ケイの転生小説 - 自分が異世界転移2−4
 あの女性の言葉の意味を考えてみる。
 危険を冒してでも伝えたかったことというと、わ・・・・な・・・・かな?
 だとするとステータスのことを伝えようとしていた?のかな。
 あの女教師がスキル使用を許可してくれたので、とあるスキルを入手することにした。
 そのスキルとは、『第6感』である。
 僕の姉は勘が鋭いのである。それなら姉並みに使えなくても使えるはずだ。
 早速、使用することにした。
 ステータスは問題なさ・・・いや、少し問題があるみたいだ。
 どれだ・・・・スキルを探すと見つけた。

 『消費軽減』

 である。
 どうもこれが重要な感じがした。

 これが『第6感』の効果なのか?

 習得したスキルからいやな気配はないが呼んでいる気配がした。
 『魔力変換』だ。僕は、『魔力変換』を習得した。

 お次は、アイテムである。
 『水の民の服』を『第6感』で発動させると【水の民の巫女の血】が呼んでいる気がした。
 【水の民の巫女の血】を獲得した。
 どこに飛ばされるか分からないので、『食料飲料水一週間分』とそれを入れる『リュックサック』を購入した。
 残り時間二十分を切ったところでスキルを取り終え、確認の為にもう一度スキル表を見直した。



現在取得スキル
『筋力』1
『知力』1
『素早さ』1
『体力』1
『精神力』1
『器用』1
『柔軟』1
『運』1
『頑強』1

『魔力』1
『魔力変換』1

『水魔法」1

『水の民の巫女の血』1

『治癒』1

『第6感』1
『消費軽減』1

『説明』1

残りスキルポイント 195

 である。


 
 僕は残り時間二十分を切ったところでスキルを取り終え、確認の為にもう一度スキル表を見直した。

「あと二十分見直ししないと!」

「残り20ポイント……何か使えるスキルは……」

「これで、異世界無双間違いなしだぜ」

 クラスメート達は最後の確認に余念がない。集中しすぎて独り言をこぼす者や周りにアピールするように、わざとらしく大声で話す輩も少なくない。

「ステータスレベルは平均的に上げておこうかな」

 僕は残り時間、見落としは無いかスキル表の隅から隅まで調べ、やるべきことはやったと自分自身に言い聞かせている内に運命の時は訪れた。

「はーい、終了! 皆さんそこまでですよー。余ったスキルポイントは異世界に持ち越せますので、レベルアップした時に増えたポイントと一緒に、いつでも消費できますから安心してね」

 やはりレベルアップのシステムがあるのか。なら、スキルポイント消費を最低限に抑えて、異世界の状況に合わせてスキルを取るという手もあったか。

「あ、ただしぃ、ポイントを使って新たにスキルを取るのは無理よぉ。異世界では自力で新たなスキルは覚えてね。ここで取ったスキルのレベルを上げるのにポイント消費するのは全然OKなんだけどねっ」

 危なかった……ちゃんとスキルを取っておいて正解だったな。何人かが絶望的な表情を浮かべているが、あの人たちは後でスキルに振ればいいとでも思っていたのだろう。可哀想に。

「では、そろそろ出発ね。皆さん、異世界での活躍を祈っているわ。じゃあ、バイバイ」

 僕の足元が急に安定感を失った。慌てて視線を下に向けると、そこには何もなかった。
 フローリングの床は消え去り、そこにあるのは真っ暗な闇。
 その闇に吸い込まれるようにゆっくり落ちていく僕たちを見つめ、妖艶な笑みを浮かべた女教師が、

「まあ、大半が異世界に立つこともできないでしょうけどね」

 と言い放ったのを聞き逃さなかった。
 徐々に体が沈んでいき首から下が完全に闇に埋もれたところで、頭に何かが滑り込んでくる感覚があった。それは問答無用で叩き込まれるスキル表のシステムだった。かなりの情報量だったのだが一瞬で理解することができた。

