ケイの転生小説 - それは107
 このファブレ領に来てから、3ヶ月と2週間が経っていた。
 魔道飛行船も完成していた。
 起動実験は、成功し、後は、テスト飛行を残すのみとなっていた。
 今日も同じ時刻に起床した俺は、屋敷のリビングで朝食を取っていた。
 俺が主人席に座り、両脇に護衛のまとめ役であるリョウと所用で屋敷に来たルパンがいた。
 あとは、リッドやオットさん達も順番に席に座っている。

「今日は未開地に視察に行くんだって?」

「はい、開発特区を前進させる予定です」

 ルパンの問いに、俺は『はい』と答える。
 密約なので誰も口にはしないが、もはやトニーを廃嫡にしてルパンに父の跡を継がせるのは規定路線となっている。
 それに協力する見返りとして、リョウには男爵になれるくらいの未開地の分与することになっていた。土地の開発には、ヘルムート王国の支援があるので、難易度はさほど高くないのだ。
 ヘルムート王国において、男爵領の広さは、大よそ25万k屐瓧毅娃襭蹈轡曠Δ療效呂任△襦4蔽韻妨世┐于ε團譽戰襪旅さである。

「そうか。しかし、中央の連中はおっかないな」

「そういう世界で生きていて、それが常識としか言いようがないです」

「トニー兄貴は、未開地も含めたこの領のトップでいたい。相続したいんだろうな」

「そんな夢物語」

「ルークから搾取すれば、可能だと思ったんだろう。おかげで、あの様だ」

 リョウの言う通りで、現在は、セイによってトニー側の動きは全て筒抜けであった。
 つい三日ほど前も本村落の有力者だけを集めて会合を行っていたそうだ。

「あの会合か……」

「ルパン兄貴は、知っているのか?」

「リョウも噂だけは知っていただろう?」

「知ってはいるけど、あんな事前の談合みたいな会合。他の村落の連中からしたら不愉快でしかない」

「まあ、そう言うな。昔は、十分に役に立っていた会合なんだ」

 ファブレ領の開発が始まったばかりの頃には、本村落を優遇してファブレ家の与党にする策は有効であった。
 こんな他所からの支援など期待できない僻地で、領主家が確固たる支配権を維持できなければ、内乱になれば滅亡しかなかったからだ。

「ただ、今の時代にはそぐわなくなっている。俺も分家の当主になって初めて出席したんだがな。少しでも叶えられれば利益になると。あの連中、無理難題な陳情ばかり垂れ流しやがって」

 会合に出るメンバーの大半が年寄りなのも会合が陳腐化する原因にもなっているそうだ。
 年寄りは、あとは死ぬまで今の本村落優遇の生活が続けば良いと思っている。
 なので、ルパンが提案した三つの村落の待遇に差を付けないという提案は、鼻で笑われてしまったようだ。
 あと、トニーが領主の仕事をかなり代行するようになると、そこに同年代の職人達も加わるようになった。
 ルパンは、新しい世代による改革を期待したらしいが、結果は年寄り連中と大差の無い既得権益への執着と本村落優遇を垂れ流すだけであったそうだ。

「トニーの兄貴からも『青臭い理想論』だと笑われてな。ルークはどう思う?」

「短期的には、現状維持には有効。長期的には、緩やかな衰退への第一歩ですか?」

「だよな。俺もそう思ったんだよ」

 独自に未開地の開発が出来ない以上、将来的にはこの領の人口を増やすのは自殺行為になる。
 となれば、自然と若い人から領を出て行く事になるのだが、もしここで本村落の連中を優遇すると。

「他村落で娘しかいないような家に本村落の領民が扱いに困る次男・三男を強制的に押し込めるとかな」

「それはさすがに断るのでは?」

「ファブレ家が、強制的に命令する可能性がある」

 他にも新規の開墾地を取り上げたりと本村落を優遇するために他村落に犠牲を強いるようになる可能性もあるそうだ。

「さすがに、そこまでは……」

「開墾の費用は、ファブレ家で出しているからな」

「いや、労力は領民が出していますけど……」

 というか、そんな事をして他村落の領民達に愛想を尽かされて出て行かれたら。

 今度は、未開地の開発はどうするつもりなのであろうか?

