様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「アームストロング男爵、ブランターク、バウマイスター準男爵、ファブレ準男爵の4名。共に、グレードグランドの討伐任務ご苦労であった」

 グレードグランドを倒してから10日後。
 つまり、パルケニア草原から王都に戻った翌日。
 その任務に参加した俺たちは、再び陛下に呼び出されていた。

「そなたたちのおかげで、古代竜襲撃の際に難民になった国民と各地方のスラムの住民がパルケニア草原で、働けるようになった。パルケニア草原は有望な穀倉地帯となるであろう」

 陛下はとてもご機嫌なようだ。
 長年好条件にも関わらず、老土竜グレードグランドに邪魔されて開発が不可能であった土地が、ようやく開発可能になるのだから、加えて、現在も残存している魔物の討伐は順調に進んでいるからである。

 やはり、パルケニア草原を支配していたグレードグランドの力は偉大であったようだ。
 それを亡くした魔物たちは集団で動けず、兵士や冒険者たちに狩られていると報告が入っていた。
 死傷者が二百名ほど出ているようだが、これは仕方がないことかもしれない。
 命の取り合いをしているのに犠牲者がゼロだなんてあり得ないのだから。

「犠牲になった者たちには、遺族への補償を厚くする予定だ。偽善ではあると思うが、しないよりはマシであろう」

「陛下のご温情にこのアームストロング、感服いたしました」

 確かに偽善だが、やはりしないよりはマシであろう。
 それに、兵士や冒険者とはそういう仕事なのだ。
 特に冒険者は、年に数十万人を超える犠牲者が出るという。
 他に食べられる仕事がないわけでもないので、命をチップに金と名誉を求めて失敗したからと言って、後で文句を言うのは筋違いというものであろう。

 冒険者でも、己の技量を冷静に判断して今回の作戦に参加していない者も多くいたのだ。
 それに、この規模の出兵の割には被害者は少ない方である。
 陛下が教会に命じて、治癒魔法の使い手をできるだけ従軍させたからだ。
 聖の治癒魔法の使える聖職者、教会が普段から把握している在野の聖と水の治癒魔法の使い手。
 両系統の治癒魔法の使い手たちを教会はその強大なコネを用いて大量に召集し、従軍させていた。
 それもそのはずで、パルケニア草原の開発が進めば、そこには多くの教会が建設される。
 設置された教会や教区の分だけポストは増えるわけで、表向きは陛下からの命令だからということになっているが、実際には揉み手で依頼を受けていたわけだ。

 現場の人たちは真面目に負傷者の治療をしていたのだけど、教会のお偉いさんたちにはそういう思惑もあったというのはどこの世界でも一緒であった。

「4人に双竜勲章を与えるものとする」

 ここ二百年以上も誰も貰っていなかったのに、俺たちが久しぶりに貰い、またそれから半月もしないでもう一個貰ってしまった。
 勲章は金とエメラルドでできていてとても綺麗なのだけど、あまりありがたみがないような気がするのは、俺の感覚が麻痺しているせいかもしれない。

 実際、アームストロング導師とブランタークさんは、珍しく緊張した面持ちで陛下から勲章を着けてもらっていたのだ。

「あとは爵位かの。アームストロングは子爵、バウマイスター準男爵とファブレ準男爵を男爵に陞爵させるものとする」

 アームストロング導師は、伯爵家の次男である。
 次男なので爵位は継げないのだが、王宮筆頭魔導師なので独自に男爵の爵位を陛下から与えられていた。
 俺と同じく領地はなくて年金だけなのだが、爵位が子爵に上がり、俺とヴェルも準男爵から男爵に上がっていた。
 法衣子爵の年金は白金貨二枚で、法衣男爵は白金貨一枚、法衣準男爵は金板3枚。

 なかなかの高収入である。

 役なしの法衣貴族である俺たちとは違い、普通の王都在住の役ありの法衣貴族は、その家格に合う屋敷の維持に防犯なども兼ねた相応の私兵や使用人を雇い、他にも様々な付き合いがある。

 寄親であると寄子への支援なども時には必要であるし、ローラン兄さんの結婚式の時のように、冠婚葬祭で家格に相応しいご祝儀を出す必要もあった。

 出て行くお金も相応に増えるということなのだ。
 なるほど、大物貴族でも普段は意外とケチだと言っていたローラン兄さんの発言にも納得してしまう。
 あと、普通は名誉だけの勲章の類であったが、実は双竜勲章だけは別物だそうだ。
 ここ二百年以上も貰った人がいなかったので、担当の役人が説明するのを忘れてしまうほどであったが、双竜勲章には生涯名誉年金が付与されているのだそうだ。

 その額は、年に白金貨三枚。

 俺は二つ持っているので、年に白金貨六枚だそうだ。

「光栄の極みです」

「竜の素材に比べれば、ささやかなものだがの」

 二回の竜討伐による素材の販売益に比べると微々たる金額に見えるが、そもそも属性竜以上の竜など、五十年に一度討伐されればいい方だそうだ。

 滅多に、あのような大金が動くことなどないのが普通であった。

「ブランタークは本人の希望もあり、別の褒美をブライヒレーダー辺境伯に預けるものとする」

「願いを聞き届けていただき、ありがとうございます」

 ブランタークさんはブライヒレーダー辺境伯家の家臣で、今回の従軍も陛下がブライヒレーダー辺境伯に命令した形になっている。
 そのため、いくら陛下でも勝手に爵位を与えるわけにはいかないらしい。
 本人もそんなものはいらないと言ったので、その代わりに宝石や財宝などをブライヒレーダー辺境伯経由で貰うようであった。
 さすがにそれすらなしでは、陛下がろくに功績すら認めないと噂になってしまうからであろう。

 あとは双竜勲章であったが、さすがに勲章の類を陪臣だからと言って与えないという事実はないようだ。
 ブランタークさんも普通に貰っている。
 このように、直臣の家臣と陪臣の違いが色々とあるようだ。

「此度は、若き才能が見出せて余は満足である。これからも精進して王国に尽くしてくれると嬉しい。期待しておるぞ、バウマイスター男爵、ファブレ男爵」

「「はっ」」

 そんな期待よりも早く平穏な夏休みをすごさせて欲しい。
 俺は陛下に対して頭を下げながら、切にそう願うのであった。



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