ケイの転生小説 - ボクは異世界で 7
 二十分ほどのち。
 ぼくは、今日5体目となるオークから逃げていた。

 ハクカが待ち構える落とし穴まで、オークを誘導しているのだ。
 上空で使い魔のカラスが、かーと鳴いた。ぼくを応援しているのだろうか。

 今度のオークは、いままでと違って槍を手にしていた。
 さびた粗末な槍だが、竹槍よりは強そうに思える。
 落とし穴に落としたあと、この槍をなんとかしなきゃな、とぼくは考える。

 ぼくはオークに追いつかれないよう、しかし引き離しすぎないよう、適度な距離を取って逃げている。

 落とし穴の近くまで来た。
 ちらりと木陰を見る。
 打ち合わせ通り、ハクカが太い木の裏に潜んでいるのが見えた。

 ぼくは落とし穴を飛び越え、反対側に着地する。

 三度目だ。
 慣れたものだった。
 振り向く。

 ぼくのあとを追ってきたオークは、重い足跡を響かせながら、ぼくと同じ場所を通過し……。
 偽装された落ち葉に足を踏み入れる。

 オークの姿が消え、次の瞬間、下方からすさまじい悲鳴があがる。
 穴を覗きこむと、穴の底の竹槍が、オークの身体を見事に刺し貫いていた。

 今回はいつもより槍の刺さりがいい。
 おかげでオークは手に握っていた槍を取り落としていた。
 槍の対策を立てずに済むのはありがたかったが……。

 これで致命傷になったら、まずいんじゃ?

 急ごう。

「ハクカ!」

「うん!」

 木陰から出てきたハクカが、

「竹槍!」

「・・・えい!」

 ハクカは緊張した面持ちで竹槍を握った。
 ぼくは彼女に駆け寄り、その震える腕に触れる。

「マイティ・アーム」

 ハクカの両腕が淡く輝いた。
 レベルアップのおかげか、さきほどより光が強い。

「ありがとう」

「がんばって」

 ハクカは、手足を震えさせながら、穴のなかに竹槍を突き入れる。
 オークのうめき声が、穴の底から響いてくる。

 ハクカのひと突きごとに、オークが悲鳴をあげる。
 ハクカは無我夢中で穴のなかに突きを入れ続けた。

 やがて、オークの悲鳴が止む。
 穴のなかを覗きこんでみると、致命傷を負ったオークの身体が薄く消えていくところだった。

 ハクカの身体が、ぴくりと硬直する。
 それはほんの一瞬の変化だったが、ぼくはたしかに、ハクカの雰囲気が変化したことを理解する。

 そう、彼女はレベル1になったのだ。
 ぼくと同じ立場、あの白い部屋に入る資格を得たのだ。
 そしておそらく、この一瞬、彼女はあの部屋で長い時間を過ごした。
 ノートPCでいろいろ調べろ、とぼくはアドバイスしていたから、それに従っていれば、少なくとも一時間か二時間は過ごしたに違いない。
 だからこそ、彼女は落ち着いている。

 ハクカが、おおきく息を吐き出す。
 槍を手にしたまま、ぼくを振りかえる。

「治療魔法を取りました」

 ハクカはいった。

「白い部屋、本当だったんだね」

 ぼくは苦笑いした。

「ちょっと信じられないような現象だよな」

「うん」

 実際、ぼくだって、立場が逆だったら……。