ケイの転生小説 - それは33
「すごい景色だよ」

「うん」

「ああ」

 雄大な森を見下ろす俺たちは、いま魔導飛行船の中にいた。
 スズネの馬車に乗せてもらおうとした時に魔導飛行船が来て、俺達を乗せたのであった。
 俺たちが助けた

「あの時は、助けていただき感謝いたします。船長のコムゾ・フルガです」

「副長のレオポルド・ベギムです」

 共に三十代後半くらいの落ち着いた風の中年男性に挨拶をされた。
 船長達のはからいで、この船の一番豪華な部屋に案内されていたのだ。

「いいのか、これ?」

「ルークお兄さま、費用は王国が出しています」

「そうなんだ」

 運賃は、通常金板一枚。
 政商クラスの大商人か大物貴族しか利用できない超VIPクラス専用の部屋であった。
 室内には豪華な装飾や家具などが配置され、テーブルの上には高価なフルーツなどが籠に盛られている。
 専属のメイドがいて、自由に高級なお茶やお菓子などを頼めるし、専用のワインセラーなどがあって自由に酒を飲む事ができた。
 俺達は、まだ年齢が年齢なのでノンアルコールで過ごしていたが、ブランタークさんは箍が外れたように高価なお酒をガブ飲みしていたのだ。

 良く急性アルコール中毒にならないなと思ってしまったのだが、彼は酒に異常に強いらしい。
 二日酔いの兆候すら見せずに、朝食を美味しそうにお替りまでして食べていた。

「いいか、坊主。船長殿は、船を救った俺達に心から感謝して部屋を変えてくれたんだ。遠慮なんてしたら、かえって失礼に当たるじゃないか」

「さすがに、あのワインセラーの酒を全部飲んでしまったのは……」

「いやあ、高価な酒を堪能したな。一年分くらいは飲み溜めしたな」

 ブランタークさんの本当なのか嘘なのかわからない見解を軽く聞き流す俺たちであったが、確かに船に乗っている間は船長達は俺達を下に置かない丁寧な対応をしてくれたし、今もこうして船を下りる俺達に、わざわざ見送りまでしてくれていた。

「古代竜を討った英雄殿達だからな。多少の飲み食いくらいでは、船長は腹を立てないさ」

 なぜか俺達と行動を共にしているアルテリオさんであったが、彼は王都に本部を置く大規模な商会の当主らしい。
 王宮にも出入り出来るとかで、世間では政商扱いされている人物であった。
 しかも彼は、昔はかなり高名な冒険者で、そのメンバーにはブランタークさんもいたそうなのだ。

「ちなみに、さっきの話に出た老火竜を討伐したのは俺達なんだよ」

「私は、その賞金の分け前で商会を設立したわけです」

 老火竜の討伐には成功したが、アルテリオさんは冒険者としては致命的で治療不可能な傷を負い、それならばと商人として第二の人生をスタートさせていた。

 ちゃんと成功しているので、今となっては負傷も良い思い出なのだと言っているが。

「じゃあ、ブランタークさんはこれが二匹目の竜退治ですか」

「はあ? 何を言っているんだ?」

「でも、ブランタークさんが船を魔法障壁で守り、俺たちがその間に聖の魔法で成仏させたわけですから、これは共同作業でしょう?」

 ブランタークさんが船を守ってくれなければ、古代竜による毒々しい色のブレスによって魔導飛行船は沈んでいたであろう。
 なのでヴェルは、ブランタークさんにも古代竜の骨と魔石の売却代金を半分貰う権利があると主張する。

「今回のケースの場合、坊主どもの聖魔法が無ければ退治なんて不可能だったじゃないか。俺は自分の身を守ったに過ぎない。まあ、エル達も船にいたからな。守り賃として、売却益の十分の一だけ寄越せや」

