ケイの転生小説 - ボクは異世界で 43
「和弘がアリスを取り戻したみたいだ」

 アカネは、付与魔法のランクを上げた。
 長月さんは、槍術のランクを上げた。

「そういえば、リード・ランゲージを取らないといけないな」

「ん、忘れてた」

 僕は、トークン100ほど消費して、リード・ランゲージを取った。
 どうやら、対象の魔法ランク1の魔法からどれかひとつをリード・ランゲージにしないと使えないようだ。
 僕は、サモン・ウォータを消した。
 そして、エンターキーを押した。



アキ:レベル19 剣術4/付与魔法5/召喚魔法6(リード・ランゲージ)/肉体4/運動4 スキルポイント4
ミア:レベル17 地魔法5/風魔法5  スキルポイント4
アカネ:レベル12 槍術5/付与魔法2→3  スキルポイント6→3
サクラ:レベル11 槍術4→6/運動1 スキルポイント11→0



 戦場に戻ってすぐ。
 ぼくたちはオークの群れを狩り取るため、動き出す。

 いまオークは、混乱している。
 倒せるだけ、倒すべきだった。

 ぼくはファイア・エレメンタルを二体を前線に出す。
 あっという間に、アカネと長月さんと大のレベルが上がる。



アキ:レベル19 剣術4/付与魔法5/召喚魔法6(リード・ランゲージ)/肉体4/運動4 スキルポイント4
ミア:レベル17 地魔法5/風魔法5  スキルポイント4
アカネ:レベル13 槍術5/付与魔法3→4 スキルポイント5→1
サクラ:レベル12 槍術6/運動1 スキルポイント2



 さらにオークを倒したところで、全員のレベルが上がった。
 僕が、付与魔法のランクをあげた。
 ミアは、風魔法のランクを上げた。
 そして、エンターを押した。



アキ:レベル20 剣術4/付与魔法5→6/召喚魔法6(リード・ランゲージ)/肉体4/運動4 スキルポイント6→0
ミア:レベル18 地魔法5/風魔法5→6  スキルポイント6→0
アカネ:レベル14 槍術5/付与魔法4 スキルポイント3
サクラ:レベル13 槍術6/運動1 スキルポイント4



 ついにオークたちの士気が崩壊する。
 オークたちは、算を乱して逃げ出す。

「和弘たちと合流するぞ」

「ん、合点承知」

 僕たちは、和弘たちと合流するべき動く。
 そして。
 雑魚のオークたちと入れ替わるように、闇に溶けるような黒い肌の巨漢が姿を現す。
 手には銀色に輝く剣。

 ジェネラル・オーク。
 その傍らには、ヘルハウンドが控えている。

 直後、ジェネラルが咆哮する。
 身もすくむような雄たけびを聞いて、しかしぼくたちはいささかもひるまない。

「たまき、ジェネラルとタイマンだ。いけるな。アリス、ヘルハウンドを押さえろ」

「わかったわ、カズさん」

「はい、わかりました」

 ジェネラルとヘルハウンドが突進してくる。
 和弘はアリスに火レジの付与魔法をかける。

 アリスがヘルハウンドに駆け寄る。
 たまきはジェネラルのもとへ。

 アリスはヘルハウンドの炎を浴びても平然としていた。
 鋭い刺突で前足をしたたかに傷つける。
 ヘルハウンドは悲鳴をあげて距離を取ろうとするが、アリスはすぐ間合いを詰め、追撃する。

「はっ」

 長月さんが槍を突き出す。
 腹に槍が突き刺さる。

「長月さん、アキ、ミア」

 和弘たちが驚きの声を上げた。

「事情は、結城先輩から聞いている」

「そうか」

「アリス! 連携するんだ」

「はいっ」

 次第に、アリスたちが優勢になっていく。

 たまきはジェネラルと正面から激突する。
 ジェネラルは、たまきが銀の剣を持つその意味に気づいたのか、不敵に笑って正面から切り結んできた。

 一合ごとに激しい火花が散った。
 それはため息が出るような剣舞。
 互いに裂帛の気合を込めた一撃を叩きつける、意地と意地のぶつかりあい。

 たまきとジェネラル、互いの実力は伯仲しているように見えた。
 次第にジェネラルが押し込まれていく。

 決着がついたのは、ほぼ同時だった。
 アリスの槍の一撃が、ヘルハウンドの喉に深く突き刺さる。
 ジェネラルの胸もとに、たまきの持つ銀の剣が突き刺さる。

 二体は断末魔の叫び声をあげて、地面に倒れ伏す。
 ゆっくりと消えていく。

『魂くらいが発動しました。ジェネラルの魂を喰らい、スキルに変換します』

「勝ったわ、カズさん! わたし、ひとりでジェネラルに勝てたわ!」

「やりました、カズさん! わたしたち、こんなに強くなりました!」

 アリスとたまきが同時に和弘を振り向き、笑う。



 戦いの興奮が冷める。
 ぼくたちは、ふと後ろを振り返る。
 高等部のやつらが、唖然としてぼくたちを見ていた。
 そして、叫び声が響く。

「なんでだよ!」

 不安定なバリケードの前に男が出てくる。
 散弾銃を構えていた。
 そして、声が裏返っている。

「アリス、どうしてそいつの隣にいる! 戻ってこい」

 アリスはゆっくりと首を振る。
 和弘の手をぎゅっと握る。
 反対側の手をたまきが握る。

「嫌です。わたしはカズさんと育芸館のみんなと一緒に戦います」

「いいのかよ、おまえの仲間の腕が……」

「それは……ええと、ニン……」

 アリスが、ちょっと戸惑って和弘を見上げる。
 うん、あれをじかに見てないと、不安になるよな。
 どうやらあいつがミアの腕を奪ったよう人間のようだ。
 こぶしを握る。

