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「……」

「そうであろうな。これまで、我がファブレ騎士爵家の人間で魔法使いになれた者は一人もいなかった。私もそうだし、去年亡くなった父もそうだった。別に気落ちする必要ないぞ」

「はい」

 子供の頃。
 父に言われて書斎にある水晶玉で魔力の有無を調べたことを思い出したが、結果は予想どおりで『魔力はナシ』だった。
 正確には魔力がまったくない人間というものは存在しないらしいが、魔法が使えなければ、そんなものがあろうとなかろうと同じことであろう。

 だが俺は、このファブレ騎士爵家の跡継ぎだ。
 別に魔法など使えなくても……。
 俺の弟たちも子供の頃に魔力の有無を調べていたが、一人も魔法使いはいなかった。

 誰かしら一人でも魔法使いがいれば、家臣としてこの領地に残れる……いや!

 このような田舎の小さな領地では、それが御家騒動の火種になってしまう。
 そのせいで俺が廃嫡されたり、殺されでもしたら堪ったものではない。
 当主死亡で長らく空位になっている従士長を復活させるべく、分家に婿入りさせるニコ以外は領地を出て行ってもらうしかないのだ。

 可哀想な気もするが、俺だって廃嫡などされたくないし、全員を残す余裕もない。
 俺は長男に生まれてよかったなと思いつつ、父と共に開墾作業の指揮で汗を流していた。

「マリオ、お前の妻の件だがな」

「父上、決まったのですか?」

 俺も30歳となり、これほど結婚が遅い貴族家の跡取りは珍しいのだが、天地の森の出兵の件がなければ5年前に結婚していたのだ。その交渉にしても往復で数ヵ月かかる手紙でやり取りしなければならない。
 俺も28歳となり、これほど結婚が遅い貴族家の跡取りは珍しいのだが、天地の森の出兵の件がなければ6年前に結婚していたのだ。その交渉にしても往復で数ヵ月かかる手紙でやり取りしなければならない。

 実にまどろっこしいが、現状ではそれを解決する手段はなかった。

「ランスター家の次女ティアナ。彼女が最有力候補だ。ほぼ決まりだと思うが、はてさて次の商隊はちゃんと手紙を持ってくるかな」

 リーグ大山脈を超えないと到着しないファブレ騎士爵領に手紙を送る際には、年に三回しか来ない商隊がブライヒブルクを出発する前に渡さなければならない。

 それに間に合わないと次の商隊ということになり、半年以上も時間をロスしてしまうのだ。

「なんともまどろっこしいものですね」

「仕方があるまい。魔法が使えぬ我らは、リーグ大山脈を飛び越えるわけにいかないのだから」

 確かに父の言うとおりだ。
 それでも俺は、このファブレ騎士爵家の次の当主だ。
 実家を出る弟たちよりは……ローランは賢いからな。
 あいつなら外の世界でも上手くやれそうな気がする。

「ニコが従士長となり、次の当主であるお前を支える。これでしばらくは落ち着くかな」

 先年の出兵で受けた大損害の回復には時間がかかるだろうが、うちは元々戦争とは縁がない貴族だった。
 だから兄弟の中でもっとも体が大きく、腕っ節に優れたニコが領主になる必要がないのだ。
 あいつは、従士長として俺の命令を聞いていればいい。

「お前の妻を迎え入れるとなるとかなりの金がかかる。名主として領地に残る異母弟のダスティン以外には支度金が必要だな。幸い、ブライヒレーダー辺境伯が詫び金として多額のお金を払ってくれたから、お金の心配は無用だ」

「確かに詫び金で借金が全て返済できましたが、わが家がブライヒレーダー辺境伯家のために汚名を被る必要性がありましたか」

「・・・南部の元締めにして大貴族、統治の問題もあるのであろう」

 父のいうことも間違ってはいないのであろう。

「話はこれで終わりだ。マリオは開墾作業の指揮を執ってくれ。私もしばらくしたら現場に向かうから」

「わかりました」

 父がいる執務室を出て外に向かう途中、普段ほとんど誰も利用していない書斎の前を通るとドアが少し開いていた。
 そっと中を覗くとクリスの膝上に座りながらまだ四歳の弟のルークが一生懸命本を読んでいた。

「(熱心なことだ。ルークはローランに似ているな)」

 容姿がではなく、本を好み、それに集中している点がだ。

 将来は家を出なければいけないので、今から勉強をしているのか?

 いや、わずか四歳の子だ。
 本を見て時間を潰しているだけだろう。

「(そのうち、水晶玉を用いて魔力の有無を調べることになるだろうが、その時には幼い頃の俺と同じく、魔力がなくてガッカリするだろうな)」

 俺は跡継ぎだから安泰だが、もうこれ以上は子供はいらないのに父と母もいい年をして酷いことをする。

「(今の俺にできることは、せいぜいルークが外の世界で上手くやっていけるように祈ることくらいだ)おっと、開墾の指揮を執らなければ」

 俺は、ずっと本に集中し続けるルークを再度一瞥してから、屋敷を出て開墾作業を行っている現場まで急ぎ向かうのであった。
 とにかく、心から長男に生まれてよかったとしか言いようがない。
 弟たちにはただ同情するのみだ。



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