様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「どうしてこの6人なんでしょうか?」

「うむ、今回の魔物は少し厄介なのでな」

「魔物ですか? 俺は未成年ですよ」

「一応魔物に属するのであるが、この『桃色カバさん』は、魔物の領域に住んでいないため、バウマイスター男爵がその対処に参加しても問題ないのである!」

「でも魔物……」

「些末な問題なのである!」

「俺は些末な問題じゃねえよ」

「ブランターク殿は、バウマイスター男爵とファブレ男爵のお目付け役なのである!」

「クソッ! 上手く利用しやがって……」

「ははっ! 帰りに一杯奢るのである!」

「本当に奢れよな、導師」

 陛下からの命令で、王都で冒険者見習い修行を開始してから3週間。
 今日は、いつもの厳しいアームストロング導師との特訓もなく、どういうわけか、王都郊外にある森にまでつき合わされてしまった。
 メンバーは、強制徴集されたブランタークさんとエルとリッドとヴェルと俺と導師で合計6人。

 なぜか俺たちはまだ未成年なのに、魔物と関わる仕事につき合わされていたのだ。

「『桃色カバさん』かよ。俺、帰ってもいいか? 一杯はいいや」

 ブランタークさんほどの元ベテラン冒険者でも、この『桃色カバさん』の相手は御免被るらしい。

 名前からして、ファンシーな感じのカバという印象しか受けないのだが、もしかするともの凄い必殺技でも持っているのであろうか?

 地球でも、カバは猛獣だと聞くからな。

 というか、なぜ正式名称に『さん』が付いているのであろうか?

 激しく、命名者に問い質したい気分であった。

「冒険者ギルドの面々はすべて断ったゆえに、某たちにお鉢が回ってきたのである」

 どうしてそんな厄介そうな依頼を冒険者見習いにやらせるのか?

 俺の考えを見透かしたかのように、アームストロング導師は説明を始める。

「討伐依頼ではないのである。これは保護依頼なのである!」

「保護ですか?」

 さらに、導師の説明は続く。
 この『桃色カバさん』という魔物は、魔物の領域ではなく普通の森の中にある綺麗な泉に住んでいるそうだ。
 大きさはポニー程度で、色はその名のとおり全身ピンク色。
 雌しか存在せず、単体で卵を産んで繁殖する。
 寿命は竜に匹敵するという記録もあり、とにかくもの凄く長生きなのだそうだ。
 当然それに比例して、滅多に卵を産まない。
 生息数も非常に少なく、現在王国では保護動物に指定されているそうだ。

「保護動物ですか? 保護魔物ではなくて?」

「別にどちらでも構わねえよ。厄介なのには違いねえ」

 まさか、この世界で動物保護の概念があるとは思わなかった。
 しかも、その保護が厄介な仕事とは、ブランタークさんほどの人が嫌がるなんて、よほど面倒なのであろう。

「卵の殻が、大変貴重な魔法薬の材料になるのである!」

「魔法薬ですか?」

「不能治療の特効薬なのである!」

 そのため、王侯貴族はこぞって『桃色カバさん』を確保もとい、保護しているのだそうだ。
 気持ちよく卵を産んでもらい、孵化後にその殻を譲ってもらうためである。

「今回、我らが保護する予定の個体が、予定よりも早く卵を産んでしまったのである」

「産卵後かよ。大丈夫か?」

「危険なんですか?」

「唯一、危険なタイミングだな」

 『桃色カバさん』は、普段はとても大人しい魔物なのだそうだ。
 魔物のカテゴリーには入れられているものの猪なんかよりもよっぽど大人しく。
 森にある綺麗な泉で、その近場に生える草のみを食べる。
 危害を加えられなければ、決して向こうから襲ってくることはない。
 ただ、産卵後には卵を守ろうとして凶暴になるのだそうだ。

「凶暴っても、別に突進とかしてこないんだよ」

「威嚇するくらいですか?」

「そのくらいなら、誰も依頼を断らねえよ」

 ヒントは、卵の殻が不能治療薬になるという部分であった。

「『桃色カバさん』は、自分や卵に害を為そうとする敵に特殊な魔法……術……とにかくよくわからんものを使うんだ」

 催眠術と幻術を組み合わせたような、一種の精神攻撃を仕かけてくるらしい。

「精神攻撃ですか?」

「これが、どんな魔法使いにも防げなくてなぁ……防げた奴の話はまず聞かないな」

 その結果、桃色カバさんに関わった人たちに極めて悲惨な結果をもたらすため、今回に限っては、女性陣の参加をご遠慮願ったそうだ。

「男なら、別に被害に遭ってもいいと?」

「そう言うなよ。もしかしたら、坊主は魔法で防げるかもしれないかなって、淡い期待があってな。なにしろ坊主は、アル以上の魔力量を持つ魔法使いなんだから」

「左様、某も以前に魔法の防御に失敗し、色々と大変な目に遭ったのである! できれば参加したくはなかった! だがここに、アルフレッドの弟子である少年がいる! 某はそれに賭けたのである!」

「……(なんか、もの凄く嫌な予感がする……)」

「魔力量だったら導師もアルフレッドさんを超えませんか?」

「ルークの坊主、導師に期待するなよ」

「某は、不器用である」

「・・・所で、依頼料はいくらなんですか?」

「高名な魔法使いに対しての強制依頼しかも保護であるため、1人1日、白金貨100枚である」

「白金貨100枚か・・・・高いな」

「不能という子孫繁栄の危機ゆえ、不能薬の特効薬の値段は、白金貨1000枚ほどである」

「そちらも高いですね」

「確実性と希少性の双方がついた値段である」

 目標の『桃色カバさん』は、その森の奥にある泉の傍にいた。
 集めた草で巣を作り、そこで卵を守っていたのだ。

「保護って、別の場所に連れて行くんですか?」

「左様、王国が準備した特別保護区へと連れて行くのである。さあ……」

 だがそこで、厳つい筋肉巨人アームストロング導師が前に出てしまったのがよくなかった。

 卵を奪われると思ったのか?

 『桃色カバさん』は、卵を俺たちから隠すように前に出てから、こちらをその小さな目で見つめ始める。

「あれ? 威嚇もなし?」

 だがそれは、俺の認識不足であった。
 『桃色カバさん』の視線は動かないままなのに、どういうわけか次第にこちらの方が無意識に、その小さな目に視線を合わせようとしてしまうのだ。

「視線を外せない……。まずいぞ、これは……」

 どうやら俺たちは、桃色カバさんの罠にはまってしまったらしい。
 どうやっても桃色カバさんから視線を反らすことができず、今度は次第に頭がボンヤリとしてきて、ついには視界の端から桃色の霧が漂ってくる様子が見えるようになってしまった。

「ヴェル、この桃色の霧って……」

「実際に出ているわけじゃないな」

 俺たちがそう見えているだけ。
 つまりこれは、精神攻撃の一種であった。

「やっぱり、坊主たちでも駄目か!」

 事前に、『睡眠』などを防ぐ『防御』を発動させていたにも関わらず、それらはまったく効果がないことが証明された。
 次第に、俺たちの体の自由が奪われていく。

「くっ、体が動かない!」

「仕方がないのである! ここは覚悟を決め、少しでもマシな結末を迎えるよう、ただ神の寛容を祈るのである!」

「そんな言い方があるか!」

「(導師、神様信じてないじゃん……)」

 ブランタークさんが導師に文句を言っている間にも、次第に視界を染める桃色の霧の量が増えていき、さらに意識が遠のいていく。
 ついに俺たちは、その場で立ったまま気を失ってしまうのであった。



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