領内には、このような平原や森がまだ多数存在している。
魔物は住んでいないが、熊や狼などの凶暴な野生動物がいるので、女子供はもちろん、力のある男でも一人では狩猟・採集には行かない方がいいとされているほど危険だった。
だが父が陣頭指揮を執って人手を集めれば、農地や居住地の開発はそう難しいことではないはずだ。
「五年前の出兵は、亡くなった先々代のブライヒレーダー辺境伯に脅迫された節があるんだよ」
「脅迫ですか?」
「ファブレ騎士領の村をブライヒレーダー辺境伯軍が包囲していたんだよ」
「それは・・・・」
「その状態で出兵するように命令したのだよ。もし断れば・・・・」
「村を包囲して全滅させるですか」
「・・・向こうは、大貴族だから、下級貴族家を潰す位は造作もないだろうね」
「理由なく出来るんですか?」
「今から6年前に中央で領地を持っていた下級貴族家が大貴族に潰されたことがあったんだよ。下級貴族家に落ち度はなく、大貴族が政敵の力を落とさせるために行ったことがあるんだ」
「お咎めがなかったんですか」
「うん・・・そのとおりだよ。ブライヒレーダー辺境伯の目的は」
怪我や病気を治す魔法薬の原料である薬草や動植物の素材であるとローラン兄さんは説明する。
魔物の領域内で取れる薬草。
それらは基本的に、地球で生薬の原料であったものと見た目的にはさして違いはない。
使用するとすぐに傷が塞がったり、病気が治ったり、果ては死人を生き返らせたりする魔法薬の材料となる点を除けばだ。
これらの材料の多くは魔物の領域で採取されるが、手に入れるには大きな危険が伴うので非常に高価であった。
「それに加えて、魔法薬作りの才能がある魔法使いが、その技術と魔力を注ぎ込んで手間ひまかけて作るからとても高価なんだよ。たとえ非常に高価でも実際に効果があるから欲しい人は沢山いる。材料はあればあるだけお金になるわけさ。天地の森には、ほぼ誰も入ったこともないからね。たとえ入り口近くでも、貴重な薬草や採集物が残っているはず。ブライヒレーダー辺境伯領内かその周辺にある魔物の領域は、すでに大半の場所に冒険者が足を踏み入れている。先々代のブライヒレーダー辺境伯様がお気に召すものがなかったのかもしれないね。それで天地の森を狙った」
乱獲に注意していても、すでに冒険者が足を踏み入れた場所より、まだ人が入ったことがない天地の森に期待したのか。
魔法薬の材料になる薬草の成長には、通常の薬草の何倍もの時間がかかる。
いくらブライヒレーダー辺境伯が乱獲を禁止しても、魔物の領域の中で冒険者たちがちゃんとルールを守っているのかなど、確認のしようがないのだから。
「それで大いに魔物たちを刺激してしまった挙句死んでしまったんだから、先々代ブライヒレーダー辺境伯もヘタを打ったよね。父はまだマシなのかも」
ローラン兄さんとしては、内心では先々代故ブライヒレーダー辺境伯に文句でも言いたいのであろう。
彼の我が侭に付き合った結果、ファブレ騎士爵家は、壊滅手前まで行ってしまい、ローラン兄さんはこの家を出る時期が大幅に遅れてしまったのだから。
そのせいで僕たちは、結婚パーティーのご馳走の材料を狩らされているというのもあった。
「今日は無事に終わったけど、あと三日間は狩りをしないと必要な量に到達しないから、根を詰めるのはよくないね」
「そうですね。はいどうぞ」
僕は、ローラン兄さんとハクカに差し出した。
「ルーク、それは?」
「途中でザクロを見つけました。甘い物は疲れにいいから」
「それはありがたい。冷たくて美味しいね」
「ハクカも食べていいよ」
「うん・・・おいしい」
ハクカの笑みに少しだけ見惚れた。
僕は採取して魔法で冷やしておいたザクロをハクカとローラン兄さんに渡した。
「これは美味しい。井戸水で冷やすと時間がかかるからね。魔法は便利でいいなぁ」
僕もローラン兄さんとハクカはオヤツの時間を楽しんでから、3人で獲物を載せたリアカーモドキを引きながら屋敷へと戻るのであった。僕たち3人で、猟師と同レベルまで獲物をとったのだ。
それから3日間、僕とハクカは、狩猟に精を出すことになったのだ。
そして五日後。
長い山脈越えののち、ようやくファブレ騎士爵領に到着したマリオのお嫁さんとその護衛一行が到着したのだ。
屋敷の前では、トールとアンとマリオがおり、マリオのお嫁さんと付き添いの女性が前に出た。
胸下まで伸ばしたオレンジ色の髪、黄色の瞳をした女性が右足を左足の後ろに引き、スカートを少し持ち上げたまま
「初めまして、ランスター騎士家の次女のティアナ・フォン・ランスターと申します。今年で15になります。よろしくお願いします」
ペコリ
と頭を下げて、挨拶をした。
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。当主のトール・フォン・ストラトス・ファブレです。こちらが長男のマリオです」
我がファブレ家も自己紹介をしていた。
「随分小さい弟さんがいらっしゃるのね」
「初めまして、ルークです」
「よろしくね、ルーク君」
ティアナさんが手を差し出してきた。
「はい、よろしくお願いします」
僕もティアナさんの手を握り握手をした。
「早速だか、式の日取りを決める」
「あ、はい」
マリオが挨拶を終わったのを見るとすぐさまティアナさんを促した。
僕もティアナさんから離れる。
後継者争いになるからマリオやティアナさんとも距離を置いたほうがいいかな。
僕は、森で採取をすることにした。
それを心配そうにティアナさんが見ていたのに気づかなかった。
