ケイの転生小説 - 自分が異世界転移26
 桜さんの後ろからこそっと顔を出したサウワは、おっさんと青年を見て怯えたように体を揺らしたが、その後ろにいる三人の現地人を見て目を見開いた。
 サウワは桜さんを押しのけ、現地人三人へと駆け寄ると声を掛けあい、笑顔で手を繋いでいる。

「ええと、三人は顔見知りの様です。ドラゴンに襲われた時、散り散りになったメンバーだったみたいですね」

 桜さんが素早く通訳してきた。

「サウワたちは積もる話もあるだろうから、その間にお互いの情報交換をしておきませんか?」

「そうだな。まだ良くわからないこともあるのでな」

 土屋の提案におっさんも異論はないらしく、軽い自己紹介とこれまでの経緯について話し合った。
 サクラさんが布を取り出し、地面に敷いた。
 光おねえちゃんとサクラさんと理沙と海と裕子が布の上に座る。
 僕たちは、直接、地面に座った。

「俺の名前は西園寺 刹那だ」

「わしは、蓬莱じゃ」

「桜井 桜です」

「土屋だ」

「狭間 秋です」

「新宮 光です」

 土屋さんが今までの経緯を説明した。
 僕たちのほうも経緯を説明した。

「まさか、他にも奪取が使える者がいたのか。それ故に岩村……ではなかったな。土屋殿も警戒していたのか」

 ちなみに蓬莱さんが殿という大げさな敬称で呼ぶのには理由が有る。売れない芸術家時代にマネージャーポジションの友人が、個性を出す為に無理やり強要したらしい。それが癖となり今でも口に出てしまうそうだ。気に入らない相手には殿はつけないとのことだ。

「ええ、思っていたより奪取を選んだ人が多いのかもしれない」

「そりゃ、奪取は流行っているスキルだったからな。小説で何度も見かけたことのある設定だし、殆どが強力なスキルとして書いてあるから、そりゃ欲しいだろうよ」

「ご――刹那君は奪取を何で取らなかったんだい?」

「んー、ああいうスキルが卑怯に思えたからな。相手が悪人だとしても、そのスキルは自分で鍛え上げた能力だろ。それを、何の苦労もしないで奪って俺つえー、なんてやっているやつはクズだろ」

 こういう彼の真っ直ぐな考えは好感が持てるな。

「お互いの経緯が分かったところで、今後の方針を話す前に、わしからチュートリアルで得た情報を提供しようと思う。お主らがおそらく知らぬであろう、スキルとアイテムについてだ」

 蓬莱さんからの突然の申し出に僕たちは驚く。

「まずは、スキルについてなのだが。生前、日本での生活で身に付いた技能に関連するスキルは成長度が早く、スキルを覚えやすい。例えば、わしは芸術家として木彫りの工芸細工も手がけており、スキル選びで木工を取得しておる」

 『木工』のスキルを持っているのか。

「木工はレベル1しか取らなかったにも拘わらず、初日で木を倒し小屋の作業中に2まであがった。更に二日目には消費ポイントが半分以下になっておったからの」

「新たにスキルを覚えるにしても、自分の能力に見合ったものを選択すれば、成長が早まり身につきやすいと」

「へー、オッサンのチュートリアルも結構使えるもんだな」

 刹那くんは素直に感心している。

「うむ、まあな。そしてだ、どちらかといえば、こちらのほうが重要なのだが、スキル表から選んで取得したアイテムについてだ。土屋殿、アイテム欄のアイテムで使用回数が減っている物はあるかな」

「傷薬があと一つで、44マグナム弾は0になっているな」

「なら、まあ傷薬にしておくか。生徒手帳のアイテム欄に書かれておる傷薬の文字に触れ、補充と口にしてみてくれんか」

「補充……おっ!」

「どうじゃ、変化はあったか」

「今頭にアイテムを補充しますかという文字が浮かんだ。はいを選んでみる。ああ、なるほど、こういう仕組か」

「おい、なに一人で納得してんだよ。俺たちにも教えろよ」

「そうですよ」

 刹那と桜さんが身を乗り出し、土屋に迫っている。
 僕たちも興味心身に、土屋さんを見た。

「ああ、すまない。回数制限のあるアイテムはスキルポイントを消費することにより、補充できるようだ。傷薬も100ポイント消費したら五つに戻るみたいだな」

 これでアイテムの使い道がかなり広がったぞ。傷薬が補充できるのは特にありがたい。

「蓬莱さん、かなり有意義な情報を感謝します。じゃあ、今度は俺が寝たふりをしていた時に二人が話していた内容で、気になることを伝えておくよ。説明のスキルを4まで上げるとスキルの取得方法を知ることができるみたいだ。俺は説明を3まで上げてみたけど、その情報はなかった」

