ケイの転生小説 - ボクは異世界で 59
「どうしよう」

 タマキが、意気消沈していた。
 じめじめした洞窟の最深部、グロブスターの広間で、和弘とミアが魔法陣に乗って消えた。
 落ち込むタマキをアリスが慰めていた。
 グロブスターは、アリスが倒し、黄色い宝石と取り込んだ少女たちを残して消えた。
 少女たちは、肉体こそ無事なものの、その全身は病的なほど白かった。
 アリスとハクカが、ヒールした後でキュア・マインドをかけても、まったく反応がない。

「ごめんなさい、私のせいだ。ごめんなさい、ごめんなさい」

 地面にうずくまっているタマキを見た。
 そして、赤黒い血のシャワーが飛び散った。
 驚き、その場所を見ると志木さんが少女たちを殺していた。

「こうしてあげるのが、彼女たちのためよ。彼女たちはもう、私たちみたいに生き地獄の中で悶え苦しむ必要がないの」

「で、でも」

 アリスが戸惑ったように志木さんを見る。
 志木さんは、ゆっくりと首を振った。

「育芸館の子達で、彼女たちを養うことはできないわ。そんな余裕も、能力もない。私たちはいつもギリギリなんだもの。だから、誰を受け入れて誰を切り捨てるのかは、私が選ぶわ」

 タマキが泣き止み、立ち上がった。すがるように志木さんを見た。

「・・・・・・・・・・」

 僕は、こぶしを強く握った。
 志木さんの言っていることが全面的に正しいからだ。
 
「・・・アキ君」

 こぶしを握っていると、柔らかな温もりが触れた。
 見ると、ハクカが泣きそうになりながらも心配そうに僕を見ていた。

「・・・ごめん。心配をかけて」

「カズくんとミアちゃんなら大丈夫よ」
 
 志木さんがタマキの髪を優しく撫でた。

「カズ君が言っていたでしょう。2時間後だって」

「え?2時間・・・後?」

「サモン・サークルよ。2時間後に、育芸館の地下室に作った魔法陣に乗るの。たまきちゃん、あなたとアリスちゃんが、カズ君を助けに行くのよ」

「あ・・・・っ!はい」

 タマキが笑顔になって元気よく頷く。

「わかったわ、そうと決まったら、すぐ育芸館に戻らないと」

「待ちなさい。時間はまだあるわ。今のうちにこの洞窟の反対側も調べておきましょう」

「で、でも」

「今度こそ、無事な生徒を発見できるかもしれないわ」

 アリスは、グロブスターの犠牲者の死体を泣きそうな顔でじっと見ていた。

「さあ、手伝って。この子達を外に運び出しましょう」

 僕たちは、一度、洞窟の入り口まで戻り、アカネたちの4人と合流した。
 僕たちが担いできた少女の遺体を見て、長月さんが息を呑む。

「その人たちは・・・」

「埋葬をお願いできるかしら」

 ユリコとシオネに埋葬を任せた。

「サクラちゃん、こっちのパーティに入ってくれる?」

「はい。でも、ここの見張り、三人だけですか?」

「洞窟からオークが出てくることは、もうないと思うから・・・。危なくなったら、洞窟の中に逃げて、私たちと合流すればいいわ」

「サモン・アイアンゴーレム」

 僕は、鋼鉄の巨人を召還した。

「とりあえず、アイアンゴーレムを盾に使って、逃げてくれればいい」

「はい」

 かくして、僕たちは、長月さんとパーティを組みなおして、分かれ道の反対側を目指す。
 途中で襲ってきたオークを、タマキが手際よく倒す。
 洞窟の奥にいくほど、蒸し暑くなっていく。
 不快な湿気とともに、鼻が曲がりそうなほどの腐った匂いがつよくなる。

「帰ったら、お風呂に入りたいわね」

 志木さんがそんな軽口を叩きながら、次々と押し寄せるジャイアント・ワスプを始末していった。

「この奥、やっぱり、ハチの巣・・・・なのかしら」

「女王蜂とか、戦いたくないですね」

 アリスが苦笑いする。
 そして、洞窟の最深部にたどり着く。
 女王蜂がいなかったが代わりに、高等部と中等部の生き残りである。藁の上に全裸で横たわり、風船のようにおなかを大きく膨らましていた。

「こ、これって・・・」

 アリスが押し殺した声でうめく。
 ひとりのお腹が、もぞもぞと動いた。少女の絶叫が上がり、股の間から粘液でぬめる胎児サイズの蜂が生まれ出る。
 蜂は、すぐさま侵入者の僕たちを敵と見定め、翼を広げて襲い掛かってきた。
 一歩、進み出たタマキが、すかさず切り捨てた。

「レベルアップしたわ」

 僕たちは白い部屋に行った。