「しかし、ヴェンデリンとルークは凄いな。俺が陛下に初めて謁見したのは、老火竜を倒した四十歳前のことだ」
「あの、俺たちはなにに気をつければ? こういうのは初めてでして……」
「そうだなぁ」
「とくにきをつけることはないとおもいます」
「そうなのか?」
「はい」
魔導飛行船専用の港で騎士たちの出迎えを受けた俺たちは、迎えに来るはずのローラン兄さんに会う間もなく、付き添いのアルテリオさんとリアと共に騎士たちが準備をしていた馬車に乗り込んでいた。
なお、肝心なブランタークさんは用事があるので先に港を出ていたし、ハクカたちはローラン兄さんへの説明役として、騎士のお付きの兵士たちと共に港に置き去りにされている。
「今回は過去の記録にも残っていない古代竜だからな」
俺たちに同伴しているアルテリオさんの話によると古代竜はそれが存在しているのは事実であったが、普段は人が入り込めない魔物の領域の奥にいるので、実際にその姿を見た者はいないそうだ。
寿命が数万年もあるとのことで、それが老衰で死んだり、死後にアンデッドになる事実などを知っている人間は皆無であった。
「じゃあ、どうしてあの骨竜が古代竜であると確認できたんです?」
「あの骨格と魔石の大きさだ」
骨竜は、軽く見積もっても全長が100メートルを超えていた。
小型のワイバーン種でも大きくなって全長五メートルほどで、属性種でも最大で三十メートルほどらしい。
なのであの骨竜は、古代竜でなければ説明できないことが多すぎるそうだ。
「それでですか。陛下は、そんな珍しい古代竜の骨と魔石を得た俺たち如きと謁見なされると?」
「如きって、少し卑屈じゃないか?」
「零細貴族の八男に、なにを期待しているんです?」
「期待とか、そういうことじゃないんだけどなぁ」
「確か、うちの父上が爵位を継承した際に謁見したのみだと思います」
「俺もそうだな」
当主変更による叙勲の儀式は、どんなに小身の貴族でも王都で陛下直々に行うのが決まりだ。
なので、父は陛下と最低一回は顔を合わせているはずだが、間違いなくその一回だけというのが現実であった。
まさか陛下も多数いる騎士の一人などイチイチ覚えていないであろう。
うちの父にような辺境に住む貴族が王都に出向く機会は少ない。
一国の王ともなれば色々と忙しい身なので、やって来たからと言って、そう簡単に謁見などできないであろう。
「しかし、お忙しい身の陛下に俺たち如き小物が良いんですかね?」
「陛下との謁見は、こちらから申請すれば時間がかかる。俺でも、最低一週間待ちだな」
政商クラスのアルテリオさんでさえ、陛下と謁見するのに一週間もかかるようだ。
「心配ありません。今回の謁見は、陛下ご自身が望まれたので実現したのですから」
俺とヴェルとリオとアルテリオさんを王城まで案内してくれている豪華な鎧を着た騎士が、今回の謁見についての事情を説明し始める。
「ヴェンデリン殿とルーク殿は、伝説クラスの古代竜を倒しました。次に、それによって貴重な国家資産である魔導飛行船を搭乗していた乗客たちごと守りました。あの船の乗客には、大身の貴族や商人の方も多いですからね。最後に、その古代竜の骨と巨大な魔石の入手に成功した。陛下は、ヴェンデリン殿とルーク殿に頼みたいことがあるそうです」
陛下の方から用事があるので、俺たちはすぐに謁見可能なようだ。
説明してくれている身形が非常に良い騎士は、かなり陛下に近しい立場にいるようであった。
「それで、近衛騎士団の中隊長を務めるワーレン殿がじきじきに迎えに来たと」
「(姿格好といい、その隙の無い身のこなしといい。なるほど、偉い人だったんだな)」
「ワーレン殿は、坊主たちと同じような生まれだからな。この地位にいるのは、ただその実力によってなのさ」
身長百八十センチ超えで、金髪・碧眼・美形と絵に描いたような騎士様は、下級法衣貴族家の三男の生まれらしい。
三男と聞くだけで、なぜか親近感が沸いてくるような気がする。
この世界では、長男と長男以外で厳密な線引きがなされているのだ。
「よくご存知ですね。アルテリオさん」
「まあな。ワーレン殿も一応はブランタークの弟子だし」
「そうなんですか?」
ブランタークさんは、思った以上に顔が広いようであった。
「私は、魔法が使えない魔力持ちですから」
俺はワーレンさんの魔力が900ぐらいあることに気が付いた。
だがこのくらいの魔力だと、一日に『ファイヤーボール』を数発打てば魔力切れになってしまう。
