安産祈願のお守りに込められた魔法により生まれた周囲に広がった青白い光。
それによって、和弘とシャ・ラウに迫る粘糸がちからを失い、左右に散ってしまう。
だがレジェンドも、このお守りの効果を見るのは二度目だ、ある程度想定していたのだろう。
上半身が人間で下半身が蜘蛛のモンスターは、すぐにもう片方の手をひらく。
「アクセル」
和弘は意識を加速させる。
レジェンドの伸ばした手から、和弘めがけて鋼糸が噴き出す。
「リフレクション」
和弘はシャ・ラウの毛から手を離し、前方にバリアを張る。
虹色の結界が、レジェンドの鋼糸を弾き返す。
跳ね返った鋼糸は、レジェンドに突き刺さることなく、左右に割れた。
シャ・ラウから手を離した和弘は空中に弾き出される。
シャ・ラウがレジェンドを一時的に戦域から押しだしたことで、戦況は大きく動いている。
まず、援護のなくなったノーライフ・キングが桜とアカネの前後からの刺突によって串刺しとなった。
ほぼ時を同じくして、アリスとたまきがメキシュ・グラウの首を刎ね飛ばす。
結城先輩が残る一体のメキシュ・グラウの剣を持つ腕を撥ね跳ばす。
アリスとたまきが、そのメキシュ・グラウに攻撃を仕掛ける。
桜とアカネと啓子さんは、シャ・ラウがぶっ飛ばしたレジェンドを追った。
シャ・ラウがレジェンドの鋼糸を避け、距離を取る。
「エレクトリック・スタン」
ようやくシャ・ラウを排除したレジェンドにミアの狙い澄ました雷が命中した。
一瞬、その動きが止まる。
そこを見逃すアカネたちではない。
啓子さんが白い剣を振り、衝撃波を飛ばす。
桜がコマンド・ワードを唱え、槍の先から太いビームを発射する。
レジェンドは、その両方を食らって吹き飛ばされる。
最後に残ったメキシュ・グラウとレジェンド・アラクネは、ほぼ同時に討伐された。
メキシュ・グラウを仕留めたのはたまきで、レジェンドの胴体を貫いたのはアカネだった。
「魂くらいが発動しました」
この戦域に攻めてきた神兵級部隊は、こうして全滅したのである。
なお、ノーライフ・キングが変化した宝石の色は、ほかの神兵級と同じ黄色だ。
やっぱりこいつも神兵級なのか……。
で、最後のレジェンドを倒したところで、ぼくたちは、白い部屋へ。
レベルアップしたのは、アリハである。
白い部屋には歌音もいた。
「カノンちゃん」
ハクカたちが驚きの声を上げた。
「実は」
僕が事情を説明したら、全員納得した。
ハクカが早速、音楽スキルについて聞いていた。
二人で音楽スキルを使用してもらった。
いい声だなと聞きほれる。
終いには、アカネやアリハが歌いだし、僕は聞き役に回った。
「あの・・・いいんでしょうか?」
「別にかまわない。あのお守りは役に立ったからね。ありがとう」
「・・・お役に立てて・・・その・・・・」
僕がお礼を言うとカノンが顔を赤くした。
アリハが火魔法のランクを上げた。
カノンが音楽のランクを上げた。
カノンに連れ出され、ハクカとカノンはなにやら話していた。
アキ:レベル44 剣術9/槍術9/射撃4/治療魔法6/風魔法3(メニュー・タンズ)/地魔法3/付与魔法9/召喚魔法9(リード・ランゲージ)/肉体9/運動9/偵察3 スキルポイント123
強化召喚8(使い魔強化8、使い魔維持魔力減少8)
ハクカ:レベル43 治療魔法9/音楽4 スキルポイント37
アカネ:レベル41 槍術9/付与魔法7 スキルポイント9
アリハ:レベル29 風魔法9/火魔法3→4 スキルポイント7→3
カノン:レベル8 音楽1→5 スキルポイント16→1
なんとか、全滅させた。
四体のメキシュ・グラウ、二体のレジェンド・アラクネ、そして隠れていた一体のノーライフ・キング。
普通の兵士たちが相手であれば一体で一軍を壊滅させることができるような神兵級を合計で七体。
見事な戦果であるといえる。
なによりいいのは、こちらの被害がゼロであったということだ。
全員が死なず、経験値を得てより強くなる機会を得た。
こうしてひとつひとつの戦いを乗り越えていくことで、ぼくたちはいっそう、この戦争を有利に展開できるようになる。
事後処理は兵士たちに任せ、ぼくたちはマナ・ストーンだけ拾って、森の転移エリアで待っていてくれたリーンさんのもとへ帰還する。
リーンさんは、ひとつ吉報を持ってきてくれた。
羊皮紙でつくられた本を二冊、和弘に渡してくれる。
「さきほど、他国の者と交渉し、借り受けたものです。とある神殿に保管されていたという、高位の使い魔と専従契約するための儀式が記されています」
「二冊ってことは、使い魔が二体ですか」
「はい。儀式ののち原本は返却するよう求められました」
儀式が終わってしまえば、あとはこの本に用がない。
「儀式についてはこちらである程度、補助をいたしましょう。ですが、まずはカズが本の内容を熟読しなくてはなりません」
「あー、そうですね。またどこかで経験値を稼いで、白い部屋にいったあとかなあ」
「そうなさるのがよろしいでしょう。幸いにして、ほどなくわたくしの使い魔が幽雷湿地の深部に辿りつきますので」
あ、テパトの寺院ってところだっけ。
そこに魔王の手がかりがあるかもしれないって話か。
そりゃもちろん、ぼくたちが行くしかないよなあ。
「ちなみに、この本、どんな使い魔なんですか」
「征龍王カナーグと天亀ナハンとのことです。どちらも有名なおとぎ話がありますので……」
リーンさんは、ルシアをちらりと見た。
ルシアは、任せておけとばかりにうなずく。
「はい、白い部屋で語り聞かせましょう」
「頼む、ルシア」
長い話には、それが一番だよな。
それにしても、ドラゴンと亀か……。
「征龍……なんか禁止になりそう」
「おまえはナニをいってるんだ、ミア」
「なんとなく、ボケなきゃいけない気がした」
いつものように眠そうな目でこっちを見ているこの少女の考えることはよくわからない。
それにしても、ドラゴンを使い魔にできるのか……。
この世界のドラゴンってどんな姿をしているのか知らないけど、夢が広がるなあ。
もう片方が亀ってのは、なんかこう、どう反応していいかわからないんだけど。
「ともあれ、しばしの休憩を」
「そうですね。今回、MPはそれほど使ってませんが……さすがに身体は休めたいです」
MPの消費は少なくても、気力とか体力は使ってるからなあ。
ぼくたちはほかの兵士たちの邪魔にならないよう、いちど木の下に降りて、大木の隅で腰を下ろす。
和弘はサモン・フィーストでお菓子を召喚した。
「うわー、これいいわねー。お菓子大好きよー」
啓子さんがとても喜んでくれた。
ルシアが相変わらず、目の色を変えてケーキに突撃していったけど……うん、見なかったことにしよう。
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