翌日。
結婚式が行われた。
田上宮結城と磯垣啓子の挙式は、世界樹の片隅で、僕たち数名を伴っての簡素なものだった。
「志木殿に任せるのが、いちばん確実でござろう」
ルシアやリーンさんの補助の元、この世界流の挙式を簡素なものにして、行った。
「多くの仲間が、いまもあちこちで戦っているでござるからな」
「わたしたちのために、みんなを呼び戻すのもねえ」
「次は、カズ殿たちの番でござるな。なんなら、いまから式を挙げるでござるか」
「いや、おれたちは」
「パパとママたちの、きれいなすがた、みたいです!」
「え、あ、カヤ?」
カヤがきらきらした目で和弘たちを見上げていた。
アリスとタマキが照れていた。
ルシアは、ケーキをもくもくと食べていた。
リーンさんがルシアをほほえましそうに見ていた。
「名案ね。あなたたちもいい加減、少し休むべきだし。1週間くらい、いいでしょう」
「でも、志木さん。ぼくたちは・・・・」
「早くレベルアップして、ミアちゃんのところにたどり着きたい、でしょ。耳にたこができるほど聞いたわ」
「焦ってしまうんだ。もっと戦わなきゃいけないって」
「わかったわ。それじゃ・・・」
志木さんはため息をつき、カヤと頷きあった。
「カヤは、きょうだいが、ほしいです」
「わ、わあっ」
「わっ、わわっ、カヤちゃん何を言っているの!」
アリスとタマキがあわてている。両腕をばたばたとさせている。
「まじめな話をするとね。あなたたち、暴れすぎ。もうあなたたちがエースで切り盛りしなきゃいけない時間はとっくに過ぎてて、育芸館組のトップクラスは派生スキルも伸びてきている。わかっているでしょう」
「それは・・・・・そうだけど」
和弘は、不満そうだった。
「命令よ、カズくん。ちょうどいいから、これから7日間、あなたたちはお休みしなさい。カヤちゃんはその間、わたしたちが借りていくから」
「レンタル、されます」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!それって、どういう」
「要するに4人で楽しみなさいってことだ。それと、和弘とアリス、タマキ。君たちの顔はひどいよ」
和弘たちは顔を見合わせていた。
「気づかなかったの?」
「アリスもタマキも、最近、眠りが浅いなと思ってた」
「当事者じゃ、なかなかわからないものかしらね。ルシア、あなたは気づいていたでしょう」
ルシアは、ケーキから顔を上げ、頬にクリームをつけたまま、頷く。
「はい。しかし同時に、民は現状を深く嘆いていたのです。少なくとも、これまでは。これからは・・・そろそろ、土地解放の戦いもひと段落としてよいのではないでしょうか」
「そうだね。僕たちも世界の脅威がなくなったからペースを減らしていたからね」
「そうですね。それにアキたちが休みをたのしんでいたのは知っています」
「それはよかった」
「カヤも、楽しかったよ」
「そういうわけだから、はい」
「お任せを、シキ」
リーンさんはニコニコしながら、従者に命じて部屋の壁にかけられていた「田上宮家結婚式」の看板を「賀谷家結婚式」にかけ替えた。
「え、ちょっと待って、なんでそんなもの用意しているの。・・・ねえ志木さん、リーンさん。きみたち、僕をはめたな?」
「残念。拙者たちもグルでござるよ」
「ぐるでござるよ」
カヤが大喜びで、目を白黒する和弘たちのまわりを
「ぐるぐるぐる」
と駆け回る。
「カヤまで・・・。うう、娘が反抗期だ」
「いいえ、カヤはパパがだいすきです!いやよいやよも、いやよさん」
「ウェディングドレスは、すみれちゃんたちが用意してくれたわ。こんなこともあろうかと、育芸館の地下にあったサンプルを持ち出しておいたの」
今回、啓子さんは、ウェディングドレスは着ていない。この世界樹の結婚式用である、樹皮絹という魔法繊維を使った薄緑色のローブを纏っている。
「アリスちゃん、タマキちゅん。ウェディングドレス、着てみたかったでしょう」
アリスとタマキは少し戸惑った後、頬を朱に染めて
「は、はい」
と恥ずかしそうにうつむいた。
「そういうわけだから、観念しなさいな」
志木さんは腰に手を当てて、にやりとする。
その後、和弘たちの結婚式が滞りなく行われた。
僕は、結城先輩たちの写真をとった。その中にローブ姿のハクカ・アカネ・カヤの写真が紛れ込んでいたことも記載しておく。新郎役が僕だったけどね。ローブは、ちゃんと購入したものだから問題ない。お金に関しては、世界樹で開業した銭湯があたり、大もうけしたので心配要らない。1日の銭湯の入浴数は避難民を含めて20万人以上にのぼる。
写真は、啓子さんやアリスたちに手渡しておいた。
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