 そう、本来なら初めに伝えておくべきスキル表についての説明。それと自分の取ったスキルについての詳細。
 女教師が異世界へ出発する直前で伝えた理由。それは――

「何だよ、何だよこれ! 聞いてないぞ!」

「待って! お願いだから待って!」

「ステータス振りなおさせて!」

「このままだったら、動くこともできないじゃないか!」

「いやああああああああっ!」

「このスキル使えねえじゃないかっ!」

「おい、戻せ! やり直させろ!」

「嫌だ! 嫌だ! 俺はハーレムをつくって、屑どもを殺して楽しくやるんだっ!」

 泣き叫ぶ者、怒りのあまりに罵倒する者、やり直しを要求する者、慈悲を願う者、首から上だけが教室から生えた異様な状況で、この空間は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 僕は黙ってその光景を見つめていた。
 目を逸らしている女性や達観して周囲の状況を眺めている男性。薄ら笑いを浮かべ小馬鹿にした態度の少年。

 この人たちは僕と同じくスキル表の罠に気づき『説明』を取得した人で間違いない。

「ああっ、これよ! これが見たかったの! 歓喜から絶望。幸福な未来から地獄。いいわぁ、ぞくぞくしちゃう。うふふふ。絶望に歪む顔って、さ、い、こ、 う。あ、でもぉ、私を怨んじゃダメよ。私は何も嘘は言ってないんだから。ちゃんと気づく人は気づいて対応できているみたいだしぃ」

 取り乱していた人が、少しだけ冷静になったらしく、涙と鼻水に濡れた顔で周囲のクラスメート達に目をやった。
 僕と同じく涙も流さず取り乱していない連中を見つけ、彼らの顔が更に怒りに歪んだ。

「てめえら、知っていたのか! 何で、何で教えなかった!」

「ねえ、助けてよ! 使えるスキル取ったのでしょ! だったら助けてよ!」

「怨んでやる! 呪ってやるからなお前ら!」

 諦めきって怒る気力もない者も多いが、多くの人が気づいた僕たちを罵倒してくる。

「お前らが間抜けであって、俺たちが批難されるいわれはない!」

 厳つい顔つきの男性が周囲へ怒鳴りつけている。確かに、この男性の言っていることは正しい。間抜けまで言う気はないが、自分たちはそれに自力で気づき、何かずるをしたわけではないのだ。

「……いやだぁ、死にたくないよぉ」

「くそっ、くそおおおおおっ」

「これなら、異世界転移なんて無くて良かった……」

 嗚咽や慟哭が響く室内で僕たちは完全に闇に落ちた。




「相変わらず悪趣味だな」

 誰もいなくなった教室で、全身にうっすらと汗をにじませ光悦な表情で、小刻みに体を震わせていた女教師。その背後に、スーツ姿の生真面目そうな男が立つ。

「ああんもう、快感の余韻に浸っていたのにぃ、邪魔しないでよ」

「そうか、すまなかったな」

「それに悪趣味何て言われるいわれはないわ。本来なら何もわからずに死んでいた人たちへ救済してあげたのよ。貴方が殺した人たちにチャンスを与えてあげたの」

「そうだな」

 男は淡々と言葉を返す。その声には感情が見当たらない。

「そのチャンスを逃したのは彼ら。私は慈悲の女神さまよっ、あははははは」

 狂ったように笑う女教師に背を向け、男はその場から立ち去った。廊下の窓越しに一度、消えていった人々がいた場所に目をやる。

「すまないな、キミたち。だが、これで日本は素晴らしい国へと生まれ変われる」

 教室内に向かって大きく一度頭を下げた男は顔を上げ、室内の一か所を見つめた。

「あやつは気づいていなかったようだな。所詮我々も作られた存在。出し抜かれもするということか」

 表情に全く変化がなかった男の口角が少しだけ上がり、その場を足早に立ち去っていく。