けている」

 ベヒモスは以前もこうやって傷を癒したことがあるようで、その時は覆う岩盤の色で相手の回復状態と出てくるタイミングを計っていたそうだ。

 どれだけ騒音を立て暴れまわっても、岩盤を傷つけられない限り目覚めることは無いらしい。

「そうか、ありがとう。何か状況に変化があったら教えてくれ」

「わかった」