「了解でござるよ。こちらでも、同じことを話し合っていたでござる」
「結城先輩と啓子さんもシャ・ラウにしがみつきますか」
「可能なら、そうしたいわねー」
「じゃあ、それで」
会話の間も火魔法を使える組が魔法を連打して、敵につけいる隙を与えない。
そしてルシアが、三発目の魔力解放をパワー・スペルつきで発動する。
地面で巨大な爆発が起こる。
土煙が視界を覆い尽くす。
それが、合図だった。
アリス、たまき、忍者夫妻をしがみつかせた幻狼王シャ・ラウが、一迅の光輝となって土煙のなかに飛び込む。
ここで、ぼくたちは白い部屋に行った。
レベルアップしたのは、全員だ。
オークの分を合わせて考えれば、全員レベル上がるよな。
「作戦とかみんなで考えれるといいよね」
「確かに・・・・聞いてみるか?」
早速、聞いてみたら
「困難であるか」
その言葉にがっくりときたが、別の方法を聞いてみると
「可能だが、これだと使えないな」
「うん。対象が一人だとね」
こうなったら、現在のトークンを見てみることにした。
6942トークンほどあった。
「今のままだとこれから先、厳しいよな」
「・・・うん」
それは誰もが共感するところだった。
そこで、何か有用の特殊能力あるいは魔法とかないかミアベンダーを見ることにした。
直接の戦闘と関係ない便利系魔法とか有用だけど、今必要ない。
特殊能力かな。
その中で有用なのが魔力開放である。
トークンは、3000トークンかと思ったが2000トークンだった。これはミアの言葉がうそか、値下げでもしたのか。
・魔力解放とは、MPの消費を調節することで、魔法の威力を増減させる能力である。
たとえば、ライトニングを放つとき、MP消費を1にすれば弱い電撃が放たれる。
MP消費を10にすれば、はるかに強力な電撃が放たれる。
使用できる最大値は、本来の消費MPの十倍まで。
「魔力開放を覚えるとしたら、アリハかユリコかシオネかな」
「・・・アリハちゃんが覚えるべきではないでしょうか?」
百合子が意見を控えめながら言う。
「確かにそうだな」
「できれば、私以外だとうれしいのですが」
「どうして?」
「戦後のことです」
「・・・政治的な理由か」
「はい」
「わかった。オラーさんに相談でもするか」
こうして、特殊能力を覚えるのはあきらめた。
何せ、今、この戦いには役に立たないからである。
僕は、強化召還のランクを上げた。
ハクカは、音楽のランクを上げた。
「よかったのか?」
「・・・えっとね。志木さんが実験するとか言っていたから、それにかけようと思って」
「なるほど」
僕たちは、アリハの次のスキルを考えることにした。
水魔法はルシアとかぶるので除外して、別の魔法だよな。
火魔法か土魔法あるいは別のスキルがいいのか?
「あの、私、火魔法を覚えたいです」
「火魔法か。いいだろう」
アリハは、火魔法を覚えた。
アキ:レベル41 剣術9/槍術9/射撃4/治療魔法6/風魔法3(メニュー・タンズ)/地魔法3/付与魔法9/召喚魔法9(リード・ランゲージ)/肉体9/運動9/偵察3 スキルポイント80→70
強化召喚4→6(使い魔強化4→6、使い魔維持魔力減少4→6)
ハクカ:レベル40 治療魔法9/音楽2→3 スキルポイント34→31
アカネ:レベル38 槍術9/付与魔法6 スキルポイント10
アリハ:レベル25 風魔法9/火魔法0→1 スキルポイント5→4
ユリコ:レベル22 火魔法8/水魔法1 スキルポイント7
シオネ:レベル22 火魔法8/風魔法1 スキルポイント7
「周囲に絨毯爆撃を!」
戦場に戻ったあと、和弘はルシア以外の火魔法使いに指示を出す。
高等部組と育芸館組のあわせて5人は、ルシアの一撃で壊滅したあたりを避け、その外縁部に範囲攻撃を放った。
土煙の向こう側はよく見通せないけど、爆発の音だけは聞こえてくる。
「あー、ミア、竜巻で土煙を晴らしてくれ」
「いいの? また触手うねうね来るよ?」
「そのぶん、アリスたちの負担が軽くなる。ぼくたちが囮になるんだ」
「わかった。テンペスト」
ミアはうなずき、いまだ立ち込める土煙をめがけて竜巻の魔法を放った。
暴風により、大気がかき乱される。
視界がクリアになって……それが、見えた。
爆心地の中心にそそり立つ大樹がある。
巨大なトレント、間違いなくアガ・スーだ。
アガ・スーは無数の枝を触手のように伸ばし、アリスたちと交戦していた。
高さ十メートル、幅十メートルの太い樹だ。
樹幹、高さ七メートルのあたりについた無数の目が、三百六十度を見張っている。
時折、いくつかの目が輝いた。
そのたびに、レーザーやら氷弾やらが放たれる。
地面から尖った岩が突き出る。
「ひょっとして、目のひとつひとつが魔法を使ってくるのか……」
「ボスの複数回攻撃は難易度向上の基本」
「ゲームの話に落とし込むなよ!」
困難はそれだけじゃなかった。
アガ・スーと連係して、周囲の蔓がアリスたちの邪魔をする。
それの対処は、主にシャ・ラウが担当していた。
自在に伸びる蔓を雷撃で焼き、鋭い爪や牙で引きちぎっている。
しかし蔓の方もしつこい。
シャ・ラウひとりでは、四人全員のカバーは難しそうだった。
結城先輩が幻狼王のカバーに入り、かろうじて拮抗状態をつくり出している。
「援軍を送った方がいいっぽい?」
「そうだな。火エレを呼び出す。ミア、送迎を頼む」
「了解でありんす」
ありんす、ってなんだよ。
和弘はグレーター・ファイア・エレメンタルを二体、立て続けに召喚した。
定番の付与魔法を手早くかけていた。
蠢く蔓は、やはり多少、火魔法を苦手にしているようだ。
全身炎に包まれた、剣を持つ裸のマッチョ、グレーター・ファイア・エレメンタル。
ミアはこの使い魔ふたりと手を繋ぎ、ディメンジョン・ステップで消える。
次の瞬間、彼女と二体の火エレは、シャ・ラウのそばに出現している。
シャ・ラウと結城先輩が、ちらりと和弘の方を見た。
ミアは二体の火エレを置いて、すぐワープで戻ってきた。
和弘を見上げる。
「伝言。もっと援軍くれ」
「二体じゃ足りないか……。よし、わかった」
和弘はさらに二体のグレーター・ファイア・エレメンタルを呼び出し、付与魔法をかけていく。
この二体も、ミアがディメンジョン・ステップで輸送する。
この間にも、何本の蔓が上空のぼくたちを襲っていた。
もっとも、さきほどまでに比べればその数は少ない。
蔓の大半は、アリスたちの方を攻撃しているからだ。
桜と火魔法使いたちが迎撃し、やすやすと蔓を倒していく。
ミアちょうど二度目のエレ輸送を終え、戻ってきたところだ。
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