「ですが……」

「と言うかよ。俺は、坊主が思っている以上に資産家だし、この年でもう大金なんていらねえんだよ」

 若い頃は超一流の冒険者として荒稼ぎをし、引退後は幾つかの貴族家などに仕えていたブランタークさんは、その辺の貴族など相手にもならないほどの資産を持っているらしい。

 なので、今回の褒賞の分け前は半分もいらないと俺に伝えていた。

「それにな。俺は、お館様から仰せつかった仕事で忙しい。その分坊主どもに負担が来るから、まあ迷惑料だと思え」

「迷惑料ですか?」

 俺たちはブランタークさんの言いたい事がわからずに、その場で首を傾げてしまう。

「なんだ坊主らしくもない。わからんのか?」

「魔石の買取が王宮であるのは分かりますが」

「お・・・ルークは、そこまで分かっているわけか。その先が分からんか?」

「その先ですか?」

 顔を見合わせるが誰もが首を傾げた。

「まあ、良い。アルテリオ、少し面倒を見てやってくれないか?」

「報酬は?」

 そこで報酬というところが、さすがは商人というところであろうか。

「そういえば、お前は商人だったな。俺やアルよりも才能がある魔法使いと知己になれたと思って喜べや」

「まあ、ここで恩を売っておくのも悪くないか」

 アルテリオさんは、納得したように一人頷いていた。

「なあ、エル。あの二人は何を言いたいんだ?」

「ヴェルとルークが、とてつもない大金を得られるかもしれない。それと関連しているんだろうが……」

「ねえ、ヴェル。王都でケーキでも驕ってよ」

 俺達が古代竜を討伐してから1日半ほど経つとようやく王都に到着した。

「もう少しすればわかるよ。じゃあ、俺はこれで」

 ブランタークさんは用事があると言って先に船着場から出て行ってしまう。

「スズネ、楽しかったよ」

「はい、私もです。お兄様の結婚式が終われば、私の屋敷に遊びに来てください。せいいっぱいおもてなしをいたします」

「ああ」

 俺達が、スズネと話していると、そこに煌びやかな鎧姿の騎士たちが大勢現れた。
 鎧の豪華さから考えて、騎士たちは相当な高位にある人物だと考えられた。

「陛下よりの言付けにございます。今回の古代竜退治の儀、ご苦労であったと。ついては、今より王城にて謁見を行うと」

「……光栄の極みにございます。すぐにお伺いいたします」

「ご案内いたします」

 王都の門で騎士様の出迎えを受けた俺たちは、迎えに来るはずのアンディ兄さんに会う間もなく、スズネとヴェルとアルテリオさんと共に騎士達が準備をしていた馬車に乗り込んでいたのだ。
 スズネは、俺のことを心配してついてきてくれるようだ。
 アルテリオさんは、ブランタークさんに頼まれてついてきてくれるようだ。
 ハクカ達はアンディ兄さんへの説明役として、騎士様のお付の兵士達と共に門に置き去りにされている。
 どのみち、ハクカ達は俺も含めて宿泊先がアンディ兄さんの家なので、意地でも彼と合流しないといけなかったのだ。

「しかし、ヴェンデリンとルークは凄いな。俺が陛下に初めて謁見したのは、老火竜を倒した四十歳前の事だ」

 俺たちは、迎えの馬車の中でアルテリオさんの説明を聞いていた。

「ましてや、今回は過去の記録にも残っていない古代竜だからな」

 俺たちに同伴しているアルテリオさんの話によると古代竜はそれが存在している事は事実であったが、普段は人が入り込めない魔物のテリトリーの奥にいるので、実際にその姿を見た者はおらず。
 寿命が数万年もあるとの事で、それが老衰で死んだり、死後にアンデットになる事実などを知っている人間は皆無であったようだ。

「じゃあ、どうしてあの骨竜が古代竜であると確認できたんです?」

「あの骨格と魔石の大きさだ」

 骨竜は、軽く見積もっても全長が100メートルを超えていた。
 小型のワイバーン種でも大きくなって全長五メートルほどで、属性種でも最大で三十メートルほどらしい。
 なので、あの骨竜の存在は、古代竜とでも考えないと説明が難しいようであった。

