僕たち、育芸館組もリーンさんの案内の下に足の速い部隊の場所を目指していた。
「迅速に間引かないといけないわけだ。リーンさん、1部隊におけるヘルハウンドたちがどのくらいかわかりますか」
「ざっと、およそ30体前後になります」
「部隊を2つに分けるか。長月さんたちの部隊が2パーティ、僕たちのパーティだ」
「それで大丈夫でしょうか?」
アカネが心配げに聞く。
「それは、数で補うさ。サモン・レギオン」
青白い馬に乗った幽鬼のような騎士が現れた。騎士と馬は百体ずつ。騎士は、その一体一体が、ランク4のソルジャーと同等である。召還魔法ランク9である。彼らの現在の強さは、僕の使い魔強化の後押しを得て、ランク5.5である。
ディフレクション・スペルを使い、定番の付与魔法、マイティ・アーム、フィジカル・アップ、キーン・ウェポン、ブラッド・アトラクション、ナイトサイト、レジスト・エレメンタル:火・水、メニュー・タンズを使用した。
「レギオンたちをそれぞれ2部隊に分ける。長月さんたちの部隊と僕たちの部隊の護衛をしてほしい」
「はい」
僕の命令に素直に頷き、長月さん達の部隊と僕たちの部隊に分かれた。
「リーンさん」
「はい」
2か所ほど、小規模なモンスターの集団を潰した。
ヘルハウンド部隊とアシッド・ウルフ部隊だ。
ヘルハウンドやアシッド・ウルフも対策さえしていれば、さほど脅威じゃなく、レギオンたちが足を切りつけ動きづらくしたところで少女たちにたやすく刈り取られた。
もう1箇所、小規模なモンスターの集団を目指していると数十M先にヘルハウンド部隊と戦っている高等部たちを発見した。そして、リーンさんの案内の下、別の場所に行こうとしたところで、数十m先で戦っていた高等部の人間の一人が炎で燃えていた。
まずいと感じて、
「先に行ってて」
返事を聞く前に木をジャンプ台の代わりにけり、飛び出す。
1秒後
「・・・・・ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
声にならない叫びを上げている人間に触れる。
「ハイレジスト・エレメンツ:火」
すると、人間に膜がかかったように火が避けだした。
炎の中から現れたのは、少女であった。
身体中にひどいやけどを負っていた。
ヘルハウンドは、こちらを目標に突進してきた。
少女を左手で抱き寄せ、右手に剣を握る。
「ヒール、ヒール」
と連発し、少女を生かすべく唱える。
ヘルハウンドが突っ込んできたので、剣を一閃し、ヘルハウンドの首を落とす。
ヘルハウンドから火が出るが、レジストの範囲内なので火が消滅した。
「・・・ひぃ」
「・・・あや」
高等部の面々がアヤと呼ばれる少女の状態に気づき、おびえだしていた。
現在の少女は、焼け爛れていたからだ。
ヒールで多少ましになったとはいえだ。
「治療魔法使える人間は?」
周囲を見渡すが、治療魔法が使える人間が一人だったが、その子が恐る恐る引きつった笑みでアヤに触れながらヒールを唱えた。高等部の面々は怖がり近寄ってこなかった。
「アキ君」
中等部の少女3人がいた。
「なぜここに?」
中等部の少女3人に事情を聞くと、高等部では後衛が少ないため中等部の人間が派遣されたそうだ。
「ヒールは?」
「ごめんなさい。魔力が切れました」
「そうか」
どうやらひどいやけどには、ヒールでは対応していないようだ。
「リーンさん」
「はい」
「ハクカたちは?」
「戦闘に入る前です」
「そうか。ここでの戦闘は終わったよね」
「はい」
「3人とも、これから僕についてきて」
「はい」
中等部の子達を引き連れて、戦闘指定エリアを目指す。
案の定、戦闘が始まっていたようだ。
「アキ君」
ハクカの心配そうな声に申し訳なく感じた。
「ごめん。遅くなった」
ヘルハウンドを斬りつけてながら答える。
「ハクカ・・・・リヴァイブを頼む」
ハクカに、アヤという少女の治療をお願いした。
「うん・・・・リヴァイブ」
見る間に全身のやけどが治っていく。
