ケイの転生小説 - 自分が異世界転移33
「くそおぉ、油断した。痛えっ!」

 見える範囲の敵は倒し終わり一息ついたところで、腕に傷を負った刹那が喚いている。

「お、サウワ。サンキューな」

 サウワが刹那に『傷薬』を渡していた。

「みんな安心するのはまだ早いぞ。あと、穴の縁には近づかないように」

 土屋はまだ生きているオーク一体に糸を巻き付け、穴の縁まで移動させる。

「ギャウルッ!」

 穴から飛んできた槍に頭を貫かれ、オークがもんどりうって倒れた。
 今から覗き込もうとしていた刹那と桜さんが慌てて落とし穴から遠ざかっている。

「こんな風になるから。まだ生存しているオークやハイオークがいるから注意して」

 今回の作戦で重要なポイントはまず勝つこと生き残ることだが、もう一つ、敵を集落から逃がさないことが含まれていた。
 ここで逃がしてしまえば本拠地に帰り、オークたちに僕たちの存在が知られてしまう。それだけは避けなければならない。門扉を閉め閉じ込めた甲斐があり、オークのポイントが集落の外には存在していない。
 門の入り口付近の落とし穴にもまだ反応があるので、そちらは処分しても問題ないと考え、モナリナ、モナリサと光おねえちゃんに魔法での攻撃を指示していた。
 魔法が乱れ飛び、土屋さんもアイテムボックスから取り出した、先端のとがった丸太を山なりに投げ込んでいた。

「門付近の落とし穴からオークの反応が消えたから、多分そっちは大丈夫だ。でも、暫くは近づかないように。あと、サウワ呼んでもらえます?」

 命に係わることなので桜さんが即座に、現地人たちへ伝えてくれた。
 サウワがとことこと足音と気配を消した状態で近づいてきた。桜さんに耳打ちし、それをサウワに伝えてもらうと、サウワは大きく頷き姿を消した。

「蓬莱さん、刹那君、桜さん、秋君、光さん、海さん、理沙さん、裕子さん、そのまま周囲を見ないで聞いてください。まだ四体、あの攻撃を逃れ集落内に隠れている残党がいます。今、サウワに指示を出してゴルホと一緒に倒しにいってもらっていますが、一応油断はしないように」

 耳を澄ませば、くぐもった悲鳴のような声が微かに周囲から流れてきているが、僕たちはそれを無視して、貢物があった場所にできた大穴の近くまで歩み寄っていた。

「土屋殿。中のオーク反応は?」

「オークは3だが、まだ気がそれ程は衰えていない。それと、おそらくハイオークが2生存している」

 地面に転がっているオークたちは既に何体かが光の粒子となり、今も次々と消滅している。こんな会話をしながらも、皆に経験値が入りレベルが上がっていることだろう。
 この経験値システムについては、魔物相手に検証したのだが、中々面白い結果が出た。
 まず、生徒手帳のアイテム欄に記載されないアイテムで倒した場合、普通に経験値は自分の物になる。罠で殺しても罠を制作した者と罠に誘導した者に経験値が流れ込むようだ。
 ただ、武器や罠に使用する材料の加工をした相手に経験値が入ることは無い。そうでなければ、この世界で最強の人間は武器職人になってしまう。
 今回の場合、落とし穴の下に杭を差し込む作業をみんなで行ったので、平均的にとは言わないがそれなりに、全員へ経験値が流れ込んだと思われる。

 まあ、今回一番経験値が入ったのはモナリナで間違いないとは思う。穴への火球爆撃で止めを刺されたオークが大量にいただろう。
 現地人たちのレベルがわからないのが厄介なのだが、それでも強くなったのを実感できるのであれば、今はそれで納得するしかない。
 検証で経験値の流れを把握できたのには理由がある。それは『説明』3の能力だ。生徒手帳のレベルに触れると、現在の経験値がわかるようになったみたいだ。これで、魔物たちの経験値も知ることができ、レベルアップへの目安となった。

