ケイの転生小説 - ボクは異世界で 34
「・・・・て・・・き・・・お・・・・・・お・・・て・・・・起きて」

 揺り起こされた。
 目をあけると、ハクカの顔があった。

「・・・ハクカ?」

「志木さんが、起こしてきてって」

「志木さんが?どこにいけばいい」

「ロビーに降りてきてくれ、って」

 ぼくは、ハクカのあとをついて部屋を出る。
 前から女の子たちが歩いてくる。
 さっき肩を並べて戦った少女たちだ。

 そのひとりが、挨拶してくる。
 ぼくも挨拶を返す。

「先ほどは、助けてくれてありがとうございます」

 エリート・オークのときに助けた少女にお礼を言われた。

「ああ・・・怪我はなかったよね」

「はい」

 ロビーには、いつの間にか会議室のパイプ椅子とテーブルがいくつも置かれていた。
 一部は荷物置き場になっていて、いろいろなものが詰め込まれたリュックサックが7つ、並んでいる。

 志木さんが、リュックサックの前で腕組みしてぼくを見上げている。
 その横にはたまきとミアの姿もある。

「おはよう」

「おはよう」

 ぼくはバルコニーの階段を下りて、リュックサックのなかをひょいと覗き込む。
 水筒、カロリーメイト、懐中電灯、それに工具箱のようなものが入っていた。
 包帯や薬もある。

「カズ君が来る前に説明するわね。私たちは本校舎に攻めようと思っているわ。目的はとらわれている人の救助よ。異存はないわよね」

「・・・ない」「うん」

「昨日の地震発生してからそろそろ1日ぐらい経つか」

「おそらくギリギリだと思うわ」

「明日救助しようとしたら、生存は期待できないと」

「ええ・・・それとアキ君たちのパーティに何人か入れてほしいわ。意味はわかるわよね」

「・・・・大体、ただそうなると・・・・接近戦ができる人間がほしい」

「それなら、お勧めの子がいるわ。茜ちゃんよ」

 志木さんに紹介されたのは、あの時、殺されそうだった少女であった。

「下山田 茜です。よろしくお願いします」

「・・・ああ。よろしく」

「よろしく」

「これで、ミアを入れれば4人になるのか?」

「そうなるわね。ただ今回に限っては、ミアちゃんはカズ君たちパーティに編成されることになったわ」

「なんで?」

「ミアちゃんが一番、風魔法ランクが高いのよ」

「なるほど・・・それなら次に風魔法ランクが高いのは?」

「女子寮で助けた子ね」

「う〜ん、悩ましいところだ。できれば、今日のところはゆっくりしてほしいからね」

「アキ君たちは校舎の強襲係じゃないのよ」

「・・・?」

「理由は、カズ君が話してくれると思うけど、アキ君たちは別の場所に行って生存者救出してほしいのよ」

「校舎以外にも隠れそうな場所ありますよね」

「確かにあるな。今日中がタイムリミットなら2手に分かれたほうが得策か」

「そうよ」

 志木さんに礼を言うと、上から和弘とアリスが降りてきた。

「志木さんから話は聞いていると思うけど」

 和弘は三人に向かって、宣言する。

「これから本校舎を攻めようと思う」

 アリスたちは、緊張した面持ちでうなずく。



 ぼくを含めた3人全員にフィジカル・アップ、マイティ・アーム、クリア・マインド。
 茜の武器には、キーン・ウェポン、ハード・ウェポンをかけた。

「本校舎の敵戦力を削れるだけ削りたい。それを最優先目標にする。この育芸館に手出しできないような状況をつくるのが、最優先だ」

 僕たちは、ジェネラル・オークの存在に顔を引き締めた。
 加えて、ジェネラルのそばに正体不明の動物のようなものがいることを聞き、難しい顔をした。
 アリスとたまきが顔を見合わせる。

「基本的に、ジェネラル・オークとは戦わない」

 和弘はきっぱりとそう告げた。

「というより、戦う必要がない。これまでの戦いでは、一度もジェネラル・オークが出てこなかった。やつは率先して前に出る性格じゃないと判断していいと思う。ぼくたちとしても、ジェネラル一体だけなら、やりようはある。たとえば落とし穴に誘導するとかね」

「カズさん、ほんと落とし穴好きだよね」

 たまきが呆れる。

「今回の戦闘では、なるべく雑魚オークとエリート・オークの数を削っていくことを目標とする。幸いにして、本校舎のオークは一か所に集結せず、教室ごとにわかれているようだ。これを各個撃破していこう。方法としては……」

