「どうしよう」
タマキが、意気消沈していた。
じめじめした洞窟の最深部、グロブスターの広間で、和弘とミアが魔法陣に乗って消えた。
落ち込むタマキをアリスが慰めていた。
グロブスターは、アリスが倒し、黄色い宝石と取り込んだ少女たちを残して消えた。
少女たちは、肉体こそ無事なものの、その全身は病的なほど白かった。
アリスとハクカが、ヒールした後でキュア・マインドをかけても、まったく反応がない。
「ごめんなさい、私のせいだ。ごめんなさい、ごめんなさい」
地面にうずくまっているタマキを見た。
そして、赤黒い血のシャワーが飛び散った。
驚き、その場所を見ると志木さんが少女たちを殺していた。
「こうしてあげるのが、彼女たちのためよ。彼女たちはもう、私たちみたいに生き地獄の中で悶え苦しむ必要がないの」
「で、でも」
アリスが戸惑ったように志木さんを見る。
志木さんは、ゆっくりと首を振った。
「育芸館の子達で、彼女たちを養うことはできないわ。そんな余裕も、能力もない。私たちはいつもギリギリなんだもの。だから、誰を受け入れて誰を切り捨てるのかは、私が選ぶわ」
タマキが泣き止み、立ち上がった。すがるように志木さんを見た。
「・・・・・・・・・・」
僕は、こぶしを強く握った。
志木さんの言っていることが全面的に正しいからだ。
「・・・アキ君」
こぶしを握っていると、柔らかな温もりが触れた。
見ると、ハクカが泣きそうになりながらも心配そうに僕を見ていた。
「・・・ごめん。心配をかけて」
「カズくんとミアちゃんなら大丈夫よ」
志木さんがタマキの髪を優しく撫でた。
「カズ君が言っていたでしょう。2時間後だって」
「え?2時間・・・後?」
「サモン・サークルよ。2時間後に、育芸館の地下室に作った魔法陣に乗るの。たまきちゃん、あなたとアリスちゃんが、カズ君を助けに行くのよ」
「あ・・・・っ!はい」
タマキが笑顔になって元気よく頷く。
「わかったわ、そうと決まったら、すぐ育芸館に戻らないと」
「待ちなさい。時間はまだあるわ。今のうちにこの洞窟の反対側も調べておきましょう」
「で、でも」
「今度こそ、無事な生徒を発見できるかもしれないわ」
アリスは、グロブスターの犠牲者の死体を泣きそうな顔でじっと見ていた。
「さあ、手伝って。この子達を外に運び出しましょう」
僕たちは、一度、洞窟の入り口まで戻り、アカネたちの4人と合流した。
僕たちが担いできた少女の遺体を見て、長月さんが息を呑む。
「その人たちは・・・」
「埋葬をお願いできるかしら」
ユリコとシオネに埋葬を任せた。
「サクラちゃん、こっちのパーティに入ってくれる?」
「はい。でも、ここの見張り、三人だけですか?」
「洞窟からオークが出てくることは、もうないと思うから・・・。危なくなったら、洞窟の中に逃げて、私たちと合流すればいいわ」
「サモン・アイアンゴーレム」
僕は、鋼鉄の巨人を召還した。
「とりあえず、アイアンゴーレムを盾に使って、逃げてくれればいい」
「はい」
かくして、僕たちは、長月さんとパーティを組みなおして、分かれ道の反対側を目指す。
途中で襲ってきたオークを、タマキが手際よく倒す。
洞窟の奥にいくほど、蒸し暑くなっていく。
不快な湿気とともに、鼻が曲がりそうなほどの腐った匂いがつよくなる。
「帰ったら、お風呂に入りたいわね」
志木さんがそんな軽口を叩きながら、次々と押し寄せるジャイアント・ワスプを始末していった。
「この奥、やっぱり、ハチの巣・・・・なのかしら」
「女王蜂とか、戦いたくないですね」
アリスが苦笑いする。
そして、洞窟の最深部にたどり着く。
女王蜂がいなかったが代わりに、高等部と中等部の生き残りである。藁の上に全裸で横たわり、風船のようにおなかを大きく膨らましていた。
「こ、これって・・・」
アリスが押し殺した声でうめく。
ひとりのお腹が、もぞもぞと動いた。少女の絶叫が上がり、股の間から粘液でぬめる胎児サイズの蜂が生まれ出る。
蜂は、すぐさま侵入者の僕たちを敵と見定め、翼を広げて襲い掛かってきた。
一歩、進み出たタマキが、すかさず切り捨てた。
「レベルアップしたわ」
僕たちは白い部屋に行った。
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