「それで、この落とし穴の生き残りどうしましょうか」

「ここで倒すのが楽なんだけど、情報を聞き出したいしね……」

「二体いるハイオークの一体は倒しておくよ」

 丸太の雨を、ハイオークがいる辺りに降らせていた。
 穴の底から押し潰される音と悲鳴らしきものが、丸太の激突音に掻き消されている。
 巨大な気が一つ消えたのを感じ取れた。かなり弱っていたのだろう、今の攻撃であっさりとやられたようだ。

「もう一体を釣り上げるから、大丈夫だとは思うけど警戒はしておいて」

 落とし穴から飛び出してきたのは、顔や手足が火傷でただれ、脇腹付近の鎧が砕け散り、垂れ流した血が固まった状態のハイオークだった。落とし穴の縁に転がされたハイオークはいびきをたて、気持ち良さそうに眠りこけている。僕はこのハイオークに違和感を感じた。まるで春矢や裕子さんとあった時の様だ。だが『第6感』の警告はないみたいだ。

「よくこんな状態で寝ていられるな」

 刹那が起きそうもないハイオークを剣の鞘でつつきながら、呆れを通り越して感心している。

「いや、これは昏睡薬が効いているだけだ」

「へっ? 昏睡薬なんていつ飲ませたんだ?」

「貢物の果物に混入しておいた。まあ、誰か食べたら儲けものかぐらいの感覚だったのだが、上手くいったようだ。敵の反応が目の前のハイオークを除いて全員消滅したよ。これで取り敢えずは安心かな。みんな、お疲れ様」

 土屋さんが戦いが終わったことを伝えると僕と蓬莱さんを除いて残りの全員がその場に座り込んでいる。疲れた様子を全く見せなかったサウワとゴルホだったのだが、無理していたのだろう。二人同時に大きく息を吐き、脚を前に投げ出している。

「このハイオークが目覚めるまで、まだ時間があるだろうけど……桜さん、休憩しているところ悪い。一応、本当に眠っているか心読んでくれるかな」

「はい、完全に眠っています」

「そうか、なら今の内に丸太にでも括りつけようか。これが終わったらみんな休憩していいから、もう少し頑張って」

 その言葉に全員が緩慢な動作だが何とか立ち上がり、地面へ深く刺した丸太にハイオークを何重にも縛り上げた。

「じゃあ、みんな晩御飯にしようか!」

 全員が、心底嬉しそうな表情を浮かべる。

「そういや、飯まだだったな! 急に腹減ってきたぜ!」

「それどころじゃなかったですからね。あー、お腹減ったぁ」

「今日は鍋でも作るか」

 蓬莱さんだけは疲れを見せずテキパキと料理の準備を始めている。
 他の仲間も手伝おうとしているのだが、蓬莱さんが手で制し「いいから休んでおけ」と一人で手早く魚を捌いている。
 本当に終わったのか……思ったより、いや、思った以上に上手く事が運んでいる。

「僕たちは、帰るよ」

「ここで食べていかないのか?」

「そろそろ暗くなる」

「ご飯だけでも食べていきましょうよ」

「う〜ん、なんか変な感じがするから・・・駄目。土屋さん」

「どうかしたのか」

「・・・あのハイオークに、違和感があるからこの場所から逃げたほうが良いかもしれない」

 僕の発言に、全員が首をかしげていた。

「違和感?」

「うん・・・まるでハイオークとは別人のような・・・もっと・・・別の生き物の・・・気がする」

「・・・・気をつけるよ」

 土屋さんと会話している間に料理が完成したらしく、蓬莱さんが料理を持たせてくれた。

「土屋さんにも言いましたけど」

「聞こえておった」

「・・・気をつけてください」

「秋にはこれを渡しておこう」

 蓬莱さんが紙を手渡してきた。

「これは・・?」

「・・・拠点に戻ったら読むとよい。読めば分かる」

「蓬莱さん、ありがとうございます」

 僕と光おねえちゃんは拠点に帰ることにした。