戦いにおいては切り札の一つにはなるが、決定打にはなりえないほどの魔力とも言えた。
「ワーレン殿は、魔法を使えないのさ」
正確に言うと、魔力で具現化した現象を外部に放出できないというのが正解らしい。
その代わり、魔力で己の体や武器を強化して戦う、所謂魔法騎士としての才能で、近衛騎士団の中隊長を務めているとのアルテリオさんからの話であった。
魔力を身体で強化して戦う剣士や武道家の類は魔力持ちには一定数存在し、その実力は魔力をほとんど持たない者たちに比べて圧倒的だ。
魔力をあまり持たない人間は、いくら訓練をしても量産品の鋳物の剣で大岩を真っ二つにしたり、バラバラに砕いたりは出来ない。
そんな普通の人間でも、誰でも持っている少量の魔力を無意識に身体機能の強化に使っているので、前世の一般人に比べると大人と子供ほどの差があるのだ。
「ブランターク殿からは、魔力制御を習い、大変にお世話になったのです」
なるほど。
「私がまだヴェンデリン殿やルーク殿よりも少し年齢が上くらいの時にアルフレッド殿と一度だけお会いしたことがあるのです」
その時にブランタークさんは、『一応俺の弟子なんだけどな。もう完全に抜かれてしまっているんだ』と笑いながら紹介をしてくれたそうだ。
「その時のアルフレッド殿からは、その温和な外見からは想像も出来ないなにかを感じました。あれが、超一流の魔法使いなのかと。しかしながら、ヴェンデリン殿やルーク殿からも同じような感覚を私は感じます。見た目は、まだ世の中のことに興味深々で、成長途中の少年にしか見えないというのに……」
「それはそうでしょう。ヴェンデリンは単純な魔力量なら、すでにアルフレッド殿すら超えているのだから」
きっと、ブランタークさんから話を聞いていたのであろう。
「なるほど、陛下が直接に会いたいと願うわけです」
港を出た馬車は、王都の町並みを下町、町民街、商業区、工業区、貴族街の順番で通って行く。
さすがは一国の首都というだけあって、その広さと人の多さはブライヒブルクの比ではなかった。
「そろそろ王城に到着します」
一時間ほど馬車に揺られ、俺たちを乗せた馬車は王城へと到着する。
次
「あの、俺たちはなにに気をつければ? こういうのは初めてでして……」
「そうだなぁ」
「とくにきをつけることはないとおもいます」
「そうなのか?」
「はい」
魔導飛行船専用の港で騎士たちの出迎えを受けた俺たちは、迎えに来るはずのローラン兄さんに会う間もなく、付き添いのアルテリオさんとリアと共に騎士たちが準備をしていた馬車に乗り込んでいた。
なお、肝心なブランタークさんは用事があるので先に港を出ていたし、ハクカたちはローラン兄さんへの説明役として、騎士のお付きの兵士たちと共に港に置き去りにされている。
「今回は過去の記録にも残っていない古代竜だからな」
俺たちに同伴しているアルテリオさんの話によると古代竜はそれが存在しているのは事実であったが、普段は人が入り込めない魔物の領域の奥にいるので、実際にその姿を見た者はいないそうだ。
寿命が数万年もあるとのことで、それが老衰で死んだり、死後にアンデッドになる事実などを知っている人間は皆無であった。
「じゃあ、どうしてあの骨竜が古代竜であると確認できたんです?」
「あの骨格と魔石の大きさだ」
骨竜は、軽く見積もっても全長が100メートルを超えていた。
小型のワイバーン種でも大きくなって全長五メートルほどで、属性種でも最大で三十メートルほどらしい。
なのであの骨竜は、古代竜でなければ説明できないことが多すぎるそうだ。
「それでですか。陛下は、そんな珍しい古代竜の骨と魔石を得た俺たち如きと謁見なされると?」
「如きって、少し卑屈じゃないか?」
「零細貴族の八男に、なにを期待しているんです?」
「期待とか、そういうことじゃないんだけどなぁ」
「確か、うちの父上が爵位を継承した際に謁見したのみだと思います」
「俺もそうだな」
当主変更による叙勲の儀式は、どんなに小身の貴族でも王都で陛下直々に行うのが決まりだ。
なので、父は陛下と最低一回は顔を合わせているはずだが、間違いなくその一回だけというのが現実であった。
まさか陛下も多数いる騎士の一人などイチイチ覚えていないであろう。
うちの父にような辺境に住む貴族が王都に出向く機会は少ない。
一国の王ともなれば色々と忙しい身なので、やって来たからと言って、そう簡単に謁見などできないであろう。
