ケイの転生小説 - 自分が異世界転移31
「ただいまー!」

 サウワ達と勉強していると、土屋さんの声が聞こえた。
 どうやら探索から帰ってきたようだ。

「あ、土屋さんお帰りですか!」

「ああ、共通語と日本語の授業中だったか」

「はい。子供たちも簡単な日本語が知りたいと言ってきたので」

「あ、そうそう。みんなにお土産」

 そう言って、土屋がぐるぐる巻きになった魔物をみんなの前に投げ出した。

「お、何だこいつ! 見たことないぞ、緑豚人間か!」

「これはオークではないか?」

 オーバーに驚き適当なことを言っている刹那を無視して、蓬莱さんが冷静に観察している。

「これが、オークですか」

 その名は知っているようで、桜さんは遠巻きに覗き込んでいる。
 そんな桜さんに土屋は手招きをする。直ぐに気が付いた桜さんは、できるだけオークに近づかなくて済むように遠回りをして、土屋の背後に立った。

「このオーク共通語が通じるみたいだから通訳をお願い」

「お前たちオークはどれぐらいいる?」

 即座に桜さんが共通語でオークに話しかける。
 鼻で笑い、不遜な態度を取るオークに対し、土屋は糸を更に強く締め付けた。

「ギュフゥゥゥゥ!」

 今のは共通語ではなく魔物としての叫び声だろう。

「桜さん、さっきの質問をもう一度」

 桜さんが再び問いかけると、またも口を噤んでいたが土屋が糸を操る動作を見せつけると、慌てて口を開いた。

「貴様ら、我らオークを敵に回すと後悔するぞ。俺を殺せばオークキングが黙っていないと言ってます」

 オークキングときたか。ゴブリンジェネラルがあの強さだった。単純に考えるならオークの数倍の能力はある魔物と考えるべきか。

「お前らオークはこの島にどれくらいいるか聞いて」

「え、うそ」

 サクラさんが驚きの声を上げていた。

「どうしたの、桜さん」

「二千は下らないと言ってます……」

 驚きのあまり目を見開く者。ぱちぱちと何度も瞬きする者。手を取り合い怯えている者。全員が異なるリアクションをしているが、誰もがその数に圧倒されている。

「おいおい、嘘だろ。じゃあ、この島はオークアイランドとでも言う気か!?」

 取り乱し声を荒げる刹那の気持ちは良くわかる。ゴブリンの集落でも100前後だった。
 それも、ゴブリンよりランクが上の魔物オークだ。敵に回せば、確実にこちらが蹂躙される。
 こちらの驚きようにオークが気をよくしたようで、何かをベラベラと話し続けている。

「あ、このゴブリンの集落はオークの傘下にあったそうです。毎月、貢物をオークたちに渡すことにより、生存を認められていた。このオークがこっち方面へ向かっていたのも、この集落に貢物の確認に行く途中だった、そうです……」

 オークたちが定期的に様子を見に来るのであれば、ここは拠点として最悪の場所となる。
 このオークを殺せば、帰ってこなかったことを不審に思い、オークたちが新たな人員を差し向けるだけだろう。

「こやつの言うことが嘘でないのであれば、これは大問題だぞ」

 蓬莱さんは腕を組み、唸り声を上げている。
 モナリナとモナリサは寄り添い合い、どうすればいいかわからず、僕たちの顔を見回している。
 ゴルホ、サウワはいつもと変わらないようだが、少しだけ顔が引きつっているようにも見える。

「さあ、俺を解放しろ。そうすれば、逃げる時間ぐらいは与えてやろうと言ってます」

「この集落に向かったのはお前だけなのか聞いてもらえるかい」

 桜さんの通訳を聞きオークが一瞬だけニヤリと口元を歪めた。

「あの、一人で来たそうですが、この後貢物を受け取りに来る別働隊が100こちらに向かっている……と」

 100ものオークが接近しているというのなら、この拠点を捨て、新たな拠点を見つけるのが最も利口な判断だろう。

「土屋殿何を考えている」

 黙り込んでいた土屋さんに蓬莱さんが声を掛けてきた。

「俺はここでオークの別働隊を叩いておくべきだと思う」

 僕たち転移者組が一斉に息を呑んだ。

「い、いやいや! 100だぞ、100! それも、このオークどう見てもゴブリンより強そうだろ! おまけに倒したところで、まだバックには二千近くのオークが控えているんだぞ!」

 唾を撒き散らし反論する刹那を蓬莱さんも、桜さんも止める気が無いようだ。言い方はきついが話の内容は二人も同意見なのだろう。

「相手はゴブリンだと油断している。罠を仕掛ける時間もある。相手を一匹残らず殺すことができれば、次の援軍までに時間を稼げ、大幅なレベルアップも望める」

 ゴルホ、サウワは土屋の元に歩み寄ると、大きく一度頷いた。どうやら、賛同してくれるらしい。
 モナリナ、モナリサはどうしていいか分からずにあたふたしているが、ゴルホとサウワが二人を説得に入り、何とか納得させた。
 姉妹揃って土屋の前に進み出ると片言で、

「ガンバ、リマス」

 と声を揃え日本語で参戦の意志を伝えてくれた。
 この二人に、最初見たとき違和感があったけど、今はそんな違和感がない。

「やれやれ、子供たちが意を決したというのに、大人が渋るわけにはいかぬか」

 蓬莱さんも腹をくくってくれた。

「あ、く、くそおおおおっ! やるぜ、やってやるぜ! だけど、いざとなったら子供たちだけでも逃がすようにしろよ!」

「私は初めっから反対する気はなかったですよ! 土屋さんに救われた命です。その土屋さんがやれると言うのなら、信じて付き合うだけです!」

 海、理沙、裕子は、反対のようだ。

「秋君たちはどうする?」

「・・・土屋さんの作戦しだいかな」

「わかった。じゃあ、急いで取り掛かろうか! 権蔵君とサウワと光さんは罠に使えそうな木材や道具を何でもいいから集めて!」

「ああ、わかったぜ」

「ハイ!」

「はい」

 3人が集落の片隅に集めてある瓦礫や丸太を置いている場所に向かって行く。

「蓬莱さんと秋君は丸太の先端を尖らせてもらいたい。数は多ければ多いほど助かる!」

「任せておけ」

「わかった」

「ゴルホは俺の指示した場所に大穴を開けて欲しい!」

 いつものように黙って頷いている。ゴルホは自ら率先して動くタイプではないが、言われた事は完璧にこなす。

「モナリナ、モナリサは手が足りないところの手伝いを頼む。後でキミたちにしかできない重要な任務があるから、それまでは各自で判断するように!」

「ハイ!」

 二人が同時に返事して、まるで鏡に映したかのような動きで振り返り、同じ方向へ走っていく。彼女たちには誰にも使えない強力な魔法がある。

「桜さんはこのまま俺と尋問を続けよう。こいつの持っている情報を根こそぎ聞き出すよ!」

「はい、まかせてください!」