白い部屋のなかで、ぼくはノートPCの前に座って、質問を打ち込んだ。
ランク2の召喚魔法で呼び出せるものについて、訊ねた。
「パペット・ゴーレムです」
おっ、と期待に胸が高鳴る。
それはどんなものかと何度か質問した結果、以下のような情報を得ることができた。
・パペット・ゴーレムは、木製の動く人形のような、棍棒を持った使い魔である。身長は百五十センチほど。強さは、二体いてようやくオーク一体と互角といった程度。
一連の質問でわかったことがひとつある。
召喚魔法で呼び出す相手のことは、使い魔と呼ぶということだ。
もっとはやめに確認しておくべきだった。
さっさと確認しておくべきだったことといえば、ほかにもいくつかある。
・魔法の持続時間は、ランク1の付与魔法の場合、二十五分プラスマイナス五分。
ランダムか。最悪の場合に備えて、魔法は二十分でかけなおすべきか。
いや、まてよ?
レベルやランクが上がった場合はどうなのだ?
ぼくは再度、質問を打ちこむ。
以下の事柄が判明した。
・レベルの上昇と魔法の持続時間に相関関係はない。該当する魔法のランクが上昇した場合、持続時間が上昇する。マイティ・アームやフィジカル・アップ、キーン・ウェポンがスキルランク2になったなら、魔法の持続時間は五十分プラスマイナス十分となる。
なるほど、付与魔法のランクをあげた場合、四十分から一時間、持続するということか。これはMP消費を抑える上で極めて重要だ。
ぼくは次に、使い魔について質問する。
・使い魔召喚魔法は、ほかの魔法と違い、消費MPがランクの二乗である。ランク2なら消費MPは4、ランク3なら9、ランク4なら16ということだ。
・使い魔は、基本的に召喚主が送還するか倒されて消えるまで、ずっと持ち主の命令に従う。その間、MPの最大値は減ったままとなる。同時に召喚できる使い魔の数に制限はないが、MPの最大値の減少は累積する。
すごい重要なことだった。カラスを二体とか呼べたのか!
パペット・ゴーレムを二体というのはいいな。
ランク2の召喚魔法は消費MPがカラスの四倍になるものの、両方にキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アームをかけてオークと戦わせれば、一体が相手ならなんとか勝てそうだ。
いや、そんな戦い方じゃ厳しいか……。
レベル1からレベル2に上がるために、ぼくはオークを二体殺した。
これから先も、レベルが上がるごとに、殺さなきゃいけないモンスターの数は増えるのだろう。
なのにスキルポイントは、1レベルにつき2ポイント固定だ。
しかもランクをひとつ上げるためには、次のランクと同じだけのスキルポイントが必要だ。
こちらの戦闘力は、早晩、頭打ちになるということである。
対して、敵はどうなのか。
敵はオークだけなのか。
絶対にそんなことはないだろう。
少なくとも、オークの親玉なんかはいるに違いない。
もっとおそろしいモンスターがいる可能性もある。いや、まず間違いなくいるだろう。
たとえば、ドラゴンとか。
たとえランク3やランク4の召喚魔法があったところで、正面からぶつかった場合、同ランクの剣術や槍術の使い手には、おおきく劣るということだ。
つまり最良の前衛とは、そういった剣術や槍術を持った人間ということ。
そう、人間だ。
「ぼくは、武器ランクを得るべきなのか」
少し考えるが、そういえば少女がいたよな。
いまここで、ぼくがあの少女のアシストをすれば、どうだ。
彼女に竹槍を貸し、付与魔法でブーストして、穴に落ちたオークを突くよう命じる。
彼女が素直に従えば、無事、白い部屋に行くことができるだろう。
そこで彼女が、スキルを得る。
「……まず、彼女と話をしてみよう」
改めて、ぼくはキーボードを叩く。質問をする。
質疑応答の結果、また新しく大切な事実が判明した。
パーティというシステムだ。
「……ますますRPGだなあ」
パーティシステムは、いままで以上にゲーム的だった。
・パーティ・リーダーがパーティを組みたい相手と身体的接触を行ったうえで、パーティを組む、と念じることで、パーティを組める。パーティから外れるときは、単にそう念じればいいらしい。パーティ・リーダーは、好きな相手を追い出すことが可能である。
・パーティの最大人数は六人。世界最初のコンピュータRPGと同じか。
・パーティを組めるのは、レベル1以上の者同士のみ。つまりひとりでオークを最低でも一体は殺さなければ、パーティを組めない。……難易度たけえ。
・パーティを組んだ相手とは、経験値が分割される。厳密に人数割りだそうだ。MMORPGのような経験値ボーナスはないらしい。
・パーティを組んだ相手にしか使えない魔法がある。味方全体に効果のある魔法とかもあるらしい。そのほかスキルごとにパーティを組んだ相手にだけ使えるものがあるとか。よくわからん。あとで個別に確かめるしかないだろう。
・あまり遠くにいる相手とは、経験値の分割が起こらないらしい。その場合、パーティに入っていないものとして処理されるとか。距離については具体的な返答がなかったけれど、百メートル程度なら大丈夫とのこと。
なるほど。このシステムは重要だ。
ぼくは、新たに得たスキルポイント2点を使って、既存のスキルのランクを上昇させる。
ランク1からランク2にスキルランクを上げるためには、2ポイントが必要だ。
つまりいま得たすべてのポイントを、そこに注ぎ込む。
アキ:レベル2 剣術1/付与魔法1/召喚魔法1→2/肉体1 スキルポイント2→0
決定のボタンにカーソルを合わせ、エンターキーを押した。
次の瞬間、ぼくの身体は、森のなかに戻っていた。
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