「それでですか。陛下は、そんな珍しい古代竜の骨と魔石を得た俺如きと謁見なされると?」

「如きって、少し卑屈じゃないか?」

「零細貴族の八男に、何を期待しているんです?」

「期待とか、そういう事じゃないんだけどな」

「確か、うちの父上が爵位を継承した際に謁見したのみだと思います」

「俺もそうだな」

 当主変更による叙勲の儀式は、どんなに小身の貴族でも王都で陛下直々に行うのが決まりだ。
 なので、父は陛下と一回顔を合わせているはずであったが、本当にその一回だけというのが現実であった。
 まさか陛下も数居る零細騎士の一人など覚えていないであろうし。
 うちの父にような辺境に住む零細貴族が王都に行く機会は少ないし、一国の王ともなれば色々と忙しい身なので、来たからと言ってそう簡単に謁見など出来ないであろう。

「しかし、お忙しい身の陛下に俺如き小物が良いんですかね?」

「陛下との謁見は、こちらから申請すれば時間がかかる。俺でも、最低一週間待ちだな」

 政商クラスのアルテリオさんでさえ、陛下と謁見するのに一週間もかかるそうだ。

「心配ありません。今回の謁見は、陛下ご自身が望まれたので実現したのですから」

 俺とヴェンデリンとスズネとアルテリオさんを王城まで案内してくれている豪華な鎧を着た騎士が、今回の謁見についての事情を説明し始める。

「ヴェンデリン殿とルーク殿は、伝説クラスの古代竜を倒しました。次に、それによって貴重な国家資産である魔導飛行船を搭乗していた乗客ごと守りました。あの船の乗客には、大身の貴族や商人の方も多いですからね。最後に、その古代竜の骨と巨大な魔石の入手に成功した。陛下は、ヴェンデリン殿とルーク殿に頼みたい事があるそうです」

 陛下の方から用事があるので、俺たちはすぐに謁見可能なようだ。
 説明してくれている身形が非常に良い騎士は、かなり陛下に近しい立場にいるようであった。

「それで、近衛騎士団の中隊長を務めるワーレン殿がじきじきに迎えに来たと」

「(姿格好といい、その隙の無い身のこなしといい。なるほど、偉い人だったんだな)」

「ワーレン殿は、坊主たちと同じような生まれだからな。この地位にいるのは、ただその実力によってなのさ」

 身長百八十センチ超えで、金髪・碧眼・イケメンと絵に描いたような騎士様は、下級法衣貴族家の三男の生まれらしい。
 三男と聞くだけで、なぜか親近感が沸いてくるような気がする。
 この世界では、長男と長男以外で厳密な線引きが成されているのだから。

「良くご存知ですね。アルテリオさん」

「まあな。ワーレンも一応はブランタークの弟子だったからな」

「そうなんですか?」

 ブランタークさんは、思った以上に顔が広いようであった。

「えっ、じゃあ魔法を・・・」

 アティ師匠の指導のおかげで、俺はワーレンさんが普通の人よりは多目の魔力がある事に気が付いていた。
 だが、このくらいの魔力だと精々で一日にファイヤーボールを数発打てば終了になってしまう。
 戦いにおいては切り札の一つにはなるが、決定打にはなりえないほどの魔力とも言えた。

「いえ、私は、魔力があっても貴殿たちのように魔法が使えません」

 正確に言うと魔力で具現化した現象を外部に放出できないというのが正解らしい。
 その代わりに、魔力で己の体や武器を強化して戦う、所謂魔法騎士としての才能で、近衛騎士団の中隊長を務めているとのアルテリオさんからの話であった。
 魔力を身体で強化して戦う剣士や武道家の類は魔力持ちには一定数存在し、その実力は魔力をほとんど持たない者達に比べて圧倒的だ。
 魔力をあまり持たない人間は、いくら訓練をしても量産品の鋳物の剣で大岩を真っ二つにしたり、バラバラに砕いたりは出来ない。
 まあ、そんな普通の人間でも、誰でも持っている少量の魔力を無意識に身体機能の強化に使っているので、前世の一般人に比べると大人と子供ほどの差があるのだが。