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魔物は住んでいないが、熊や狼などの凶暴な野生動物がいるので、女子供はもちろん、力のある男でも一人では狩猟・採集には行かない方がいいとされているほど危険だった。
だが父が陣頭指揮を執って人手を集めれば、農地や居住地の開発はそう難しいことではないはずだ。
「五年前の出兵は、亡くなった先々代のブライヒレーダー辺境伯に脅迫された節があるんだよ」
「脅迫ですか?」
「ファブレ騎士領の村をブライヒレーダー辺境伯軍が包囲していたんだよ」
「それは・・・・」
「その状態で出兵するように命令したのだよ。もし断れば・・・・」
「村を包囲して全滅させるですか」
「・・・向こうは、大貴族だから、下級貴族家を潰す位は造作もないだろうね」
「理由なく出来るんですか?」
「今から6年前に中央で領地を持っていた下級貴族家が大貴族に潰されたことがあったんだよ。下級貴族家に落ち度はなく、大貴族が政敵の力を落とさせるために行ったことがあるんだ」
「お咎めがなかったんですか」
「うん・・・そのとおりだよ。ブライヒレーダー辺境伯の目的は」
怪我や病気を治す魔法薬の原料である薬草や動植物の素材であるとローラン兄さんは説明する。
魔物の領域内で取れる薬草。
それらは基本的に、地球で生薬の原料であったものと見た目的にはさして違いはない。
使用するとすぐに傷が塞がったり、病気が治ったり、果ては死人を生き返らせたりする魔法薬の材料となる点を除けばだ。
これらの材料の多くは魔物の領域で採取されるが、手に入れるには大きな危険が伴うので非常に高価であった。
「それに加えて、魔法薬作りの才能がある魔法使いが、その技術と魔力を注ぎ込んで手間ひまかけて作るからとても高価なんだよ。たとえ非常に高価でも実際に効果があるから欲しい人は沢山いる。材料はあればあるだけお金になるわけさ。天地の森には、ほぼ誰も入ったこともないからね。たとえ入り口近くでも、貴重な薬草や採集物が残っているはず。ブライヒレーダー辺境伯領内かその周辺にある魔物の領域は、すでに大半の場所に冒険者が足を踏み入れている。先々代のブライヒレーダー辺境伯様がお気に召すものがなかったのかもしれないね。それで天地の森を狙った」
乱獲に注意していても、すでに冒険者が足を踏み入れた場所より、まだ人が入ったことがない天地の森に期待したのか。
魔法薬の材料になる薬草の成長には、通常の薬草の何倍もの時間がかかる。
いくらブライヒレーダー辺境伯が乱獲を禁止しても、魔物の領域の中で冒険者たちがちゃんとルールを守っているのかなど、確認のしようがないのだから。
「それで大いに魔物たちを刺激してしまった挙句死んでしまったんだから、先々代ブライヒレーダー辺境伯もヘタを打ったよね。父はまだマシなのかも」
ローラン兄さんとしては、内心では先々代故ブライヒレーダー辺境伯に文句でも言いたいのであろう。
彼の我が侭に付き合った結果、ファブレ騎士爵家は、壊滅手前まで行ってしまい、ローラン兄さんはこの家を出る時期が大幅に遅れてしまったのだから。
そのせいで僕たちは、結婚パーティーのご馳走の材料を狩らされているというのもあった。
「今日は無事に終わったけど、あと三日間は狩りをしないと必要な量に到達しないから、根を詰めるのはよくないね」
「そうですね。はいどうぞ」
僕は、ローラン兄さんとハクカに差し出した。
「ルーク、それは?」
「途中でザクロを見つけました。甘い物は疲れにいいから」
「それはありがたい。冷たくて美味しいね」
「ハクカも食べていいよ」
「うん・・・おいしい」
ハクカの笑みに少しだけ見惚れた。
僕は採取して魔法で冷やしておいたザクロをハクカとローラン兄さんに渡した。
「これは美味しい。井戸水で冷やすと時間がかかるからね。魔法は便利でいいなぁ」
僕もローラン兄さんとハクカはオヤツの時間を楽しんでから、3人で獲物を載せたリアカーモドキを引きながら屋敷へと戻るのであった。僕たち3人で、猟師と同レベルまで獲物をとったのだ。
それから3日間、僕とハクカは、狩猟に精を出すことになったのだ。
そして五日後。
長い山脈越えののち、ようやくファブレ騎士爵領に到着したマリオのお嫁さんとその護衛一行が到着したのだ。
屋敷の前では、トールとアンとマリオがおり、マリオのお嫁さんと付き添いの女性が前に出た。
胸下まで伸ばしたオレンジ色の髪、黄色の瞳をした女性が右足を左足の後ろに引き、スカートを少し持ち上げたまま
「初めまして、ランスター騎士家の次女のティアナ・フォン・ランスターと申します。今年で15になります。よろしくお願いします」
ペコリ
と頭を下げて、挨拶をした。
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。当主のトール・フォン・ストラトス・ファブレです。こちらが長男のマリオです」
我がファブレ家も自己紹介をしていた。
「随分小さい弟さんがいらっしゃるのね」
「初めまして、ルークです」
「よろしくね、ルーク君」
ティアナさんが手を差し出してきた。
「はい、よろしくお願いします」
僕もティアナさんの手を握り握手をした。
「早速だか、式の日取りを決める」
「あ、はい」
マリオが挨拶を終わったのを見るとすぐさまティアナさんを促した。
僕もティアナさんから離れる。
後継者争いになるからマリオやティアナさんとも距離を置いたほうがいいかな。
僕は、森で採取をすることにした。
それを心配そうにティアナさんが見ていたのに気づかなかった。
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