ケイの転生小説 - 異世界転移したら19
「私たちは話し合わなくちゃならないことがあるわ」

 無言で下の処理を終えたルチェルが顔を赤くして帰ってきたのは真昼のことで俺はただ裁きを待つ子羊のように石の中で怯えていた。

「まず1つ目、今後魔装するときは絶対に、ぜぇええったいに黙ってえっちなことはしないこと」

 なんだって!?

『えっちなことって?』

「えっちなことはしてないって言うつもり?」

『しました』

 中に思い切り出したような気がします。遺伝子検査でも何でもしてください。
 考えようによってはこれ強姦か?

「……でも気絶しちゃったのは私のせいだからこの話はこれでおしまいよ」

 意外と優しいな。
 しかも黙ってってことは逆に言えば許してくれるのか?
 あ、なんか勃ってきた……。

「ちょっと! 何光ってるの!? えっちなこと考えるのも禁止!」

 なんじゃあ……そりゃジジイか。

「とにかくよ、私の魔力も回復にはだいぶ時間が掛かるし人はいないし……。全部水に流してあげるから責任取ってよ」

 セキニン?
 どう取れというんだ……石ころだよ。

『わかった……セキニン取るよ……』

 もうこう言うしかねえよな。

「いい? これは契約よ。夫婦になるわけでもないし、その、ハクは私の体勝手に弄ってるんだから私だってあなたに守られる権利くらいあるわ、あるわよね……?」

 何で疑問系なんだ。

『精一杯やらせて貰います……』

 何かよく分からない契約を結ばされた。
 あの魔装を思い出す度に俺は股間をうずうずさせないといけないのか。
 たのぢくなってきだぁ!

 涙が出るね。
 早く出てこないかな、次の敵。

「光ってる……はいそれ禁止」

『はい……』

 ところでこの大量の死骸(アンタイラント)はどうなるんだろうか。
 というか、こんなでかいのがこんな大量にどうやって生まれたんだ?

「今度は何考えてるの?」

 なんだろ、ルチェルのことが怖くなってきた。まあいいや。

『この大量の敵がどこから生まれたのかなあと』

「ダンジョンしかないわよ。たぶん一番原初にして最悪のダンジョン、ユビスダンジョンよ」

 周囲がこれだけ死骸だらけだとさすがに気分が悪くなってきた。
 ルチェルのつやつやした顔を見ていることにする。

『どんなダンジョンなんだ?』

「500年間誰も最下層に到達してないダンジョンね。後は一番稼げるダンジョンって言われてることくらいかしら」

 ダンジョンって儲かるのか。
 あれか、素材とかゲットして売るロールプレイングゲームみたいな感じなのか。

「ああ、鼻が曲がりそう……。ねえ、私のポイントって今いくつあるの?」

 正直に教えた方がいいだろうが、俺の取り分がほしいからな。

『21だよ』

「結構増えたのね……」

 俺はもうこの増える仕組みにも気がついてる。
 でもルチェルには教えるまい……絶対にだ。
 意図的に上がらないようにされても困るしな。

「なら魔力に全部振って貰える? すぐ回復するかもしれないし」

 それは賢い選択とは言えないな。
 目的が回復なら何の意味もない。
 戦闘で必要な魔力ならば魔装状態で充分に感じる。
 それよりも問題は素のルチェルが弱すぎることだ。

 あんな巨体に不意を突かれただけで失神とか……いつ死んでもおかしくない。

『魔力は魔装状態で充分足りてると思う。俺は実際にルチェルになって戦ってたから分かるけど、魔力に不足は感じなかった』

「今の私が魔力回復したいからじゃだめ?」

『回復したら終わりだろ? 手先の器用さを上げるよりも酷い使い方だよ』

 ルチェルは唇を少し尖らせる。

「なら魔法の関係を伸ばしてよ。私のランクは知ってるでしょ? 魔力のこともそうだけどランク50なんてお笑い種よ」

 ランク50……そもそも誰が決めてるんだ? 白老らしい。
 当てもない放浪に飽きてきた俺はルチェルにアンタイラントを吸収できないか色々もいで貰って見る。
 結果的に触覚のところが【素材・アンタイラントの触覚】という扱いだった。
 それで道すがら俺のEメーターを回復した。

 そんな調子で最初は順調だったのだけど、途端にルチェルの歯切れ悪くなっていく。

「そろそろ……休ませて」

 ルチェルの体は脱水状態(中)になっていた。おまけに飢餓(小)か。
 無理もない。夜はずっと街のど真ん中で寝ていたわけだし、今朝からは歩きづけだ。
 街には人はいないし、馬もなかった。(あれを馬と言っていいのかどうかはわからないが)
 おいおいところで次の街ってどこにあるんだ?

「さあ、わからないわ……けどあの街にはいられないし……」

 無計画!? てっきり知ってる土地を歩いているのかと……なんてことだ。

 ぽつぽつと降り出してきた雨脚に俺はこの世界で2度目の雨だなあと現実逃避する他ない。

『ルチェル?』

 天を仰いで口を開けている。
 はっきりいって美少女の絵面じゃない。野生少女だ。

『濡れるぞ?』

「……」

 構わないらしい。
 さて、21ポイントはどう振るべきか。
 ここは冷え耐性という項目に振るべきか、あるいは飢餓耐性か。
 耐性って丈夫になるっていう意味じゃなく、単に我慢できるようになるとかだったら目も当てられない。

 やはり免疫力だろうか……。
 そんなしょうも無い項目に俺は20ポイント振った。
 目先の生死が先だし、許して貰おう。
 余った1ポイントは残しておく。

 ざあざあと降り始めた雨はアンタイラントの血を洗い流していった。

「寒い……」

 脱水を免れたと思ったら今度は寒いとか言い出したよ。飢餓も小に戻っている。
 本当に無茶なことするよ。

 俺はEメーターを消費して広範囲にスキャンを行う。
 地形の形状を立体に再構築して周辺に雨脚を凌げるところを探し出す。

『向こうだ、違うそっちじゃなくてアンタイラントの道からみて右』

 ふらふらと覚束ない足取りで歩き出したルチェルは俺の指示通りに進んで行って十分後。
 なんとか穴蔵を見つけた。

 天然の穴蔵……というわけではなさそうだ。
 板で丁寧に打ち付けられた扉から仄かな明かりが漏れている。
 鉱山? にしては人の気配がない。 

「もしまた私が気絶したら……その……ね?」

 嫌な予感がまたしてきた。

『さっきダメって言わなかった?』

「もうあんなことは……絶対やだから」

 盗賊や荒くれ者の類はルチェルにとってはトラウマだった。
 俺はそれ以上追及せずに洞窟に踏み入る様子を眺めていた。