「ブランターク様からは、魔力の制御と使用量の節約などを習い、大変にお世話になったのです。あと、私がまだヴェンデリン殿よりも少し年齢が上くらいの時にアルフレッド様と一度だけお会いした事があるのです」

 その時にブランタークさんは、『一応俺の弟子なんだけどな。もう完全に抜かれてしまっているんだ』と笑いながら紹介をしてくれたそうだ。

「その時のアルフレッド様からは、その温和な外見からは想像も出来ない何かを感じました。あれが、超一流の魔法使いなのかと、しかしながら、ヴェンデリン殿やルーク殿からも同じような感覚を私は覚えます。見た目は、まだ世の中の事に興味深々で成長途中の少年たちにしか見えないのに」

「そりゃあそうさ。ヴェンデリンは、単純な魔力量や魔法の最高出力なら、既にアルフレッドすら超えているんだから」

「なるほど、陛下が直接に会いたいと願うわけです」

 港を出た馬車は、王都の町並みを下町、町民街、商業区、工業区、貴族街などの順番に通って行く。
 さすがは一国の首都というだけはあって、その規模と人の多さはブライヒブルクの比ではなかった。

「そろそろ、王城に到着します」

 一時間ほど馬車に揺られ、俺達を乗せた馬車は王城へと到着する。

「大きい……。うちの実家と比べるのは無駄だけど、ブライヒレーダー辺境伯様の館よりも遙かに……」

 お城を見上げなら正面の門に到着するが、ワーレンさんがいたので門番は俺達の身元確認すらしないで通していた。
 城の内部に入ると兵士や騎士や貴族やメイドなどがあちこちを歩いていたり、何か仕事をしていたりと城内は、活気に満ち溢れているようであった。

 ただ、なぜか俺達に注目しているのが気になっていたのだが。

「古代竜討伐の話は、もう王都中に広がっていますからね。しかも、それを成した3人の内の一人がまだ十二歳のヴェンデリン殿とルーク殿なのですから」

 ワーレンさんの言う通りに、気になるので実際に目を凝らして見ている状態なのであろう。
 どこか、上野動物園に居るパンダの気分だ。
 ワーレンさんを先頭に暫く城内を歩いていた俺達であったが、遂に目的地である豪華な扉の前へと到着する。
 この先が、謁見の間のようだ。

「陛下は気さくなお方なので、最低限の礼儀さえ守っていれば問題はありませんよ」

「そのフォローをブランタークから頼まれたんだが、ヴェンデリンなら心配いらないよな」

「ルークお兄様もご心配なさらなくても大丈夫です」

「そうか」

 スズネがそこまで言ったところで目の前の豪華な扉が開き、視界の先には赤い絨毯が敷かれた床や一段高い玉座に座る男性の姿が確認できる。

 そしてその両側には、十数名の警備の騎士達や地位の高そうな貴族の姿も数名確認できていた。

「古代竜を討伐せし、ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター殿とルーク・フォン・ストラトス・ファブレ殿とブランターク・リングスタット殿の代理人のアルテリオ・マーシェン殿とスズネ・フォン・ラングレー様の御成り!」

