ぼくたちのフォーメーションは、長月さんを先頭とし、少し後ろにぼくとアカネとミアがいる。
さらに長月さんの周囲を2体のファイア・エレメンタルと6体のソルジャーが囲む。
僕たちの護衛に、2体のファイア・エレメンタルと4体のソルジャーが周囲を囲んでいる。
斬り込み役の長月さんが、オークの群れに突撃する。
ファイア・エレメンタルたちは、手にした曲刀を振るってオークたちを倒し、地道に道を切り開く。
ファイア・エレメンタルに近寄るオークたちは、全身を包む炎によって焼かれ、悲鳴をあげる。
この炎、ぼくたちにとっては、まったく熱くない。
これはレジスト・エレメンツ:火をかける前からだ。
どういう仕組みになっているのか気になるところだが……。
ファイア・エレメンタルの炎は、仲間に影響を及ぼさないようなのだ。
MMORPGのフレンドリィ・ファイア設定のようなものかもしれない。
いまのところ自分たちにとって一方的に有利なのだから、まあどうでもいいか。
炎のむさ苦しい男たちに囲まれ、ぼくは前進する。
そして、レベルアップ。
白い部屋へ。
白い部屋では、ぼくとミアと長月さんとアカネがいた。
「アリスのところまで、200mって所か?」
「そうですね」
「しかし、進んでいるような進んでいないようなわからない状況だな」
「オークがたくさんいますから」
倒した端からオークのお替りが来るので、せいぜい10mぐらいしか進めていないのだ。
僕たちでこれなら和弘たちも似たような状況かもしれない。
今回は、全員がレベルアップしたようだ。
奇襲だったから簡単に倒せたけど、奇襲じゃなかったらもっと手間取りそうだ。
僕は、付与魔法のランクを上げた。
ミアは、風魔法のランクをあげた。
サクラとアカネは、槍術を伸ばして、エリート・オークに対抗するようだ。
「一旦、全員集合」
「どうしてですか?」
「ヘルハウンド対策を施そうと思って」
「確かに必要ですね」
エンターを押した。
アキ:レベル17 剣術4/付与魔法4→5/召喚魔法6/肉体4/運動4 スキルポイント5→0
ミア:レベル15 地魔法5/風魔法4→5 スキルポイント5→0
アカネ:レベル9 槍術4→5/付与魔法2 スキルポイント5→0
サクラ:レベル7 槍術1→4/運動1 スキルポイント12→3
白い部屋から戻ると長月さんが戻ってきていた。
「ディフレクション・スペル」
を自分自身にかける。付与魔法ランク5である。効果は、近くのパーティ・メンバーひとりにかける。対象が次に使う魔法の効果範囲を拡大し、それがパーティ単体を対象にする魔法であれば、パーティ全体を対象とするようになる。
「レジスト・エレメンツ:火」
付与魔法ランク4である。指定した属性に対して耐性を得ることができる。
「ディフレクション・スペル、ナイトサイト」
ナイトサイトは、付与魔法ランク5である。効果は、暗視効果を得ることができる。
再度、おなじみの付与魔法をかける。
「マイティ・アーム、フィジカル・アップ、クリア・マインド」
を全員にかけなおす。
長月さん、アカネ、ソルジャーに
「キーン・ウェポン、ブラッド・アトラクション」
をかける。
キーン・ウェポンは、付与魔法ランク1である。効果は、先端を硬くする。
ブラッド・アトラクションは、付与魔法ランク2である。効果は、武器で敵を傷つけると敵の傷に応じて使い手の怪我が消えていく。加えて、与えるダメージそのものも底上げされる。
「スマート・オペレイション」
をミアとファイア・エレメンタルにかける。
再び、進軍が開始された。
背の高いファイア・エレメンタルに、アリスの方角をそのつど教えてもらう。
ついでに、時々飛びあがってもらい、周囲の状況を確認させる。
和弘たちの位置は、僕の左後方にいるらしい。
アリスの位置は右手前方であるという。
そして、まずいことに右手前方からアリスの方角へ、黒い巨大な犬が迫っているという。
ヘルハウンドだ。
「状況が変わった。アリスの元に急ぐ」
「はい」「わかりました」
ぼくたちは、一丸となってオークの海を漕ぎ進む。
長月さんが突進し、できた穴をファイア・エレメンタルが押し広げる。
さしものオークたちも、あまりの損害の多さに足並みを崩す。
ぼくたちが側面から突入したのも効果的だった。
敵軍は期せずして3方向から挟まれる形となったからだ。
そして、待ちかねたものが来る。
第一男子寮の屋上から、派手に花火があがったのだ。
コンビニで買えるロケット花火だった。
だがそれは、異世界の双月の空を裂き、派手な爆発と共にカラフルな火花を散らした。
花火の真下に、ひとりの男がいた。
忍者装束に身を包んだ男が、妙なポーズをつけている。
棒きれのような、バトンのようなものを高々と振り上げている。
きっと、ミアの腕だ。
よし、ありがとう、結城先輩!
花火を新手の魔法とでも思ったか、いっそう慌てるオークたち。
異形のモンスターが逃げまどう。
「アリス!」
和弘の声が響き渡る。
直後、紅蓮の炎がアリス付近で発生した。
紅蓮の炎が終わると、オークの群れから飛び出したたまきが、宙を高く舞う。
空中で、ヘルハウンドと交錯する。
銀の剣が、ヘルハウンドの胴を薙ぎ払う。
「アリスを、カズさんを、傷つけるなっ」
全長三メートルもの巨体を誇るヘルハウンドが、たまきの一撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。
そうとうな深手を負ったのか、よろめきながら立ち上がろうとするが……。
たまきが着地と同時に追撃する。
立ち上がろうとするヘルハウンドの首めがけて、剣を一閃。
銀の軌跡が魔犬の首を刎ねる。
そして……。
レベルアップの音がぼくの耳もとで響き渡る。
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