ほぼ無傷で第二防衛ラインを突破したぼくたちだったけれど、代償として和弘は、1体のウィンド・エレメンタルを失った。
和弘は新たに1体のウィンド・エレメンタルを呼び出す。
生き残りで傷ついたウィンドエレメンタルは、MPに余裕のあるアリスが治療する。
志木さんが少し偵察し、戻ってくる。
「この先は、密集しすぎているわ。ちから押ししかないみたいね」
「どれくらいの敵がいる」
「アーチャーが八体から十体、ジャイアント・ワスプが六体以上、それと地上には、雑魚のオークが二十体くらい」
かなりの陣容だった。
これは……諦めるべきか?
いや、もうここまで来れば、敵側に襲撃を察知されようがどうしようが関係ない、と考えることもできる。
オーク側の本陣は、間違いなくこの近くにあるのだ。
ならば、ぼくたちが見つかることを恐れず、この先の敵を片端から掃討するべきだろう。
「アリスとたまきを突っ込ませて掃討する作戦でいきたい」
「待って、カズくん。それは危険すぎるわ」
志木さんが慌てる。
「ミアのワールウィンドで竜巻を発生させて、アーチャーの弓矢をある程度封じようと思う」
さきほど使った限りだと、樹上のアーチャーが足もともおぼつかなくなるほどの強風を発生させる。
うまくすれば、それだけで地面に落下させられるだろう。
「そのうえで、アリスとたまきにフライをかけて、突っ込んでもらう。接近さえしてしまえば、アーチャーなんてふたりの敵じゃない」
「それは……そうね。でもまだ、蜂と雑魚オークがいるわ」
「オークの相手は、ぼくの使い魔と桜さんと茜が担当する」
彼女もアリスと同様、生粋の戦士だ。
オークを相手にして、そうそう遅れを取ることはないだろう。
「蜂については、遠隔攻撃担当の志木さんと火魔法のふたりにお任せだな。うまくやって欲しい」
「そう……ね。わたしも含めて、敵が逃げても構わないって態勢で正面からゴリ押しするなら……なんとかならないこともない、か」
「うん。さっき苦戦したのは、あくまで敵を一体も逃さないため、だったからだと思うよ。そんな余裕をかなぐり捨てていけば、充分に勝てるんじゃないかな」
その場合、逃げた敵がさらなる増援を引き連れてくる可能性もあるが……。
森の外側には逃がさないようにして、ひたすら敵の拠点に追い込んでいくなら、まあいいか、という感じだ。
「わかったわ。リスクはあるけど、これは必要経費ね」
しばしののち、志木さんがうなずく。
作戦決定だった。
アーチャーたちの警戒域に、突如として竜巻が巻きあがる。
同時にフレイム・アローがジャイアント・ワスプの一体を焼き、地面に落とす。
だがオークたちは迅速に反応し、敵の襲来を警戒する。
そこに、空を飛んだアリスとたまきが強襲をしかける。
エクステンド・スペルをかけたヘイストの赤い軌跡を残して、ふたりは一直線に樹上のアーチャーへ。
アーチャーたちは弓に矢をつがえてアリスたちに放つも、竜巻がつくり出す強い風に邪魔され、狙いが外れる。
今回、たまきは大盾を置いてきている。
一体でもはやく敵を始末することがなにより重要だからだ。
その大盾は、和弘が背中にかついでいる。
前進する仲間たちを追いかけながら、和弘はよろめく。
振り返った桜が、「持ちましょうか」と声をかけた。
「いや、きみはオークの方に当たってくれ。ぼくは付与魔法をかけたら、あとは指示を出す以外、なにもすることがないから」
そういって和弘は、前方の木々の間から飛び出してくるオークを見る。
桜はその視線に気づき、前を向いて、鉄槍を握る。
「後衛の護衛は、ぼくの使い魔がやる。桜さんは自由に動いて……」
和弘が最後までいう前に、桜は飛びだしていた。
槍一本でオークの群れに飛び込み、片端から血祭りにあげていく。
突進してきたオークたちだが、たちまち混乱をきたす。
続いて、茜も同様にサクラをサポートすべき突撃した。
一方、頭上から飛来するジャイアント・ワスプだが、こちらは火魔法の使い手たちと志木さんが相手にしている。
志木さんの方は、あえて隠密せず、投擲で敵の注意を引きつけることに専念していた。
メインの火力は、フレイム・アローだ。
ジャイアント・ワスプたちが志木さんに気を取られている隙に和弘の背中の大盾のさらに後ろから火の矢が放たれる。
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