ケイの転生小説 - ボクは異世界で 83
「ちょっと、ちょっと。なにコントをやってるわけ」

 唐突に、木々のなかから声がした。
 いや、樹上だ。
 気づくと、五メートルくらい上の木の枝に、高等部のジャージを着た少女が立っていた。

 ジャージのラインの色は、緑。
 三年生ということだ。
 手には弓を持っていて、腰のベルトに矢筒を差している。

 ベルトは、ジャージをわざわざ改造して取りつけたもののようだ。
 なるほど、ああすれば簡単に矢を取り出せるか……。
 育芸館組には本格的な弓使いがいなかったから、いろいろ新鮮だなあ。

 後ろ髪をポニーテールにした、結構、気の強そうなひとだ。
 いまも結城先輩をジト目で睨んでいる。
 って、あ、さっき結城先輩の耳を引っ張って叱ってたひとだ。

「はーい、朱里ちゃん」

 啓子さんが呑気に手を振った。
 朱里さんは、啓子さんを見て、眉をひそめる。

「決戦を前に、ずいぶんと余裕なんですね」

「ずっと気を張ってても、疲れちゃうわよー」

「啓子さんは、だらけすぎです。田上宮くん、あなたもそのノリを他人に押しつけるの、やめなさい」

 朱里さんは木の枝を身軽に飛び降り、地面に降りてくる。
 すたすたこちらに歩いてきて、結城先輩の頭をパン、とはたいた。
 あ、結城先輩が嬉しそう。

「拙者の業界ではご褒……」

「ご褒美、っていったらもう一発、いくわよ」

 結城先輩は黙った。
 周囲に気まずい雰囲気が流れる。
 朱里さんが、こちらを向いた。
 和弘を見る。

「うちのバカリーダーがごめんなさいね。いままで自己紹介の機会がなかったけど、わたしは成宮朱里。高等部でサブリーダーをやらせてもらっているわ」

 結城先輩のノリを拒絶して、きちんと軌道修正できる真面目さだ。
 啓子さんは、結城先輩と一緒になって、ノリノリで忍者ごっこを始めるしなあ。
 どうやら、朱里さんはなかなかに現実主義者のご様子である。

「なにかモメてたみたいだけど、ちょっとそういうの、後にしてもらっていいかしら。光の民の隊長さんと話し合ったんだけど、前面に出てくるオークの対処は わたしたちマレビトとア・ウル・ナアヴのえーと、『素子』チームだったかな。そこが担当することになったわ。一番の激戦区だけど、経験値の入りがいいから」

 朱里さんは、そういって背後で文句をいいたげな男子に振りかえった。

「中等部の子たちにナメられたくないなら、いっぱい経験値を稼いでレベルアップしなさい。だからといって突っ込んで死ぬのはNGだけど」

「おい、死んだ奴を馬鹿にするのかよ!」

「報告は聞いたわ。アヤミはチームプレイを忘れたから、死んだ。彼女は馬鹿だったの。そこは認めなさい。認められないなら、次はあなたが死ぬわよ」

 うわあ、ズバリといいきった。
 これが彼女の役割なんだろう。
 結城先輩や啓子さんじゃ、ここまではっきりといえないだろうからなあ。

 彼女は、飴と鞭の鞭役か。
 さぞや気苦労が多いだろう。
 志木さんと気が合いそうだ。

「所で朱里さん」

「何かしら、確か狭間君だったわね」

「高等部の彼女を引き取って欲しいのだけどね」

 僕におんぶされている少女を見て、誰か気づいたようだ。

「あら、アヤミ。どういうことかしら?」

 僕は、朱里さんに説明した。

「なるほど、それはこちらが悪かったわね」

 僕からアヤミを受け取った。
 朱里さんが、高等部の人々を見渡して

「さあ、もうすぐ敵が来るわよ」

 と宣言する。

「これから配置について、教えるわ。あ、志木さん。あなたたちは、こっちのメモを参考にして」

 志木さんは、朱里さんからメモ帳の切れ端を受け取った。
 一読し、うなずく。
 メモの情報をもとに、手際よく班分けを開始する。

「カズくん。あなたたちは、ひとまずここで待機ね」

「予備兵力か」

「ええ。あまりMPを消耗させたくないし、なによりオークごときの経験値をあなたがたに奪って欲しくないもの。座って休んでいなさい。寝るなら、そこの木陰でね」

「あー、悪い。本気でそうする」

 和弘が寝ているのを尻目に、スミレが班分けを行い、志木さんが承認した。
 大は、斬りこみ隊長役らしい。
 僕は、いざというときのために動いて欲しいそうだ。
 オーク相手なら問題ないと思うだけどね。