五日目の朝。
コテージの自室。
ベッドで眠っていたぼくは、窓から差し込む朝日で目を覚ました。
隣で寝ているハクカの寝顔を少しだけ眺め、外の貯水槽に行き水を貯めた。
時間が経てば、水は浄水分と多少補給される水で最低限は補えるようになっているができるうちに水は限界までためておきたいのだ。
バスタブは木製で、どういう仕組みでか知らないけれど、時間をかけて温水を出すことも可能である。
中に入るとアカネとアリハとハクカがおきていた。
「おはよう」
「おはようございます」
朝食を召還して、アリハから用件を聞くことにした。
すると話し合い次第らしい。
「朝から会議なんだよね」
「ああ」
朝食のあと、ぼくたちは樹上の町に戻った。
本当は、ぼくだけで行こうと思ったんだけど……ハクカたちは、みんなの様子を見たいとのことだ。
アリハは姉たちと話すことがあるという。
ぼくはリーンさんのいるいつもの木のうろへ向かう。その途中、和弘と合流した。
まだ夜明けから一時間程度にもかかわらず、リーンさんは起きていた。
志木さんも一緒だった。
ふたりとも昨日は寝たのかな……。
部屋の中央で対面になってあぐらをかいていたリーンさんと志木さんは、木のうろに入ってきたぼくたちの顔を見て、ちいさくうなずく。ぼくたちは、いつものように車座になって座る。
「今日の主な計画について、お話をしたく思います。その前に、カズ、あなたの部下の調子はどうですか」
「あー、おおむね元気だよ。さすがにみんな、欝憤が溜まってるみたいだけど」
「そのあたりは、白い部屋で発散させていただければと」
平然とした顔でブラック経営者なことをいうリーンさん。
「エース・チームが万全なのは、素晴らしいことよ。昨夜はがんばったのかしらね」
「なんのことをいっているのか、まったくわからないな」
「あら、そう。……ふうん、疲れてすぐ寝ちゃったって顔ね」
リーンさんが、くすりとする。
「ご自愛ください。あなたがたの体調は、いま、われわれにとって最優先の関心事項なのですから」
「えー、はい、努力します」
「さて、われわれの森は、現在もモンスターたちの包囲を受けております。包囲といってもなにせ広大な森ゆえ、抜け道は数多く存在しますが……アガ・スーこそ倒したものの、われわれは依然として侵攻を受けていることは認識しておいてください」
リーンさんは、大雑把な地図を見せてくれた。
縮尺はよくわからないけど、山脈のふもとにぶわっと森が広がっていて、その一部がリーンさんたち光の民の国土、広義の意味で世界樹の森であるらしい。
ちなみに狭い意味で「世界樹の森」という場合、昨日、ぼくたちが戦った結界内部を指すのだとか。
世界樹の森を攻める魔王軍の総数は、およそ二万体。
そのうち、昨日と一昨日で千五百体ほど始末しているわけだけれど……。
モンスターたちは、森の平地側に二十四か所の砦をつくっているらしい。
砦ひとつあたりの平均戦力は、五百体程度。
残りの兵力は、遊撃隊的に移動しているとのことだ。
アガ・スーも、そうした遊撃隊のひとつであったようなのだが……。
「これらの砦は、もともとわれわれ光の民が外敵に備えてつくりあげた要衝です。これらの砦の奪還は、今後、反撃を期するわれわれにとって最優先事項です」
「でも、リーン。奪還したとして、二十四か所なんて守りきれるものじゃないわ。光の民の軍は、ただでさえ疲弊しているのでしょう?」
「はい。ですが、砦を奪還すれば、モンスターの軍勢は再度の奪還を目指しますので……」
ああ、なるほど。
志木さんの目にも理解の色が宿る。
「今度は砦を守って、敵に出血を強いるというわけね」
「はい。よって、すべての砦を奪還する必要はありません。せいぜい三つか、四つ。そのうちのいくつかは捨て石にし、敵戦力の分散を狙います」
敵の支配領域に楔を打ち込み、そこにモンスターをおびき寄せて倒すってわけか。
あわよくばモンスターたちの戦力分散を狙い、場合によっては機動戦で始末していく。
悪くない考えのように思える。
ぼくたちが参戦するなら、五百体程度のモンスター軍を始末するのは難しくない。
リーンさんのテレポート・ネットワークがあれば、常時、砦に駐留する必要はないわけだし。
現在、魔王軍とぼくたちのおおきな差は、このテレポート・ネットワークの存在だろう。
ぼくたちが自在に戦力を投入できるのに対して、魔王軍はどうしても戦力を分散させざるを得ない。
この機動力は、最大限に生かしたいところだ。
「ならいっそ、二十四個の砦を全部奪還して、そのうえでいくつかは破棄しちゃえば? うまくいけば、砦にたてこもる一万二千体のうち、かなりの戦力を潰せると思うけど」
「それはひとつの手ですが……残念ながら、砦の内部に侵入する隠し通路は、すべての砦に設置されておりませんでした。また、いくつかの通路はすでに発見されている恐れがあります」
「ルシアの魔力解放つき火魔法で爆撃する手もあるけど、あれは彼女への負担が予測できないものね。そのあたり、どうだったかしら?」
「甘いものを食べたらだいぶ元気になったよ」
リーンさんと志木さんはくすりとする。
「できれば、なんでもない雑魚戦で魔力解放を使いたくないなあ。いちおう、トークンが溜まっているから、別のひとが魔力解放を取ることもできるんだけどね」
「あなたが稼いだトークンをもらえるなら、うちの火魔法使いのひとりに魔力解放を取らせるのはアリ……か」
志木さんは少し考えたすえ、首を横に振った。
「やめておきましょう。レベルの差もあるわ。レベル36の彼女なら連発できる魔法でも、レベル20前後しかないうちの子たちだとそう何度もは、ね」
「うん、その方がいいと思う。ルシアを見る限り、どうもMPを一度に一定割合以上、ごっそりと持っていかれるのがまずいんじゃないかなーって感じだからね」
ひとつの目安として、レベル30を超えれば、一戦闘に一回くらいのペースで十倍魔力解放を使ってもだいじょうぶだとアドバイスされた。
「わかったわ。考えておく」
志木さんはうなずいた。
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