「新たなスキルを得る方法か。それは重要だが、わしは説明2しかないぞ」

「僕は2だよ」

「あ、俺なし」

「私は1です」

「私も1です」

「説明4は何とか俺が目指してみるよ。あとは、二つだけスキルを覚える条件は聞き出せた。隠蔽と消費軽減だけどね」

「あ、消費軽減欲しいです!」

「俺も!」

 二人が同時に手を挙げてアピールをしてくる。土屋さんが蓬莱さんに視線を向けると、

「わしは所持しておるよ」

 流石の回答だ。

「そうか、二人は消費軽減覚えたいのか……うんうん、いい心がけだ。俺も全力でサポートさせてもらおう」

「よろしくお願いします!」

「頼むぜ!」

 二人とも良い笑顔をするな。

「ところで習得条件は?」

 土屋が、耳元に口を近づけてきた。
 そして、小声で

「それはな。数回、気を失うまで精神力を消費し、更に数回、気を失うまで体力を消耗することだ」

「それは・・・スキルしだいなら簡単だね」

「あとで隠蔽も試してみようか。他に話し合うべきことは」

「あの、あの、現地人の三人とサウワちゃんについてなのですけど」

 新たな三人もサウワと同じく、何かしらの能力を有している可能性があるんだよね。

「じゃあ、説明よろしく」

「は、はい。ええと、私たちの仲間の褐色の女の子はサウワちゃんと言います。蓬莱さんたちと一緒に来た三名の内、女の子二人はモナリナ、モナリサという姉妹です。この三人は年齢12歳だと言っていました。そして、残りの男の子がゴルホ君は13歳です」

 サウワは褐色で年齢のわりに少し小柄な感じだ。鋭い目つきをしているので誤解されそうだが、素直で聞き分けのいい子だ。
 モナリナ、モナリサはそっくりな顔をした双子の姉妹。腰まである金色がかった髪を紐で縛っている。お姉さんがモナリナらしいのだが、妹のモナリサよりおっとりしている。妹は常に姉の前に立ち、キビキビとした動作で姉の面倒を見ているといった感じだ。

 最後のゴルホは短く切りそろえられた髪に目鼻立ちが整った顔。ここにいる男性陣で一番のイケメンだろう。寡黙で殆ど話さないらしい。

「ええと、この島に連れてこられた現地人の子はどういう子なのかは、説明したのでご存知だとは思いますが」

 そこで言葉を区切りサクラさんが僕たちの反応を窺っていた。僕たちは、大きく一度頷いた。

「私たちと同じように何かしらのスキルを覚えています。サウワちゃんは闇属性魔法」

 刹那が、闇属性魔法という言葉を聞き体が縦に大きく揺れた。

「ええと、土屋さん、土屋さん、話を聞いてますか?」

「ああ、すまない。続けてくれ」

「モナリナちゃんは火属性魔法。モナリサちゃんは水属性魔法が使えます。ゴルホ君は土使いだそうです」

 魔法使いが更に二人追加か。

 サウワも闇属性魔法が使える。魔法が使えるというのはこの世界ではそれ程珍しいことじゃないのか?

「魔法使いが集まったのを偶然と考えるには出来過ぎのようだが」

 蓬莱さんも同じ疑問を抱いたようだ。

「私もそう思ったので訊ねてみました。ええと、この世界では魔法のスキルの価値が高く、属性魔法スキル所有者もかなりの割合でいるそうです。それで、魔法の才能がある場合は、それを伸ばすことが義務付けられていると言っていました。この世界の能力による優先度といいますか、能力による差別があるそうです。頂点に魔法使いがいて、その下にゴルホ君のような属性の使い手。次にスキル所有者。最後に何のスキルも持たない人間だそうです」

「サウワたちは村から集められたのだろ? 魔法が使えるなら街とかで大切に育てられていそうなものだけど」

 そんな身分制度があるのなら、この子たちは優秀な才能の持ち主として豊かな暮らしが保障されていそうなものだが。

「それがですね。本来は15歳になると国民の義務として能力の検査をするそうです。そもそも、15歳以下の子供はスキルを所有していても発動させることができないと言っていました」

「ふむ、それは辻褄が合わぬな。サウワは闇属性を使えたようだが、まだ11なのであろう」

 蓬莱さんの言う通りだ。15歳以下が発動できないのであれば、サウワが年齢を詐称していない限り闇属性魔法は使えない。

「それなのですが、砦らしきところに集められて検査されたあと、巨大な魔法陣の上に立たせられ、スキルが使えるようにされたそうです。何でも慈悲の女神の力により才能を開花させる特殊な魔法陣だったと」

「お互いの伝えておかないといけない情報はこんなものかな」

 桜さんの話が終わったので土屋さんがそう切り出すと、全員が頷いた。

「ここでこの人数が暮らすのは無理があるな」

 今までの三人なら丁度いい大きさなのだが、寝床もこれだけの人数が入るわけにはいかない。

「ワシらが拠点にしていた丸太小屋に戻るのもありなのだが、この子たちの話によると西の敵は強力らしく、出来るだけ島の東側に住むのが良案のように思えるが」

 こちら側はゴブリンが大量発生しているが、ゴブリンジェネラルを倒した今、脅威がかなり薄れている。

「皆さんに提案があるのですが……」



 僕と光おねえちゃんは、土屋さんの提案でもあるゴブリンの拠点で暮らすことを断った。
 光おねえちゃんが断ったのには驚いた。
 聞いたら

「私は・・・」

 どうやら光お姉ちゃんは、蓬莱さんたちのほうを警戒しているようだ。

 男に襲われたのだから警戒が解けない限り仕方ないのかな?

 その割に僕に対して警戒してないような?

 *一重に命の恩人なのが原因である。

 僕たちがどこに向かっているかというと蓬莱さんが作った小屋を目指している。
 小屋に到着し、墓に近づくと

「『魂喰らい』」

 と意識的に発動させた。

【魂喰らいが発動しました。亡くなった転移者からスキルとスキルポイントを獲得します。魂を死を司る神に献上します】

 生徒手帳を確認し、スキルとスキルポイントが増えていることを確認した。