 昔に映画で見たように、俺達の入場を高らかに読み上げる役人らしき人の声を聞きながら、俺達はワーレンさんの誘導で玉座から三メートルほどの位置にまで接近する。

 するとワーレンさんは横の騎士達が立っている位置へと戻ってしまい、あとは俺とヴェルとスズネとアルテリオさんだけになってしまった。

 緊張で何をして良いのか忘れてしまったが、すぐにスズネとアルテリオさんがひざまづいて頭を下げたので、俺たちもそれを真似して事なきを得る。

「突然の呼び出しで大変であったであろう。頭を上げるが良い」

 陛下にそう言われたので頭を上げると、そこには四十歳前後に見える高貴そうな顔をした美中年の男性が笑みを浮かべていた。

「改めて紹介するが、余がこのヘルムート王国国王、ヘルムート三十七世である」

「ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターと申します」

「ルーク・フォン・ストラトス・ファブレといいます」

「ふむ、改めて見ると本当に若いの。幾つになった?」

「はい、12歳です」

「同じく、12歳です」

 こうして、俺とヴェルと陛下との謁見は始まったのであった。

「本当に若いの。魔法の才能は、年齢に関係ないとはいえ……」

 ひとしきり挨拶が済むと今度は陛下は俺が古代竜を倒した時の話を聞いてくる。
 俺とスズネは、古代竜のブレスから馬車郡を守るために『魔法障壁』で身を守ったのだが、突如、古代竜が魔導飛行船に標的を変えた。魔導飛行船には、友達が乗っていたので、友達を守るために魔導飛行船に行くとヴェンデリンが聖の魔法で古代竜を成仏させようとしていたので、俺もヴェンデリンを援護するべく聖の魔法を放ち、知り合いの魔力補充を受けながら古代竜を退治したと話した。

「魔法障壁、聖光、飛翔。3つの魔法を同時に展開しつつ、友と協力して古代竜に勝つか。なるほど、素晴らしい才能の持ち主たちのようだな」

「左様ですな、陛下」

 そこで、陛下の言葉に賛同する人物がいたが、その七十歳近い男性は豪華に飾り付けられた司祭服を着ていた。
 きっと、教会関係者なのであろう。
 しかも王城に出入り出来る立場なので、教会の本部でもかなりのお偉いさんのはずだ。  

「ホーエンハイム枢機卿もそう思うか?」

「はい。しかも、これほどの『聖光』を発動させられる魔法使いは少ないのでは」

 聖の魔法を使える人は魔法使いと同じだけいるのだが、実は、大半がたいしたことが出来ない人が多いのだ。
 魔法の才能が無くても、教会で聖職者として修行する過程で、己の持つ微小な魔力が聖の属性を帯びる事はそう珍しい事ではない。
 当然、そうなった聖書者はこの世界では存在している悪霊などが近寄らないし、聖の力を付与された魔道具を使えば退治も可能となる。
 ところが、戦術・戦略クラスの聖の魔法を発動させる事が出来るのは、大抵は聖職者でもない魔法使いだ。
 どうしても才能の問題もあるし、別に強力な聖の魔法が使えなくても真面目で清貧な聖職者は世間の支持を受けるし、逆に欲深くて金と権力に執着する聖職者は、やはり世間から冷ややかな目で見られる。
 ただ、それだけの事であったのだ。

「ヴェンデリン殿とルーク殿におかれては、後日に聖教会本部において本洗礼を受けるべきかと」

「本洗礼ですか?」

「ルーク殿とヴェンデリン殿は、まだ若いし南部の生まれ。知らなくても当然ですかな」

 要するに俺たちは田舎者という事らしい。

「本洗礼ですが、生まれたばかりの頃に故郷の教会で行う洗礼とは別に王都の本教会で限られた信徒のみが行える洗礼です。本人が望んでも本教会が許可を出さねば受けられません。王族、貴族、大商人の方々など錚々たる方々が受けておられます」

「大変に名誉なのですね」

 簡単に言うと『セレブ向けの洗礼』と言うのが正しいのであろうか?

「(目的は、寄付金?)」

「(半分正解だ。とはいえ寄付金は重要じゃないのさ)」

 アルテリオさんが、小声で教えてくれたが、要は宗派間の信徒の取りあいらしい。
 有名な人や世間で成功した人など、そういう人間が自分の宗派に所属していれば大きな宣伝効果が得られるのだろう。
 この国の国教にもなっている正教徒派カソリック、古い清貧の教義に立ち返ろうとしている新教派プロテスタント。
 過激な原理主義を打ち出している懐古派、その地方の原始宗教と結び付いた数十はあると思われる自然派各派など神は一人のはずなのに所属している人達で色々と揉めるのは、どこの世界でも同じようであった。
 本当、宗教とは厄介なものだ。

「(一度本洗礼をお受けになれば、他の宗派もおかしな勧誘はかけて来ないとお父様がいっておられたのでお受けしたほうがいいと思います)」

 宗派間の仲は悪いが、暗黙の了解で信徒の強奪行為は禁止されているそうだ。

「(わかりました)王都滞在中に伺わせていただきます」

「同じく」

「ルーク殿とヴェンデリン殿も敬虔な神の子であらせられたか。良かった、良かった」

 俺たちが素直に本洗礼の誘いを受けたので、ホーエンハイム枢機卿は満面の笑みを浮かべていた。

 ただ一つ言えるのは、俺たちが敬虔な神の子ではないという点であろうか?