「しかし、お忙しい身の陛下に俺たち如き小物が良いんですかね?」
「陛下との謁見は、こちらから申請すれば時間がかかる。俺でも、最低一週間待ちだな」
政商クラスのアルテリオさんでさえ、陛下と謁見するのに一週間もかかるようだ。
「心配ありません。今回の謁見は、陛下ご自身が望まれたので実現したのですから」
俺とヴェルとリオとアルテリオさんを王城まで案内してくれている豪華な鎧を着た騎士が、今回の謁見についての事情を説明し始める。
「ヴェンデリン殿とルーク殿は、伝説クラスの古代竜を倒しました。次に、それによって貴重な国家資産である魔導飛行船を搭乗していた乗客たちごと守りました。あの船の乗客には、大身の貴族や商人の方も多いですからね。最後に、その古代竜の骨と巨大な魔石の入手に成功した。陛下は、ヴェンデリン殿とルーク殿に頼みたいことがあるそうです」
陛下の方から用事があるので、俺たちはすぐに謁見可能なようだ。
説明してくれている身形が非常に良い騎士は、かなり陛下に近しい立場にいるようであった。
「それで、近衛騎士団の中隊長を務めるワーレン殿がじきじきに迎えに来たと」
「(姿格好といい、その隙の無い身のこなしといい。なるほど、偉い人だったんだな)」
「ワーレン殿は、坊主たちと同じような生まれだからな。この地位にいるのは、ただその実力によってなのさ」
身長百八十センチ超えで、金髪・碧眼・美形と絵に描いたような騎士様は、下級法衣貴族家の三男の生まれらしい。
三男と聞くだけで、なぜか親近感が沸いてくるような気がする。
この世界では、長男と長男以外で厳密な線引きがなされているのだ。
「よくご存知ですね。アルテリオさん」
「まあな。ワーレン殿も一応はブランタークの弟子だし」
「そうなんですか?」
ブランタークさんは、思った以上に顔が広いようであった。
「私は、魔法が使えない魔力持ちですから」
俺はワーレンさんの魔力が900ぐらいあることに気が付いた。
だがこのくらいの魔力だと、一日に『ファイヤーボール』を数発打てば魔力切れになってしまう。
戦いにおいては切り札の一つにはなるが、決定打にはなりえないほどの魔力とも言えた。
「ワーレン殿は、魔法を使えないのさ」
正確に言うと、魔力で具現化した現象を外部に放出できないというのが正解らしい。
その代わり、魔力で己の体や武器を強化して戦う、所謂魔法騎士としての才能で、近衛騎士団の中隊長を務めているとのアルテリオさんからの話であった。
魔力を身体で強化して戦う剣士や武道家の類は魔力持ちには一定数存在し、その実力は魔力をほとんど持たない者たちに比べて圧倒的だ。
魔力をあまり持たない人間は、いくら訓練をしても量産品の鋳物の剣で大岩を真っ二つにしたり、バラバラに砕いたりは出来ない。
そんな普通の人間でも、誰でも持っている少量の魔力を無意識に身体機能の強化に使っているので、前世の一般人に比べると大人と子供ほどの差があるのだ。
「ブランターク殿からは、魔力制御を習い、大変にお世話になったのです」
なるほど。
「私がまだヴェンデリン殿やルーク殿よりも少し年齢が上くらいの時にアルフレッド殿と一度だけお会いしたことがあるのです」
その時にブランタークさんは、『一応俺の弟子なんだけどな。もう完全に抜かれてしまっているんだ』と笑いながら紹介をしてくれたそうだ。
「その時のアルフレッド殿からは、その温和な外見からは想像も出来ないなにかを感じました。あれが、超一流の魔法使いなのかと。しかしながら、ヴェンデリン殿やルーク殿からも同じような感覚を私は感じます。見た目は、まだ世の中のことに興味深々で、成長途中の少年にしか見えないというのに……」
「それはそうでしょう。ヴェンデリンは単純な魔力量なら、すでにアルフレッド殿すら超えているのだから」
きっと、ブランタークさんから話を聞いていたのであろう。
「なるほど、陛下が直接に会いたいと願うわけです」
港を出た馬車は、王都の町並みを下町、町民街、商業区、工業区、貴族街の順番で通って行く。
さすがは一国の首都というだけあって、その広さと人の多さはブライヒブルクの比ではなかった。
「そろそろ王城に到着します」
一時間ほど馬車に揺られ、俺たちを乗せた馬車は王城へと到着する。
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