「と、とにかく、もう従兄さんには従いません! わたしは中等部に戻ります!」

「ふざけるなよ!おまえはおれのものだ!そんなクズのものじゃない、戻ってこい、アリス!」

「カズさんはクズじゃありません!」

 アリスは叫ぶ。
 和弘の手を握り、胸を張って叫ぶ。

「カズさんがいたから、育芸館は解放できました。中等部で生き残っているのは、もう育芸館のひとたちだけです。それでもカズさんがいたから、三十人近くも生き残れました。カズさんの指揮があったから、エリートを相手にしても楽に勝てるまで強くなりました。ジェネラルだって、なんとか勝ちました。ヘルハウンドも見ての通りです。あなたとの約束通り、ジェネラルも倒しました。全部、カズさんが必死になってくれたからです。カズさん以外の誰もこんなことできません」

 アリスはそういって、一歩、前に出る。
 唖然とする高等部の者たちを見渡す。
 僕は、アリスの和弘賛美に唖然とする。

「あなたがたが、お昼にほかの勢力を潰すことに躍起になっているうちにわたしたちは女子寮にいって、囚われていたひとたちを助け出しました。そのあと百体の襲撃を受けたけど撃退しました。夕方には中等部の本校舎にいって、ジェネラルを倒しました。すべての作戦の指揮をとったのが、カズさんです。そんなカズさんを見下せるひとがいるなら、わたしが相手になります。出てきなさい」

 しん

 と場が静まりかえった。
 誰も言葉を発さなかった。
 荒い息遣いだけが、広場に響く。

 そして、最初に口をひらいたのは……シバだった。

「認めない!」

 シバはそう叫び、散弾銃を和弘に向ける。
 彼はひどく取り乱していた。
 ぼくは呆気にとられる。

「撃ってみろよ」

 和弘が言い切った。
 ぼくは、ミアを見ると和弘に任せると頷かれた。
 そして、和弘が前に出る。
 ファイア・エレメンタルたちも後方に下がらせる。

「いまのぼくに、その散弾銃が効くか、試してみろ。おまえよりはるかにレベルアップしたぼくに効くかどうか、まだちからでぼくを従わせられるかどうか、やってみればいい」

「嘘じゃないぞ! 撃つぞ! 本当に撃つぞ!」

「やれ!」
 
 シバは悲鳴のような声をあげ……。
 引き金にちからを入れる。

「リフレクション」

 銃弾が、和弘の手前に出現した虹色で扇状の薄幕に反射される。
 散弾のすべてが、シバに跳ね返り、彼の身体に突き刺さる。

 シバの身体が吹き飛ぶ。
 バリケードに叩きつけられる。

「こいつ、シバさんに攻撃したぞ! やっちまえ!」

 部下の生徒たちが、一斉に和弘に攻撃してくる。
 投擲、炎の矢、石つぶて。

「トランスポジション」

 召喚魔法ランク6のトランスポジションは、仲間ひとりと自分の位置を入れ替える魔法だ。
 仲間には、使い魔も含まれる。
 有効射程はランクにつき五メートル。

 和弘は、後方に下がったファイア・エレメンタルと位置を入れ替える。
 生徒たちの攻撃は、すべてファイア・エレメンタルに命中する。
 頑丈な炎の精霊にとって、低レベルの生徒の攻撃などカスみたいなものだ。
 平然としている炎の精霊を見て、生徒たちが恐慌状態に陥る。

「アリス。シバを殺すよ。彼は育芸館のひとたちに、じかに危害を加えてきた。彼だけは危険だ」

「はい」

 アリスは冷静にうなずく。

「わたしが、やります」

「いいや、ぼくがやる。アリス、きみは見ているだけでいい」

 シバが、血だらけの身を引きずりながら、逃げようとする。
 その姿が、ふっと消えた。

 偵察スキルのちからだろう。
 面倒な能力だ。
 偵察スキルと射撃スキルを組み合わせたシバのスナイパー・スタイルは、放置するとひどく厄介である。

 和弘は二体のファイア・エレメンタルをディポテーションで送還し、MPをつくる。
 ディポテーションは、召還時に使用したMPの90%を術者に還元する魔法だ。

「サモン・アイアンゴーレム」

 召喚魔法ランク6。
 全長三メートルを超える鋼鉄の巨人が、バリケードに向かう。
 生徒たちの士気が崩壊し、彼らは悲鳴をあげて逃げ出す。

 アイアン・ゴーレムが、地面を強く踏む。

 地面がおおきく揺れる。
 バリケードが崩れ、シバの悲鳴があがる。
 バリケードの周囲の暗がりに隠れていたようだ。

 声の方を向くとシバの姿が見えた。
 散弾銃を持つ手が机に挟まれ、逃げることすらできずじたばたしている。
 彼のまわりには、誰もいない。

 みんな、逃げてしまった。
 ここにいるのはぼくたちと哀れに悲鳴をあげ続けるシバだけだった。

 ひとり置いて行かれたシバに、アイアンゴーレムは、ためらいなく拳を突き出す。
 肉が潰れる音がした。

『魂くらいが発動しました。スキルとスキルポイントを入手しました』