「だからさ。『未開地を開発して、何代か後には伯爵くらいには』という夢は持っているのさ。具体的な計画については、良くは知らないけど」

「あって、ルークから金を搾り取って資金を貯めておくくらいじゃないかな?」

 ルパンも、リョウも。

 『俺が当主になって、支配権を強固に』、『将来は必ず未開地の開発を行って大領主に』という漠然とした方針しか言わないトニーに呆れているようであった。

 そんな事ならば、その辺の子供にでも言えるのだから。

「それで、良く領民達が付いてきますね」

「付いて来なくなったようよ」

 とそこにセイが姿を見せる。
 どうやらトニーの監視は一休みで、ここに食事を取りに戻って来たようだ。

「ルークに相当支持層を剥ぎ取られたみたい。その三日前の会合なのだけど……」

 職人組は事前に引き抜きが成功して、会合には以前に俺と揉めた鍛冶屋しか出席せず。
 豪農組も出席は半数ほどになってしまったそうだ。

「えっ! それって?」

「私は、ただ『現状において、誰が当主になるのかなんて神様ぐらいしかわからないわよね?でも、それは御上の問題よね? ここは、中立を表明した方が結局は得をすると思います』という風にです」

 このまま劣勢なトニーを無理に応援しても何も良い事は無いのは、本村落の連中でも気が付いている。
 しかし、ここでいきなり裏切るのもどうかと思うわけで、中立だと言って双方どちらにも味方をしなければ、それはこちらに付いたと判断する。

 もしトニーが廃嫡されれば、本村落の区画整理なども始まるだろうな。

「それで会合に行かなくなったら、中立じゃなくて裏切ったと思うでしょう。あの人は」

「それは、あの人がどう考えるかで、私には関与できないわ」

「えげつな」

「そうかしら?でも、もう三ヶ月も経っているから、辺境伯様や中央のお歴々も焦れてきているみたいよ」

 向こうからすれば、一日でも早く開発を始めたいらしい。
 だが、実際に現場で苦労しているのは俺達なので、そんな事は知りませんというのが本音であった。

「ですが、今日でもう終わりでしょう」

「あの……。それは、どういう?」

「会合の後にトニーが外部と人間と接触していたみたい」

「外部のですか?」

 セイの話によると夜に本屋敷裏の森で明らかに外部の人間と接触していたらしい。
 なぜわかるのかと言えば、探知した奴の動きを探ると明らかにプロの冒険者の動きであったからだそうだ。

「それに『瞬間移動』が使えないのにここまで来る外部の人間は、プロの冒険者か商人しかいませんから」

「何のために、あの人と接触したんでしょうかね?」

「何かをするためにでしょう。その証拠は、現在険しい山道なのよね」

 セイが、三日前にその冒険者の身柄を押さえなかったのは、俺の安全が第一なのと既にブライヒレーダー辺境伯に通報されているからのようだ。

「一月以上も険しい山道で疲労したところを出口で捕らえる算段になってるわ。誰の差し金で動いているのかは、想像しやすいわね」

 一度でもトニーとの接触を試みた中央の貴族といえば、間違いなくあの人の弟しかいないわけだ
 もし尻尾を掴めれば、ブライヒレーダー辺境伯はルックナー財務卿に対して大きな貸しを作る事が出来るというわけだ。

「面倒な話ですね。それで、あの人は今日に何か仕掛けてくると?」

「その冒険者が暗殺に手でも貸すのかと思いましたが、そのまま戻りました。可能性があるとすれば……」

 依頼主であろう人が準備した魔道具などを渡したのかもしれないとセイが言う。
 あの人が追い込まれている以上、一発逆転を狙うとなると、そういう物を使うしか手段が無いのだそうだ。

「じゃあ、視察に行くのは危険じゃないですか?」

「その可能性は限りなく低いはずよ」

 非合法な手段で手に入れた魔道具だからと言って、そう簡単に目的を達せる物を入手できるとは限らないからだ。

「入手先は、犯罪者ギルドが運営している裏市場になります。あそこは、ツテのあるそれなりの幹部に大金を積まないとルークを暗殺できるような魔道具なんて手に入りませんから」

 大半は、『もしかしたら物凄い威力のある魔道具の可能性もあるけど、その確率は十分の一くらいかな?』などと言って、本来の相場の十分の一くらいで安く売り付けるような連中が多いそうだ。

 あとは、説明した事とはまるで違う効果が発生したり、相手を呪うつもりが自分が呪われたり、購入者が苦情を言おうにも相手は犯罪者ギルドであるし、警備隊に訴えても、まずは自分が違法な物品を購入した事実を話さないといけないわけだ。

