ケイの転生小説 - ボクは異世界で 86
 三分後、ぼくたち16人と護衛のシャ・ラウは、木々の傘の上に舞い上がり、アガ・スーの蠢く樹海を眼下に見下ろしていた。
 まだ向こうは、こちらに気づいていない様子だ。

「今回の作戦、指揮官はカズ殿でござる。判断と指示は任せるでござるよ」

「え、でも……結城先輩の方が、そういうのは得意なんじゃ」

「拙者と啓子は、最前線で戦うでござる。後衛が指揮官を兼任する方がよいでござろう。それに、拙者はカズ殿の危機管理能力を高く評価しているでござるよ」

「ぼくたちの戦いは、いつも紙一重ですけど……わかりました。お引き受けします。でも前線でヤバいと思ったら、そちらの判断でアリスたちに指示を」

「無論でござるよ」

 よし、それじゃ作戦実行だ。

「ルシア。初手から十倍インフェルノだ。悪いけど、出し惜しみしている場合じゃない。……でも、辛くなったらすぐいってくれ」

「わかりました、カズ。……心配なさらずとも、無理はいたしません。無理をするのは、まだ先です」

 まず和弘が、ルシアに付与魔法ランク8のパワー・スペルをかける。
 ごくわずかな間、攻撃魔法の能力を向上させる魔法だ。
 合図のもと、火魔法と風魔法の使い手たちが一斉に魔法を放つ。

 ランク6の高等部組は、ファイア・ストームを放つ。火魔法ランク6であり、効果は炎の嵐である。
 ランク8の潮音&百合子は、インシネレートを放つ。火魔法ランク8であり、効果は掌からほとばしった業火が、対象の全身を包み込み、全身を焼き焦がすのである。
 ランク9のアリハは、ホワイトカノンを放ち、ルシアはインフェルノを放つ。特にルシアはMPを十倍消費したものを放った。

 そのすべてが、蠢く木々の中心に叩きつけられる。
 ちなみに、ルシアひとりでほかの全員を合わせたより巨大な火球であった。
 すさまじい爆発が起こる。

 耳を弄する轟音と共に、爆風がぼくたちを襲う。
 飛行にあまり慣れていなかった高等部の男子たちが、その身をくるくる回転させた。
 ハクカとアカネとアリハが、吹き飛ばされそうだったので、右手でハクカを抱き寄せ、左手でアカネを抱き寄せ、身体でアリハを受け止める。3人の甘やかな匂いと柔らかな肢体に肉棒が勃起する。
 やっぱり飛行は慣れてないはずの忍者組は、なぜか平然とバランスを取ってるけど……。

 とんでもない量の土埃が舞い上がり、視界を覆い尽くす。
 ミアが小声で「やったか」と呟いた。

 はたして、彼女のフラグのせい……というわけもないだろうけど。
 もうもうと立ち込める土煙の向こうに、なにかが見えた。

「来るわよー」

 啓子さんの警告とほぼ同時に、土煙を突き破って、無数の蔓状植物がぼくたちにその触手を伸ばしてくる。

「ルシア殿以外の後衛は、適当に蔓を焼き払うでござる!」

 叫びつつ、結城先輩たち前衛が前に出た。
 先頭の啓子さんとたまきが、白い剣を振るう。
 剣先から放たれた衝撃波が、襲い来る蔓を次々と切断していった。

 アリスとアカネが魔槍を伸長させて、ふたりが打ち払えなかった蔓を潰していく。
 でも彼女たちだけじゃ、限界があった。
 なにせ伸びてくる蔓はもはや数百本レベルだ。

「ファイア・ストーム」

「インシネレート」

 ルシア以外の4人の魔法使いが、絨毯爆撃を開始した。
 蔓を切断しきれないなら、焼き払えばいいじゃない。

 どのみち、ルシア以外の攻撃は、あの広大な樹海に対して焼け石に水レベルだ。
 とっさにそう判断した結城先輩は、正しい。

「テンペスト」

 さらにミアが、竜巻で蔓を翻弄する。
 業火と激しい風により、無数の蔓状植物もぼくたちに近づいて来られない、が……。
 烈風吹きすさぶ音を割って、しゅぽん、しゅぽん、と炭酸の瓶の栓を抜いたような音が立て続けに響いた。

「ミサイル、来るわよー」

 え、ミサイル?

 啓子さんの言葉の意味は、すぐにわかった。
 業火と竜巻を突き破り、人間の身体くらいおおきな涙滴型のドングリが飛んできたからだ。

 ドングリは、お尻から白い粉のようなものを打ち出して、それによって上昇しているようだ。
 魔法的ななにかっぽいけど……。

 飛んできた巨大ドングリ・ミサイルは三発。
 迎撃に当たるのは、アリスと啓子さん、それに桜だった。

 って、え、桜?

 彼女が?

 よくよく見れば、長月桜の持つ槍は、柄の部分が二重螺旋になった、ちょっと見たことのないものだった。

 アリスは槍の柄を伸長させて、ドングリの実を貫く。
 ドングリは衝撃で爆発を起こした。
 爆風がぼくたちを襲う。

 シャ・ラウが、和弘とミアをかばっていた。
 僕は、アリハとハクカを抱き寄せながら、二人をかばう。
 残りは、なんとか空中でバランスを崩さないよう、必死で堪えている。

 桜が口のなかで、なにごとかコマンド・ワードを唱える。
 すると二重螺旋の槍の柄が赤く輝き始める。
 赤い光が穂先に集まり、一筋のビームが撃ち出された。

 ビームは見事にドングリを貫き、爆発させた。
 そして残る一発の前に啓子さんが立ちふさがり……。

「リフレクション」

 ジャストタイミングではじき返してみせる。
 もちろん、ドングリ・ミサイルのスピードは、秘策を使わないとぼくなんかじゃとうてい跳ね返せないほど速かった。
 こんなの見切れるの、たぶん結城先輩と啓子さんだけだ。

 跳ね返されたミサイルは、樹海に落下し、爆発。
 木々が吹き飛び、おおきな煙があがる。
 うわあ、あんなの直撃してたら、さすがにぼくたちでもヤバかったんじゃ……。

 で、彼らが時間を稼ぐ間に、脂汗を流しつつもルシアが溜めを完了していた。
 和弘は射線上の人々に、退避するよう伝える。

「いくぞ、ルシア。パワー・スペル」

「インフェルノ」

 二発目の、MPを十倍消費した最強火魔法が放たれる。
 巨大な火弾が眼下の森に着弾し、すさまじい爆発が起こった。
 ちょうどドングリミサイルが着弾した付近だったせいで、残りの蠢く木々がまとめて吹き飛び、地面を深くえぐって土砂をまき散らす。