「わたしの、サイレント・フィールド」

 ミアがいった。

「そうだ。志木さんから説明があった?」

「ん。でも、カズっち。獣は、鼻がいいかも」

「獣みたいなやつは、ジェネラルと一緒に三階の一番奥の部屋にいる。ならようは、風上に立たなきゃいいんだ。少なくとも二階以下で戦う限り、臭いでバレることはないだろう」

 ミアは、なるほど、とうなずく。

「今回は、ヤバくなったら、すぐに逃げる。どうせぼくたちが育芸館にいることはバレているから、そのあたりは遠慮なくいく。撤退時には、志木さんのパーティのちからを借りる」

 今回の作戦は、生存者の救助とオークたちを倒すことである。
 主力は
 和弘、たまき、アリス、ミアのパーティだそうだ。
 志木さんが三人の少女を率いてバックアップにまわってくれることになっていた。
 彼女たちの任務は、主にふたつ。
 主力パーティが逃げ出す場合のサポートがひとつ。
 そしてもうひとつ、生存者を発見したときに、彼女たちを運び出す役割である。

「で、落とし穴なんだけど……」

 和弘はミアを見た。

「ん。志木先輩に頼まれて、穴、つくった。本校舎から五分くらいの、森のなか」

 ミアのアース・ピットがあれば、危険を冒して敵本拠地のすぐ近くで穴を掘る必要はない。
 魔法でさっと穴をつくり、それを手際よく隠すだけだ。
 セオリーさえ知っていれば、数分で可能であった。

「穴の位置は、わたしがきちんと記憶しているわ。いくつかつくっておいたから、場合によって誘導する」

 志木さんがいった。

「連絡について、だけど……」

 志木さんが、さっと無線機を取りだした。
 電池式で、掌よりおおきな旧式のタイプだ。

「この育芸館の地下倉庫の奥を漁っていた子がね、たまたま見つけたの。ふたつあるから、ひとつはカズくんが持って。もうひとつは、わたしが持つわ」

 なるほど、これならカラスと違って、タイムラグなく通信できる。

「アキ君たちパーティなんだけど、男子寮とかにいってほしいのよ」

 アカネが槍を握りしめていた。

「じゃあ、そういう感じでいこうと思う。なにか質問は」

 質問はなかった。
 ぼくたちは、育芸館を出る。

「アリス、たまき。背中が重いようだったら……」

「戦うときは捨てます。だいじょうぶです」

「そうそう。カズさんはどーんと大船に乗ったつもりで、あたしたちの活躍を見ていればいいさー」

 和弘はサモン・グレイウルフを使う。
 新たに一体の灰色狼が呼び出される。
 狼二体態勢だ。

 話をしている間に全回復したぼくのMPは、最大値550。

 和弘たち四人のあとに、志木さんと三人の女の子がついてくる。
 槍持ちがふたりで、残るひとりは剣を持っている。
 槍を持つうちのひとりは、以前も会話したポニーテールの少女だった。

 って、きみは女子寮で助けた子だよね。
 さっきも少しの間とはいえ見張りをしていたし、体力は大丈夫なんだろうか。

 彼女はぼくの視線に気づくと、「よろしくお願いします」と抑揚のない口調でいった。

「あ、ああ。よろしく」

「どうせ、眠れません。身体の方は治療魔法で治りましたし、少しでもお役に立ちたいです」

「そうか。無理をしていなければ、いい」

「はい。オーク、たくさん殺してくださいね」

「桜ちゃんは、前からこんなかんじよ。ぶっきらぼうだけど、わるい子じゃないわ」

「あー、知り合い、だったのか」

「ううん、桜ちゃんはあたしのこと、知らないんじゃないかな」

 桜と呼ばれた少女は「はい、知りませんでした、先輩」とうなずいた。

「でも有名人なのよ。二年の長月 桜ちゃん。陸上部で、すごく足が速いの。全国大会に出たこともあるんだよ」

 あー、なるほど、いわゆる一芸タイプのひとか。
 そんな彼女にも、脅威は平等に襲ってきた。

「足なら、任せてください。わたし、槍術と運動を上げました。囮、がんばります」

「わかった、頼む」

 彼女は槍術1/運動1か。
 森のなかでは戦いやすいかもしれないな、と思う。
 ぼくは彼女を含むサポートパーティの全員にフィジカル・アップをかけた。
 そして、ぼくたちは本校舎の近くに辿り着く。
 ぼくたちは、巡回のオーク二体を素早く殺す。
 巡回というか、ただ校舎の周囲をうろうろしていただけみたいだけど、とにかくアリスとたまきが瞬殺する。

「気をつけてね」

「そちらもね」

 僕たちパーティはカズたち本体とはなれた。

「それで、どこに行くの?」

「校舎から遠い位置にある場所から順番に回る」

 作戦開始だ。