「要するに素人は手を出さないです。少し齧ってもうわかったとか言っている人は大火傷をします」

 その代わりに、ちゃんとしたツテを使って正統な代価を支払えば、表のルートではまず手に入らない品物が入手できる。
 勿論、大金を払う必要はある。
 それが、裏市場という場所なのだそうだ。

「ルックナー弟は、その裏市場にツテがあると?」

「役職付きでも、法衣男爵程度ですから……」

 それに支払う代金の問題もある。
 それなりの物を入手するとなると最低でも五百万セントは必要なのだそうだ。
 セイがなぜそんな事を知っているのかという疑問は、とりあえずは無視する事にする。

「ルックナーさんの弟でも揃えられる程度の魔道具で、ルーク君を殺せる可能性は低いです」

「つまり、視察は餌と言うわけで?」

「そういう事になるわ。視察には私も付いて行くわ、それに助っ人も……」

 セイがそう言うのと同時に屋敷の外から何か隕石でも落下して来たような音が聞こえる。
 慌てて全員で外の様子を見に行くと屋敷の前の空き地にはあの人物が涼しい顔で立っていた。

「導師?」

「導師様はともかく、その横! 横!」

 リョウが、驚愕するのも無理は無い。
 何しろ、着地した導師の脇には、哀れにも首を一撃でへし折られた飛竜の姿があったのだ。
 一部の山道を除いて、山脈は飛竜やワイバーンの住みかになっている。
 多分導師は、王宮にいる『瞬間移動』が可能な魔導師からブライヒブルクまで送って貰い、そこから山脈上空を高速飛翔で突破して来たのでろう。

 横の哀れな飛竜は、導師の飛行経路を妨害して討たれてしまったものだと推察される。

「久々の長距離高速飛翔で心地良かったのであるが、視界をその飛竜に邪魔されたので撃破したのみ! 暫し厄介になるので、お土産代わりに受け取けとるが良いのである!」

 首だけへし折られた飛竜なので、導師の宿泊費には多過ぎるほどの成果であった。

「なあ、ルーク……」

「王宮筆頭魔導師であるアームストロング子爵殿です」

「王宮の魔導師って、こんなに強いんだ……」

 ルパン兄さんが驚くのも無理は無い。 
 山脈に多数生息する飛竜やワイバーンは、かの地の生態系のトップに君臨する存在である。
 当然、ファブレ領の領民達は竜に対して無力な存在であり、山脈に近付く事すらしなかった。
 例外は、商隊が通る山道のみである。
 初代ファブレ家当主がこの地に移民して数年後、『討伐して素材を売れば、領の懐が潤うのではないか?』と領内の男手十名ほどと山脈に入ったそうだが、結果は言うまでもなく、初代を含めて三名しか戻って来なかったらしい。

 以後、誰も飛竜を狩って金を稼ごうなどという輩は現れなかったそうだ。

「おおっ、ファブレ男爵の兄君殿であるか! 某もそれなりに強いとは自負しておるが。この程度の飛竜であれば、ここには複数名倒せる者がおる故に!」

「えっと……。それって……」

 俺、ミュウ、リッド、ユメイ、ユリア、アクア、セイ

 ユリア、キャロルもワイバーンの1匹くらいは倒せるはずであった。

「トニーの兄貴、どうやって一発逆転を狙うんだ?」

「さあ? その魔道具とやらが、物凄い物かもしれませんし」

「いや、トニーの兄貴のコネと財力じゃ絶対に手に入らないから!」

 何にせよ、このままだと状況に変化もなく。
 視察の名目で、俺達は未開地にトニーを誘う作戦を実行する事になる。



「ところで、朝飯がまだなのである!」

「早速準備しますね」

 導師も加わり、まずトニーの一発逆転の策が成功する事はないはず。
 安心して視察に行けるという物であった。

「導師様、良く食べる」

「うむっ!」

 給仕のために朝食が遅かったヴィルマが大量に食べるのを見て、

「お代わりである!」

「お代わり」

 二人によって、とんでもない量の御飯やらパンやら肉や野菜が一気に無くなってしまう。

「勝ち」

「ふぬぉあーーー! 次こそは!」

 そして、いつの間にか始まっていた導師とヴィルマとの大食い競争であったが、結果はヴィルマの勝ちであり、その事で導師が子供のように悔しがるのであった。

 というか、普通の人が英雄症候群の人に食事量で対抗すること自体が無謀でしかないのであったが、導師は学習していないようだ。