様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「はあ……。疲れた……」

 夕方。
 ローラン兄さんの結婚披露パーティーは無事に終わった。
 花嫁さんも含めて、ローラン兄さんは役場の同僚や友人たちから暖かい祝福を受けていた。
 俺達とエルたちもそれに混じって楽しい時間をすごせた。

「そうだな」

 ローラン兄さんの結婚式に婚約者になったリアと分家のハクカが隣にいてくれたおかげで、ヴェルのようにならずにすんだのだ。
 ちなみにヴェルは、多くの参加者達に囲まれ、苦労しているようだ。最もあんまりしつこい参加者たちはモンジェラ子爵やトガーさんに排除されていた。

 俺の両隣は、リアとハクカ、正面は、ミュウとイザベル、後方は、リッドで固まり対応した。
 婚約者でもある公爵家のご令嬢と分家が隣にいるのに側室を勧める招待客は、存在しなかった。
 俺に話しかけようとした招待客は、ラングレー公爵家のメイドや執事に丁寧に追い出されていた。
 俺は、リアに感謝したのだ。

『ルークさん、ごさんかしてください』

『ああ・・・分かった』

 ラングレー公爵家で婚約パーティをするので参加するようにお願いされたのだ。
 パーティーは無事に終わり、俺はザフト家が用意した客室のベッドの上でリッドと話していた。
 ローラン兄さんの計らいで、王都滞在中はこの部屋に泊まれることになっていて、俺とリッド、ハクカとミュウとイザベルで2つ部屋が割り当てられていた。

 来客用の部屋があるという時点で、ザフト騎士爵家とファブレ騎士爵家は、同じ騎士爵家でもまるで違うな。 

「しかし、ルークもこれから大変だな」

「王都から離れれば……」

 突然ドアがノックされたので開けると、そこには正装から着替えたローラン兄さんとハクカとミュウとイザベルともう1人女性がいた。
 腰下まで伸ばした青い髪、水色の瞳、濃青のローブを纏っている柔らかそうな巨乳の美少女がミュウに手をつながれていた。

「ルーク、紹介したい人がいるんだ」

 ローラン兄さんが言ってきた。

「初めまして、ファブレ準男爵。ミュウの姉のセイといいます」

 セイさんが自己紹介をしつつ頭を下げた。

「ルーク・フォン・ファブレです」

「ルーク様」

「ルークと呼び捨てで構いません」

「分かりました。ルーク君と呼んで構いませんか」

「ええ」

「私がザフト騎士家に訪れたのは、ブライヒレーダー辺境伯にある事をお願いされたのです」

「だから僕が案内をしているのさ」

 ザフト騎士家の次期当主なので、ローラン兄さんが失礼がないように案内してくれたようだ。

「実は、ルーク君をめぐって争いが起きます」

「俺をですか?」

「はい、誰が寄親になるかです」

 寄親と寄子。
 あまりに多すぎて王国だけでは管理が面倒な騎士爵と準男爵を中央と地方の上級貴族たちに管理させる。
 王国側のこのような思惑もあって、この制度は王国の成立直後から続いていた。
 俺の実家であるファブレ騎士爵家の寄親は、ブロワ辺境伯家である。
 本来なら、王国南部を取り纏めているのがブライヒレーダー辺境伯家なのが普通なのだが、天地の森の件の対応でファブレ騎士家に無理をさせすぎたため王国東部を取り纏めているブロワ辺境伯に鞍替えしたという理由が大きいが、普通領地持ち貴族たちは近場にいる大物貴族を頼るし、中央の法衣貴族たちも世襲している役職などで纏まるのが普通だ。

 実際、ローラン兄さんが婿入りしたザフト騎士爵家も代々財務関係の仕事に就くことが多く、寄親はルックナー財務卿の腹心であるモンジェラ子爵というわけだ。

「でも変ね。ルークの寄親なら、ブロワ辺境伯様に優先権がないかしら?」

「普通に考えるとそうなのよね。でも、そう考えない人たちがいるのよ。しかも、その考え方が間違っているわけでもないのよ」

 俺はブロワ辺境伯の寄子であるファブレ騎士爵家の出で、今は冒険者を目指してブライヒレーダー辺境伯領内にある予備校に通っている。

 卒業後は、ブライヒレーダー辺境伯領内を含む南部が活動エリアになるであろうし、となれば、俺を寄子にする権利はブライヒレーダー辺境伯家にあると考えるのが普通だ。

「ルーク君が誰の寄子になっても陛下はなにも言わないわね。万が一の時には、王家の方が優先権があるのよ」

 寄親の命令よりは、主君である王家の命令。
 まあ当然であろう。

「じゃあ、ブライヒレーダー辺境伯様が寄親で決まりなのでは?」

「ところが、そういうわけでもないのよ」

 まず、俺が領地を持たない法衣貴族扱いなのが問題らしい。

「ルーク君のように、過去にも功績を挙げて同じような形で叙勲された例は多いのよ」

 功績が大きいから、貴族にして年金とそれを子孫に継承させる権利を与えた。
 だが領地はないし、なにかの役職に任命されたわけでもない。
 年に一度は年金を王都に貰いに行く必要があるが、あとは基本的になにをしていても自由。
 俺のような立場の貴族は、実は結構な数存在しているらしい。

「領地があれば、その地方で顔役になっている貴族の影響下からは逃れらないので、自然と選択肢は縮まるのよ」

「でも、その選択肢が狭まらないと?」

「僕の立場で言わせてもらうと、できればルックナー侯爵の寄子になってほしいかな?」

「あれ? モンジェラ子爵なのでは?」

「モンジェラ子爵の寄親が、ルックナー侯爵なんだよね」

「なるほど」

「それで、ルーク君は、誰の寄子になるの?」

「現状で、ブライヒレーダー辺境伯家しか選択肢がないんですけど」

「それはそうね」

 今の俺は、ブライヒブルクにあるブライヒレーダー辺境伯家が経営している冒険者予備校で特待生をしているのだ。
 卒業後、しばくはブライヒブルク周辺を活動拠点とする予定なので、ここで他の貴族の寄子になる意味がなかった。

「ローラン兄さんには悪いんですけど……」

 俺は、ルックナー侯爵の寄子にはなれないことを伝える。

「別に気にする必要はないよ。もしそうなればラッキー程度にしか、ルックナー侯爵も思っていないだろうし」

 いくら中央で財務卿を世襲するルックナー侯爵家とはいえ、南部のまとめ役であるブライヒレーダー辺境伯家を敵に回すような愚は冒さないはず。

 それに俺は、自分の寄子であるローラン兄さんの実弟なのだ。
 もう十分に縁は繋げているので、これ以上欲をかいても意味がないと思っている可能性が高いんだろうな。

「本当、貴族の習性ってお腹一杯になるなぁ……」

「もう数千年も飯のタネにしているからね。僕も、その入り口につま先で立っていた程度なんだけど。ルークに押されて、少し奥に入り込んだかな?」

 新しいザフト騎士爵家の次期当主であるローラン兄さんは、ルックナー侯爵の寄子の寄子という小物な立場にあるのだが、今回の件でルックナー侯爵の印象に大きく残った。
 無事にローラン兄さんとミリアリア義姉さんは結婚し、明後日以降は普通に夏休みを満喫しようと俺は固く決意したのであった。 



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