 向こうも、そこまでは期待していないと思うのだ。

「それとな。余からも、そなたたちに頼みたい事があっての」

「はい、その願いとは何でしょうか?」

「今回、そなたたちが取得した古代竜の骨と魔石を売って欲しいのだよ。実は、あの魔石と骨があれば、場所塞ぎの巨大魔導飛行船が動くのでな」

「巨大な魔導飛行船ですか?」

 陛下の話によると現在稼動している魔導飛行船以外に船体は遺跡から発掘されていても適度な大きさの魔晶石がなくて動けない船がもう何隻か存在しているらしい。

「王都の郊外に古代魔法文明時代に造られた造船所跡の遺跡があっての」

 全長四百メートル超えの超巨大船がドッグ跡で眠っているらしい。

「小さな魔晶石を連結して動かすという案もあったのだがな……」

 極端な燃費の低下に連結部の異常な加熱で、とても危なっかしくて採用できなかったそうだ。
 古代魔法文明時代には当たり前のように普及していた多数の小さな魔石を材料に巨大な魔晶石を作る方法は、今ではとっくに失われてしまっている。
 現在も研究は進んでいるが、まだ目に見える成果は上がっていないそうだ。
 魔力が尽きた魔晶石にそれを補充するのであれば、小さな魔石を沢山使用してもというか魔力の高い人間が複数人で魔力を補充しても結果は同じ。
 だが、材料の魔石よりも大きな魔晶石を作り出す事は、いまだに一度も実験が成功していなかった。
 大きな魔晶石を手に入れたければ、遺跡に眠っている物を発掘するか、属性竜クラスの強力な魔物から巨大魔石を手に入れて加工するしかなかったのだ。

「他にもドックに入っていた船なのでな。色々と部品や装甲などが外されておるのだ」

 複雑な構造だったり、製造に物凄い技術が必要なわけでもないのだが、とにかく強度が必要で、それに最適な材料として古代竜の骨は必要らしい。

「古代竜の骨を加工して、それを足りない部品や装甲として利用すれば、巨大魔道飛行船は安全に稼動するのだ。どうだ? 売ってくれるか?」

 俺とヴェルは顔を見合わせ、お互いに頷く。

「はい、それは勿論です」

 まず、どう考えても断れる情況ではないであろう。
 それに、もしここで断っても誰も買ってはくれないであろうし、それで王国に目を付けられれば実家にも迷惑をかけてしまう。
 あの実家は俺に親切だったわけではないが、決して虐めたり迫害をした事はなかった。
 このまま共に波風を立てないで、俺が独立をすれば良いのだ。
 俺は、古代竜の魔石を謁見の間で出した。

「おおっ・・・これが」

 陛下の驚きの声と貴族たちの視線が一気に魔石に移ったのだ。
 俺とヴェルは、城の中庭に古代竜の骨を出したのだ。

「あれが古代竜の骨か」

「はい」

 中庭では、財務の役人が懸命に評価をしていた。

「それでは、白金貨30万枚で骨と魔石を買おう」

「陛下! いくら何でも出し過ぎです!」

 陛下の隣にいる重臣と思われる黒髪の初老の貴族が買取り金額に異議を唱える。
 どうやら彼は、王国の財務を担当している人物らしい。

「世間では、相場であろう?」

 魔石はともかく骨に関しては2度手に入らない可能性が高い代物であるが、実用性を考えれば相場なのは事実である。

「しかし、予算の方が……」

「あの巨大船の再稼動に計上している予算は、白金貨100万枚だと聞いている。材料費に30万枚。その他諸経費に幾らかかるのかは知らぬが、まさか白金貨70万枚を超えるはずもない。十分に予算の範囲内かの」

