ジェネラルが出てきた。
今度のジェネラルは、フレイルを構えている。
鈍器である。
鈍器を持ったオークは、これまでもいた。
棍棒を持って襲ってくるやつらが、ちらほらと。
「たまき、いけるか」
「任せて、カズさん! こんなの楽勝……っ」
と笑うたまきのどてっ腹にフレイルの銀球が叩きこまれた。
たまきの身体が後ろに吹き飛ぶ。
まったく反応できていなかった。
「たまきっ!」
和弘は叫ぶ。
和弘は、駆け寄ろうとして、ミアに服の裾を掴まれる。
「だいじょうぶっぽい」
たまきは地面に転がり、呻きながらも、なんとか立ち上がろうとしていた。
「ちょ、ちょっと油断しただけ、平気だわ」
ぼくはほっとすると同時に、ジェネラルの方をちらりと見る。
ジェネラルは、アイアン・ゴーレムの巨体にもう一撃を加えたあと、周囲を睥睨していた。
たまきに対して追撃を行わなかったのは、状況が不明だったからか。
たまきがあっという間にやられたせいで、彼女がこちらの最強戦力だと認識できなかったのだろうか。
「アリス、ちょっとの間でいい、ジェネラルを押さえて!」
「は、はいっ」
和弘はディフレクション・スペルのあとにヘイストをかけた。
たまき、アリス、ミア、和弘、それに使い魔たちが赤い輝きに包まれる。
アリスが、果敢にもジェネラルに突きかかる。
槍のリーチを活かし、フレイルの攻撃範囲の外から、足もとをちくりとやる。
ジェネラルは間合いをとってそれをかわし、銀球を振りまわす。
アリスはさっと槍を引き、銀球に槍が弾かれないようにする。
お互い、ミリ単位の攻防だ。
ただまあ、アリスが時間を稼いでいるうちはだいじょうぶだ。
「ハクカ」
「うん」
ハクカがたまきのところに行った。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶよ、これくらい」
たまきは、ぺっ、と血の混じった砂を吐き出す。
「ラピッド・ヒール」
ハクカがタマキの治療を開始した。
「もう大丈夫よ」
たまきは、ふたたびジェネラルのもとへ駆け寄り、銀剣の一撃を見舞う。
ジェネラルはその攻撃を紙一重で避ける。
しかし、完全ではない。
薄皮一枚、銀剣が切り裂いていた。
ジェネラルの胸もとがわずかに切り裂かれ、青い血の華が咲く。
たまきがジェネラルと切り結んだため、かわりにアリスが数歩、下がる。
「奥から、まだなにか来るわ」
志木さんの声に、ぼくははっとする。
彼女に視線を向ければ、偵察スキル持ちの少女は耳を澄ましたすえ……。
「ほかより、少し足音が軽いわ」
そういった。
オークでもないということか?
エリートやジェネラルは、オークよりだいぶ体格がいいし……。
大盾持ちのアイアン・ゴーレムをふたたび洞窟の前に待機させていた。
アリスがアイアン・ゴーレムの傷をヒールで癒やし、そのそばで敵を待ち構える。
和弘は、ディフレクション・スペルプラスレジスト・エレメンツ:火をかけた。
「魔法、来るわよ」
志木さんが鋭く警告してくる。
直後。
アイアン・ゴーレムを、雷撃が打ちすえた。
「な……っ」
紫色のローブをまとった、小柄なオーク。
「メイジ・オークってところか!」
魔法区分がこっちのスキルと同じなら、風魔法の使い手だ。
いまのはおそらく、風魔法ランク3のライトニング。
となると、一番怖いのは……。
「アリス、スリーピング・ソングに気をつけろ!」
和弘がそう叫んだ次の瞬間、アリスの身体がぐらりと揺れる。
「ストーン・バレット」
アリスの後ろ頭に、ミアの放った石つぶてが勢いよく命中する。
「あいたっ」
頭を押さえ、涙目で振り向き、ミアを見るアリス。
「うう、ミアちゃん……っ」
ミアは平然とした態度で「前、注意」と呟き……。
「ん。ストーン・ブラスト」
石弾の雨が、アリスの脇を通り過ぎて洞窟の奥へ飛んでいく。
なるほど、敵が風魔法の使い手だから、レジスト・ウィンドを使っている可能性が高いと判断したのか。
各属性のランク2には、ぼくの付与魔法、レジスト・エレメンツと同様の効果を持つ魔法が存在するのだ。
ただし防げる属性は、自分の魔法属性のみ。
風魔法のランク2にあるレジスト・ウィンドは、風魔法に対する防御だけしか提供できない。
同様、火魔法のランク2、レジスト・ファイアは火魔法しか防げない。
である以上、土魔法が有効、とミアは考えたのだろう。
その前の、アリスの後ろ頭にランク1の土魔法をぶつけたのは、ドラクエなどで眠った仲間を起こすために同士打ちするような感覚だったのだろう。
相変わらずのゲーム脳だった。
ストーン・バレットをぶつけられたアリスには同情するけど。
さて、ミアの放ったストーン・ブラストは、洞窟のなかに吸い込まれて……。
なにかに衝突した音がする。
低い呻き声のようなものも聞こえてくる。
どうやらこれは有効打であったようだ。
となればここは、一気呵成に攻めるべきだろう。
ぼくは、ジェネラルとたまきの戦いに視線を移す。
ほぼ互角か。
いや、だんだんとたまきが銀球攻撃に慣れ、それに伴ってペースを握りつつあるか。
こちらの補助は、いらないだろう。
「アリス、突撃だ。魔法使いを潰せ」
「はいっ」
「桜さん、茜さん、フォローを!」
「わかりました」
「はい」
アリスが槍を構えて洞窟のなかに突入する。
そのすぐ後ろを、左手に懐中電灯を持った茜が走る。
「こちらも後詰めとしてなかに入るわ。カズくんとミアちゃんはここに残って、たまきちゃんのフォローを」
僕たちは、なかに入った。
ユリコとシオネが、それぞれ火魔法ランク2のゴースト・ランタンを召喚し、光源としていた。
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