もとの場所に戻ってすぐ、離れていたミアが駆け寄ってきた。
「よいしょ」
ぼくはミアを肩車する。
ミアはぼくの肩を足場にして、樹の幹をよじのぼる。
運動の苦手そうなミアだが、フィジカル・アップのおかげか、軽快な木登りだった。
ミアは太く丈夫そうな枝に手をかけたところで立ち止まる。
真下のぼくを振りかえる。
「ブルマのおしりより、スカートから覗くパンツの方がよかった?」
「・・・あのね。登ってくれ」
僕は、ミアの問いに赤面しながら答える。
「カズさん、お待たせしました」
「とうちゃーく!」
アリスとたまきが、それぞれ狼とソルジャーを連れて和弘のもとに駆け寄ってくる。作戦通りともいえる、何せ和弘はあるものを入手しようとしていたからだ。
よし、これで準備は整ったな。
ミアが丈夫そうな枝の上に立ち上がり、オークの群れを見下ろす。
「どのあたりに、かける?」
「真ん中あたりがいい」
「ん。アース・ピット。おまけにもひとつ、アースピット」
ミアの穴掘り魔法によって、オーク集団の中心付近の地面が、立て続けに陥没する。
オークたちは、慌てて左右の森に入る。
「ミア、少し待て」
僕は、ミアが登った木の枝までいき、ミアに触れる。
「スマート・オペレイション」
付与魔法ランク2のスマート・オペレイションである。
効果は、魔法の攻撃力をあげる。
「ミア」
「ん、ランペイジ・プラント」
ここで、ミアの地魔法ランク3、ランペイジ・プラントが炸裂する。
オークの周囲の樹木が広範囲に渡り暴れ出した。
樹の枝が鋭い刃物のように尖り、オークの顔を、腹をえぐる。
青い血しぶきが派手に飛ぶ。
舞い散る落ち葉が、手裏剣のようにオークの身体を切り裂く。
「もういっちょ、ランペイジ・プラント」
反対側の森のなかでも、オークの悲鳴があがった。
ランペイジ・プラントは、木々を凶暴な肉食獣のように暴れさせ、周囲すべてに無差別攻撃を放つ魔法だ。
密生した木々のある場所でしか効果を発揮しない、という限定条件を持つかわり、こういった森のなかでは無類の威力を発揮する。
ただし、効果範囲が広いことは別の問題も引き起こす。
仲間まで攻撃されてしまうのだ。
ゲームと違って、フレンドリィ・ファイアはごく普通に起こりうる。
だから、アリスやたまきがこちら側まできたときにしか使えないのである。
しかもこの魔法、取りこぼしが発生してしまう。
木々による攻撃をくぐり抜けた血まみれのオークが、左右あわせて三体、飛び出してきた。
凶暴に怒り狂い、指示を出すぼくを頭と見定めて、襲いかかってくるが……。
「アリス、たまき!」
和弘の護衛にまわっていたふたりが動いた。
槍による鋭い刺突と大斧の一撃が、素早く二体のオークの命を狩り取る。
だが残った一体がなおもぼくに迫り……。
近くの木陰から投擲された槍によって、心臓を串刺しにされ、息絶えた。
「レベルアップ、しちゃったわ」
志木さんが森から出てくる。
「アキくんが狙われていたから、念のため、ね」
「ありがとう」
レベルアップのメッセージが頭のなかで鳴り響く。
白い部屋にて。
ハクカにも状況を説明する。
「・・・レベル上がったのかな」
「ある程度、上がったみたいだけどね」
「そうなんだ。勝てるといいよね」
「場合によっては、僕が足止めをしている間にアリスとタマキがエリート・オークを倒せれば問題ないかな」
「じゃあ、ミアちゃんにかかっているね」
「ん」
僕は、ノートPCを見ながら少し驚いた。
「ん、意外と削れた?」
「すごいね」
「ああ」
大幅にレベルアップしていたのであった。
ちなみにスマート・オペレイションで底上げされた魔法の威力とミアのランペイジ・プラントがうまい具合に機能したからである。
「ミア・・・風魔法をランク2にあげてほしい」
「ん」
僕は、付与魔法のランクをあげた。
ハクカは治療魔法のランクをあげた。
ミアは、風魔法のランクをあげて、エンターを押した。
アキ:レベル13 剣術4/付与魔法3→4/召喚魔法5/肉体4/運動4 スキルポイント7→3
ハクカ:レベル13 治療魔法5→6 スキルポイント11→5
ミア:レベル11 地魔法4/風魔法1→4 スキルポイント11→2
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