中等部3人も戦闘に加わり、予定より早めに戦闘が終わったところでレベルアップした。
僕は、アヤという少女を連れてきた経緯を説明して、全員に謝った。
「・・・うん、許します」
といい、全員が許してくれた。
僕は、強化召還のランクを上げた。
ハクカは、音楽のランクを上げた。
アリハは、風魔法のランクを上げた。
アキ:レベル41 剣術9/槍術9/射撃4/治療魔法6/風魔法3(メニュー・タンズ)/地魔法3/付与魔法9/召喚魔法9(リード・ランゲージ)/肉体9/運動9/偵察3 スキルポイント93→78
強化召喚1→4(使い魔強化1→4、使い魔維持魔力減少1→4)
ハクカ:レベル39 治療魔法9/音楽1→2 スキルポイント32→30
アカネ:レベル37 槍術9/付与魔法6 スキルポイント8
アリハ:レベル23 風魔法8→9 スキルポイント10→1
3つめの敵集団を潰したところで、使い魔の鷹を通してリーンさんから連絡がきた。
「決戦の準備が整いました。前線の方々は撤収させます。みなさんも適当なところで引き揚げてください」
決戦の準備。
ぼくたちが動きまわり、高速移動するモンスターたちを潰してまわったのは、これを邪魔させないためだった。
作業中に攻撃されては、準備に余計な時間がかかるし、作業員たちも動揺する。
リーンさんは、作業のため、非戦闘員の者たちまで動員した。
加えて高等部と育芸館の皆も働いた。
戦闘員、非戦闘員、あわせて数百人がかりで動いたおかげで、わずか数十分で準備が完了したというわけだ。
和弘の意見が原案だった。
会議の場で、和弘はこう提案したのである。
敵の主力がオークなら、特別に有効な対処方法があると。
「穴を掘りましょう。落とし穴を」
和弘の熱心な説明に、リーンさんとルシアは感心したようにうなずいた。
結城先輩も「たしかに有効でござったな」といった。
啓子さんも賛成してくれた。
なぜか志木さんは、ジト目で和弘を睨んでいた。
ともあれそういうわけで、敵軍の侵攻ルート上に、横に広く穴を掘ってもらったのである。
落とし穴といっても、穴を隠す時間はないだろう。
普通にシャベルだけを使っていては、数十分ではとうてい間に合わないだろう。
よって、育芸館と高等部の地魔法の使い手に頑張ってもらった。
光の民や各国連合軍からは、地の精霊を使役できる術者を総動員した。
加えて、付与魔法で腕力を強化させた光の民に大活躍してもらった。
「シャベルというのは素晴らしい道具ですね。武具にもなると聞きます。武器と工作を一本でまかなう、完璧な設計です」
リーンさんが、妙なところで感心していた。
ちなみにシャベルは、ぬかりなく志木さんと結城先輩が在庫のほぼすべてをかき集め、優先的に持ち出したものだ。
全部で百本近くあった。
穴は、場所にもよるけど浅いところで深さ五十センチほど。
ただし、奥行きは一メートル。
深いところでは二メートルを超えるらしい。
異世界に来てから二日目の昼、育芸館を巡る攻防戦である程度わかったことは、オークたちは数を頼みとした愚直な突撃を仕掛けてくるということだ。
ほんの少しでも足を止めさせ、渋滞を起こさせることができれば、密集した集団の数的有利は、逆に足かせとなる。
ひょっとしたら、オーク以外のモンスターの邪魔にすらなるだろう。
理想としては、そうして渋滞したところに範囲攻撃魔法をぶちこみたい。
できるだけ効率的に、そして素早くモンスターを倒していきたい。
敵の本命は、そのあとに控えているのだから。
「・・あ・・・アキ君、見ちゃ駄目」
「・・え・・・」
ハクカの制止の声は遅く、僕はアヤの生まれたままの裸体を見てしまった。
アヤの胸は割りとあり、勝気そうな少女という風であった。
アヤに布を巻きつき、アヤをおんぶして、ぼくたちは、リーンさんの指示に従い、世界樹の近くに戻った。
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