 まだ食い下がる財務担当者に対し、陛下は十分に予算内に入っているのだからと自分の考えを曲げないでいた。

「とは申せ、ここで節約がなれば、他の予算不足で遅れている案件や事業が行えるわけでして」

「のう、ルックナー財務卿よ。確かに予算は無限ではない。同じ事をするのに銅貨一枚でも節約できれば、それに越した事はないのかもしれぬ」

「では、陛下」

「しかしな。ここで功績を挙げた者に対してその褒美をケチるような真似をすれば、それはこれから王国のために貢献しようとする者の士気を殺ぐ事となろう。ルックナー財務卿よ、前に属性竜を倒したときに得られた魔石がいくらしたか、忘れたわけではあるまい。スズネよ、答えられるか」

「はい、前に魔石50cmほどのものがオークション価格で白金貨270枚ほどで売却されたと習いました」

「そのとおりよ」

 ルックナー財務卿がスズネの言葉を聞くと渋々受け入れていた。

「ルックナー財務卿、白金貨30万枚で材料は全て手に入れた。稼動にあと幾らかかるかの?」

「はい。材料の加工と機関部への魔晶石の搭載作業。その他部品や装甲の装着作業に試運転と最終艤装などで白金貨4800枚ほどかと」

 さすがは、全長四百メートルの超巨大飛行船。
 再稼動にかかる予算を聞いただけで、眩暈がしてくるようだ。

「節約された白金貨分は、予算の圧縮に成功したルックナー財務卿が、優先したい項目に重点的に割り振るがよい」

「ははっ!」

 この一言で、ルックナー財務卿は二度と反論を口にしなくなってしまう。

「そうそう、素材の売買の件はただの取り引きに過ぎない。もう一つ、余はそなたたちに褒美と名誉も与えなければならぬ」

「褒美と名誉ですか?」

「そうだ。そなたたちが古代竜を浄化しなかったら、その後に起きえたかも知れぬ王都への襲来も未然に防いだのだからな」

「(そうか。そんな大惨事になる可能性もあったのか)」

「そなたたちはドラゴンスレイヤーなのだから。それに相応しい名誉を与えなければなるまい」

 そう陛下が言うのと同時に一人の文官が何かを載せたお盆を持って後ろから現れる。

「アンデッド化した古代竜を討ち、魔導飛行船を守った功績により、ルーク・フォン・ストラトス・ファブレとヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターに双竜勲章を与える」

 謁見の場はいきなり叙勲の場と化し、俺は陛下から双子の竜をあしらった金とエメラルドで出来た勲章を左胸に付けて貰う。
 すると、それと同時に周囲から大きな拍手が起こっていた。
 どうやら、かなり名誉な勲章らしい。
 前世から表彰などには縁が無かったので、全く調べた事が無かったのだ。

「続いて、我、ヘルムート王国国王ヘルムート三十七世は、汝、ルーク・フォン・ストラトス・ファブレとヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターに第8位準男爵位を授ける事とする。さあ、ファブレ卿とバウマイスター卿よ」

「???」

「(ルークお兄様、ヴェンデリン様。叙勲の際の宣誓のお言葉です)」

 突然の事で硬直していると横からスズネが小声で助け舟を出して来る。

「我が剣は、陛下のため、王国のため、民のために振るわれる」

 そういえば、小さい頃に母に聞いた事があったのを今思い出し、それを慌てて口にしていた。
 まさか人生でこの言葉を述べる時が来るとは思っていなかった。

「我が剣は、陛下のため、王国のため、民のために振るわれる」

「さて、これでファブレ卿とバウマイスター卿は王国の臣となった。とはいえ、別にそなたたちを官職などで縛ろうとは思わん。兄の結婚式に参加し、王都の街を堪能し、冒険者の道を自由に歩むが良い」

 立て続けに起こる予想外の事態に、俺はただ流されるだけであったが、とにかく俺たちは大金を手に入れ、勲章と爵位を手に入れたらしい。